第八三話「あの悪魔の所為で色々と滅茶苦茶になっているらしい」
「……それは頭の痛い問題だな」
ブルーメでの惨状を見た翌日、ベリアルの妨害も無く入城を果たした私とシャラは、謁見の間ではなく会議室で国王陛下にこれまでのことを報告していた。
陛下は頬杖をつき、もう片方の手で頭を押さえて呻いている。少しお痩せになられたかも知れない。
「……分かった、ブルーメの件は誤報を流した担当者を処断する、ということを触れに出し、指示に従った民へ補償を出そう。まぁ、その担当者は架空の者だが」
陛下は「出費が痛いな」と言いながら近衛兵に指示を出している。ベリアルがいつ城へ侵入するかも分からないので、陛下は城下で何かしらのルールが変更された場合はすべて自分へ報告するようにも指示を出しているらしい。お陰で公務が大きく滞っているとか。
「リーファよ、例の魔道具は残り幾つだ?」
「申し訳御座いません、陛下。私がサマエルさんに再度お渡しした分と、シャラの手持ち分しか残っておりません」
「ならば女神シャラの分を、近衛兵のギュンターへ渡してもよいか? 奴ならば上手く立ち回ってくれるだろう」
「……そうですね、シャラと私はサマエルさんと共に行動するでしょうし……シャラもそれでいい?」
「うん、かまへんよ。では陛下、私からギュンター様にお渡ししておきます」
流石は人を動かす頂点に居られるお方だ。すぐにリソースを無駄なく配置してくれるね。
それにしてもシャラは方言を使わずに喋れるんだな。当たり前か。
「して、サマエルはどうした?」
「私の手持ち分を使い、城下に潜伏しているベリアルを探しております。すぐに戻ってくると――」
「たっだいまー」
あ、元気に会議室の扉を開けて入ってきた。それにしても陛下の前でもいつも通りだよなぁ。扉の内側に居た近衛兵さんがびっくりして一瞬槍を構えちゃったよ。
「お帰りなさい、サマエルさん。結果はどうでしたか?」
「アイツ、相変わらず大教会に居るね。ま、天使には化けられないだろうから、シスターとかに化けてるんだろうけど」
「そうなのですか? 私が初めて対峙した時は天使の姿をしておりましたが」
うん、ばっちり男性の天使に化けていたよね。まあ、その時は神気ではなく魔力を放出していたので天使ではないと看破出来たんだけど。
「……あ、そういう意味ですか」
「うん、そういうこと」
「……余や女神シャラにも伝わるように話せ」
サマエルさんの言っていることの意味に気づいて、そういうことか、と納得した私を陛下が疲れた表情で睨んだ。ごめんなさい。
「王様たちにも分かるように言うとね、アタシやベリアルは悪魔なので身体から神気は放出出来ないんよ。だから天使に化けても、分かる人には分かっちゃうんだな。カナフェルちゃんとか大教会に居る天使が見たらソッコーでバレる」
「はぁ、なるほどなぁ。うちは神格でも放出出来るんは魔力やけどなぁ」
「身体から神気を放出するのは天使だけですね」
シャラはカナンにおわす神由来の存在ではないからね。地母神だし。
「と、そうです。陛下に伺っておかなければならないことが御座いました」
「何だ?」
「陛下、急ぎ許可を頂きたいことが御座います。サタナキアさんのお店にて、ベリアル探知の魔道具の作成を依頼しても宜しいでしょうか? 先ほど立ち寄りましたところ、お店にいらっしゃいましたので」
サタナキアさんのお店ならば、私の自宅みたいに魔道具を作る環境が整っているからね、魔道具屋だし。最初から持ち込まずにそうすれば良かったんだろうけど、まさか途中で妨害に遭って川にプレゼントするとは思わなかったからなぁ。
「サタナキアか……、あの女悪魔は正直それほど信用出来る存在とは思っておらんが……」
陛下は露骨に渋面を浮かべた。ま、まぁ、自分の欲望に忠実な姿しか陛下はご存知無いからねぇ。
「恐らく、わたくしが依頼をすれば口止めもして頂けると思います。今はわたくしの母上に忠実ですので、裏切ることは無いかと」
「……そんなことになっておったのか……、まぁ、あやつならあの悪魔も手懐けよう」
遠い目をして呆れる陛下。そう言えば陛下は昔の母さんをご存知なのだっけ。昔やんちゃしていたらしい陛下を更生させたって言ってたし、色々納得出来ることがあるのだろう。
「ならばサタナキアへあと一二個作るよう依頼をしてくれ。各省庁の大臣へ渡しておきたい。毎朝完成分を持ってきて貰えると助かる、と伝えてくれ」
「承知いたしました」
「今からひとっ飛びでアタシが頼んでこようか?」
気を利かせたサマエルさんが席を立とうとしたところを、私は手で制した。
「いえ、わたくしが直接お願いします。お気遣いを頂きありがとうございます」
一応大事なことだし、それにお願いするのは私だからね。そこは誠意を見せておきたい。
「して、ベリアルへの対処だが、天使メタトロンが急ぎこちらに向かっているとのことだ。後五日もすれば到着すると聞いておる」
「……滅ぼすのですね」
「そうだ」
御前の天使の筆頭が直々に来るということはそういうことなのだろう。まあ、サマエルさんほどの悪魔が苦戦するベリアルの相手ともなれば御前の天使でないと出来ないだろうしね。
◆ひとこと
陛下は「ルールを変えるという話があったら逐一俺に確認しろ」というルールで、逆にベリアルの動きを封じたようです。
でもそのお陰でとんでもなく仕事が増えているようです。当たり前ですよね。
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