表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
81/184

第八一話「犯人は……この中にいます!」

 橋の向こうにあるフィヒターの町で酒場に入り、サマエルさんを加えた私たち三人は、食事をしながら状況(じょうきょう)の確認をしていた。


「……つまり、橋を(こわ)したんはサマエルさんっちゅうこと?」

「ちょっとちょっとシャラちゃん声デカいから。バレたらアタシ殺されちゃうから」

「サマエルさんは殺しても死なんような気ぃするけどな……」


 うん、シャラと同じ意見だ。この悪魔さんは台所で時々見かけるアイツみたいにしぶといイメージがする。


「ちょいとリーファちゃん、今失礼なこと考えてなかった?」

「いえ、考えておりませんよ」


 ジト目のサマエルさんに聖女スマイルを返す。ここは(まわ)りの目もあるので聖女モードなのである。


「それで、何故(なぜ)そのようなことになったのですか?」

「あー、それが話すと長くなるんだけどねぇー」

手短(てみじか)にお願いします」

容赦(ようしゃ)ねぇなおい」


 (かま)っている(ひま)は無いのです。こちらも状況をお話ししないといけないので。


 サマエルさんは小さく溜息(ためいき)()くと、ぶー()れながらキュウリのスティックを(かじ)った。


「まぁ、簡単(かんたん)に言うとベリアルが待ち()せしてたんよ」

「ベリアルが……」


 してやられた。アイツはこちらが何かしらの手を打ってくると予想して王都の前で陣取(じんど)って居たのか。


不意(ふい)打ちを受けて魔道具(まどうぐ)たちは川の(そこ)にボチャン。そして橋の上空で元御前(ごぜん)の天使二人のガチンコ対決になって、無事橋には穴が空きましたとさ。ちなみに穴を空けたのはアイツのパンチでだかんね?」

「そ、そんな……リーファちゃんが夜なべして作った魔道具が……」

「アタシの心配もしてくれ、シャラちゃん」


 そうかー……魔道具が川の底にかー。ま、まぁベリアルの手に(わた)らなかっただけ(さいわ)いだと思おう。


「あっ……と、サマエルさんを本物かどうか確認することを忘れておりました。約束の地(カナン)に――」

「本物本物。なんならこの前聖女と女神がイチャイチャしてた時の内容を赤裸々(せきらら)(かた)ってみよっか?」

「…………やめてください」


 こ、このサマエルさんは本物だ、間違(まちが)いない。(すき)あらば(いじ)ってくるところとか、ベリアルまでそうだとは思いたくない。シャラも(ほほ)()めて(ちぢ)こまってしまっている。まぁ川に落ちそうな所を助けてくれた時点で本人確定なんだけど。


「んで、シャムシエルが居ないけど、どしたん? 死んだ?」

「亡くなっておりません。途中(とちゅう)の町でベリアルが仕掛(しか)けたと思われる鬼人(オーガ)族との内乱(ないらん)の種がありまして、そちらの対処(たいしょ)に残って頂きました」

「へぇ、あの生真面目(きまじめ)天使のシャムシエルがねぇ」


 意外そうなサマエルさん。確かに、以前までは亜人(あじん)に対しても偏見(へんけん)を持っていた(はず)の彼女が積極的(せっきょくてき)にあの役目を引き受けてくれたのはびっくりだよね。


「ちなみに、サマエルさんはなんですぐにうちらの元へ(もど)らんかったんや?」

「それはねシャラちゃん。ここでベリアルと戦った後、王都の大教会で(きず)(いや)していたからさ。ま、ベリアルにも手傷は()わせたし、やられっぱなしじゃなかったけどね」


 ベリアルが本気を出せば冗談(じょうだん)みたいに強いこのお姉さんでも苦戦するのか。いざ戦いになったら勝てるか自信が無いなぁ。それまでに何か使えそうな奇跡を()み出しておかないといけないな。


 しかし大教会で傷を癒してる悪魔ってどうなんだ。押しかけてきたサマエルさんに冷たい目で嫌味(いやみ)(はな)つカナフェル大司教(だいしきょう)猊下(げいか)とそれを華麗(かれい)にスルーするサマエルさんの姿(すがた)がありありと脳内(のうない)に思い(えが)けるなぁ。


「では、陛下(へいか)には(こと)次第(しだい)をお(つた)え出来たのですね?」

「うんうん、その辺は大丈夫。配るための魔道具は川底だけど、アタシの手持ちを王様に(ゆず)っておいたよ」

「わ、素晴(すば)らしいです。素晴らしいお仕事です、サマエルさん」

「んふー、もっと()めろー」


 陛下自身がお持ちならば、ベリアルが誰かに()りすまして陛下に近づいても(だま)されることは無い。サマエルさん、やるなぁ。


「それにしても、ベリアルはそれほどまでに強いというのに、何故(なぜ)(みずか)ら手を下さず、人々を(うそ)欺瞞(ぎまん)(おとしい)れるのでしょう?」

「あ、それはうちも気になるわ」


 今までのベリアルの行動からして、社会の破壊(はかい)が目的のように見えるんだよねぇ。だったら自分で手を(くだ)せば致命的(ちめいてき)な破壊をもたらせるんじゃ?


 でも、サマエルさんは私とシャラの考えを否定(ひてい)するようにかぶりを振った。


「そーれはちょっと勘違(かんちが)いしてるよ、リーファちゃん。(たと)えば何かを物理的に破壊したとしても、それが破壊されただけで、直せば終わるでしょ。でもね、嘘と欺瞞で社会の構造(こうぞう)を破壊するってのは誰かと誰かの信頼(しんらい)関係を壊すってことなんだ。それを修復(しゅうふく)するってのは簡単なことじゃないんだよ」

「……なるほど、後々まで(くすぶ)る問題だということですね」

「そういうこと」


 サマエルさんの言う通りだ。私たちが途中で立ち()ったベンカーの町でも税率(ぜいりつ)の引き上げに関して陛下へ文句(もんく)を言っていたおじさんが居たけれども、その不満(ふまん)は税率を元に戻せば元に戻る訳では無い。一旦起きてしまった混乱(こんらん)を元通りに収拾(しゅうしゅう)することは大変(むずか)しいことなのだ。


 ヴァールブルクの町でのこともそうだろう。恐らくベリアルが煽動(せんどう)したのだろう鬼人族と町の人たちの信頼関係も、大きく(そこ)なわれている筈だ。何しろ大きな怪我(けが)人まで出ている始末(しまつ)だし。


「それに、嘘と欺瞞で陥れるのはベリアルの美学(びがく)らしいよ。『こうやって直接手を下すのは僕の美学に反するのだけれどもね』……って橋の上でやりあった時にキザったらしいポーズ決めながら言ってた」

「………………」


 そんな美学、捨ててしまえばいいのに。


◆ひとことふたこと


久々のサマエル節です(笑)

大教会では決して浅くない傷を治していたためにカナフェル大司教を弄ることも出来なかったようで。


偽計というのは恐ろしいのです。

一度浮かんだ疑念はいつまでも燻り続けるので、誤解が解けても後々の関係に大きく響くのです。

それが上司などに化けた上でやられてしまっては、疑う余地もなくなるでしょう。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ