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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第八〇話「渡れるって言ってたし多分大丈夫だよね!」

 シャラの提案(ていあん)により、私は有事(ゆうじ)ということで王国の紋章(もんしょう)を使って(とりで)の先に進むことにした。とは言え橋はボロボロの状態(じょうたい)らしいので、(わた)るにはそれなりの覚悟(かくご)()るんだけど。


(もう)(わけ)御座(ござ)いません、アロイス様。ここまでお付き合いを頂きましたのに」

「いえ、聖女様! 王都までご一緒(いっしょ)出来ずこちらこそ申し訳御座いません!」


 馬をそのままにしておく訳にもいかないので、アロイスさんたちとは橋の手前でお別れすることになったのだった。この先五日ほどだけど、女神様と徒歩(とほ)で二人旅かぁ。王都が近いので治安(ちあん)は良い(はず)だけど、何も無ければいいなぁ。


「ディルク様、レオン様、ヴィンフリート様もありがとうございました。どうぞお気をつけてお(もど)り下さいませ」

「なんと勿体(もったい)無きお言葉! ありがとうございます!」

「聖女様もどうかお気をつけ下さいませ!」

「ふぁ、え&¥びゅ@$#!」


 お付きの三人の兵士さんたちにもお別れだ。相変(あいか)わらずヴィンフリートさんは何を(しゃべ)っているのか分からないけど……。


 四人が去って行った後、私とシャラの二人は(こわ)れた橋の現場へと急ぐことにした。橋へは一キロも無いと聞いている。暗くならないうちに渡らないと。


 ちなみに私たちは砦の一室を借りて(すみ)やかにいつもの服へと着替(きが)えさせて(もら)った。(なつ)かしい感じにくるりと回ってみる。うん、やっぱりこっちの方がしっくりくる。


 ……今更(いまさら)だけど、ワンピースに()れきってるよねぇ、私……。


「ん? どないしたん、リーファちゃん?」

「い、いや、なんでもない……」


 いかんいかん、ちょっとショックを受けていたのが顔に出ていたらしい。気を取り直して、と。


「そう言えばサマエルさん、ちゃんと届けてくれたかなぁ……」

「一日で着く言うてたし、もうとっくに陛下(へいか)にお渡ししてるんやないの?」

「そうなんだけどねぇ……」


 シャラの言葉にもなんとなく納得(なっとく)できない私は、もやっとした(こた)えを返すだけだった。


 だってねぇ、一日で着くって言ってたんだよね? だったらなんで戻ってこないんだろう? ちょっと(いや)な予感がするよ。


「シャムシエルも無事かなぁ……」

「まぁ、そうやな、危険な任務(にんむ)を引き受けたシャムシエルさんの方は心配やな」


 いくらシャムシエルが強いとは言え、相手は鬼人(オーガ)だ。戦いになれば剣士のシャムシエルでは苦戦するに(ちが)いない。そうならなければいいんだけど。


「それにしてもなぁ、なんで橋が壊れたんやろ?」

破壊(はかい)された、って砦の兵士さんははっきり言ってたよね」

「そういう(あと)があったんやろなぁ」

「……もしかしなくても、ベリアルの仕業(しわざ)だよねぇ」

「やろなぁ」


 私たちが王都へ向かうことを見越(みこ)して、唯一(ゆいいつ)の道を壊したんだろうね。本当に嫌らしいやり方をする悪魔だ。


 そんな話をしながら、私たちは橋の補修(ほしゅう)現場へと辿(たど)り着いた。現場監督(かんとく)さんらしき方に紋章を見せて事情を話す。


正気(しょうき)ですかい、聖女様? 確かに見た感じ通れないことも無いですがねぇ……かなり危険ですぜ?」

「それほどまでにですか?」

「ええ、足を()(はず)したら川まで()(さか)さまです。水面に叩き付けられたら命は無いと思ってください」


 現場監督さんがそんな(おど)しをするので、シャラの(のど)がごくりと鳴った。確かに、高い所から水に落ちると痛いって聞くねぇ。


 入り口であれこれ言っていても分からないので、私たちは壊れている現場へと案内して貰ったのだった。




「わぁ…………、これは見事やなぁ…………」

「………………」


 シャラと私は、橋の真ん中にぽっかりと空いた直径(ちょっけい)三メートルほどの穴を前に呆然(ぼうぜん)(たたず)んでいた。一体何をどうすればこんな穴が空くのか。いや、私が〈神の雷(ラミエル)〉あたりを使えばもっと大きな穴が空くんだけどさ。


 そして……なるほど、確かに橋の(はし)っこは渡れないことも無い。けれど(はば)は一メートルも無いぞ。これは歩くのが(こわ)いねぇ。頑丈(がんじょう)な石橋とは言え、こんな状態だからいつ(くず)れるかも分からないし。


「ほら、だから言ったでしょう」


 私とシャラが(おく)していると思ったのか、背後(はいご)から現場監督さんの(あき)れたような声が聞こえた。


 まぁ、()っ立っていても仕方が無い。行くか。


「シャラ、〈飛行(フライト)〉の魔術は使えますか?」

「それなら使える。リーファちゃんは?」


 うーん流石(さすが)に大魔術をぽんぽん使っていただけあるね。この女神様は(むずか)しいはずの〈飛行〉も使えるのか。


「わたくしはまだ(おぼ)えておりません……」

「なんであんだけでっかい奇跡つこうてるのに〈飛行〉はあかんのや……」


 う、うるさいな! ちょっと(はだ)に合わないんだよ!


「でしたらシャラは〈飛行〉で先に向かってください。……あぁ、お手数ですが、わたくしの荷物も(はこ)んで頂けますか」

「はいはい。――うちに大空を羽ばたく(つばさ)を与えよ、〈飛行〉」


 短い詠唱(えいしょう)とともに、シャラは〈飛行〉の術式(じゅつしき)展開(てんかい)し、さっさと私と自分の荷物(にもつ)を引っ()げて穴の向こう側へと飛んでいった。


「はぁー、あんな手があるのですな」

「そうですね……わたくしは出来ませんので、素直(すなお)に渡ることにいたします」

「へ? ほ、本気ですかい?」

「ええ、では行って参りますね」


 現場監督さんへにっこりと笑顔を返して、私は穴の左側へと足を踏み出した。臆していても仕方が無い。少しでも荷物は減らしておいたので、これで渡れないことも無い筈だ。


 幅は一メートル弱とは言え、これだけしか幅が無いとなると余計(よけい)(せま)く感じるものだね。


 ()らばっている石の残骸(ざんがい)を踏んで(ころ)んだりしないよう、一歩一歩を慎重(しんちょう)に歩く。いつの間にか向こう側の人たちも固唾(かたず)を飲んで私の様子を見守っていた。


「…………ん?」


 足下で何か音が?


 ミシミシって……ちょっと、(うそ)でしょ? 渡れるんじゃなかったの?


「リーファちゃん? なんで止まっとるんや?」

「…………いえ、足下で、音が――」



 と言った瞬間(しゅんかん)


 私の歩いていた場所は崩れていた。



 向こうでシャラが(さけ)んでいるけど、何を言っているのか分からない。やけに(まわ)りの時間の流れが(おそ)くなったような感覚を受けている。


 身体の自由は()かない。足が地面を求めるけれども、(ちゅう)()く。


「あ――」


 私は、落ちようとしているのか。


 このままだと、数秒で川の水面に叩き付けられ――



「おっとっと、ちょっと体重重いんじゃない? リーファちゃん」


 やけに懐かしい呑気(のんき)な声が聞こえたかと思うと、私は誰かに()()められて空中に(とど)まっていた。数秒(おく)れ、さっきまで私を(かろ)うじて(ささ)えていた石たちが川に飛び込む音がして、やっと私は正気に戻された。


「サ、サマエル、さん?」


 私を(かか)えていたのは、銀髪と褐色(かっしょく)の肌、そして一二枚の黒い翼を持つ、私の家族でもある堕天使(だてんし)だった。彼女はニッと笑ったかと思うと、私に向けて口を開いた。


「ごめんリーファちゃん、任務失敗しちゃったよ」


◆ひとこと


きっちりフラグを回収するリーファちゃんです(笑)

石橋は互いの石が力の均衡のとれた状態で組まれているので、一部が壊れているだけでも渡っちゃいけませんよ!


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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