第八話「違うってば」
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山へ向かう道には国の兵隊さんたちが駐留しているのだけれども、彼らも魔力吸収の影響を受けたらしく、倒れていない人は居なかった。
そして辿り着いた古代遺跡の入口で僕たちが見た光景は、俄に信じられないものだった。
「か、母さん!」
大木の陰に隠れるように身体を預けていた母さんに躊躇いも無く駆け寄った。左肩が血に染まっている。命の危険こそ無さそうだけど、軽傷とは言い難い傷だ。まさかあのルピアが〈魔剣のアナスタシア〉に傷を負わせたというのか!?
「まったくもう……、外では師匠と呼びなさいって言ってるのに……」
「そんなことを言っている場合ではありません! 一体何があったのですか!」
慣れた手つきで服を脱がせ、布をあてがって傷を塞ごうとしてくれているシャムシエルが叫ぶ。僕は昨日覚えたばかりの〈治癒〉の神術に専念することにした。
「件の魔族ちゃんと撃ち合いになってね……、向こうの方が手数も多くて、防壁を破られちゃったのよ……」
「……吸い取った魔力を使ったのか」
すぐそれに思い至った。昨日あの魔族は魔術ではなく槍を使っていたし、母さんの魔術防壁を破る数の魔術を行使したとあればとんでもない魔力量が必要になる筈だ。
「取り敢えず、応急処置は完了しました」
「ありがとう、シャムシエルちゃん。リーファちゃんももういいから、あの魔族の子を止めてきて」
「うん、分かった。母さんはここに居て」
〈治癒〉の神術を止めてすぐに古代遺跡の方へ向かおうとした僕だったけど、母さんが怪我をしていない方の手で僕の袖を掴み、それを止めた。
「言い忘れてた。リーファちゃん、あの魔族の子は傷つけちゃダメよ。あの子は操られているだけ」
「え……」
意外な情報に困惑してしまう。一体母さんは何処でそれに気づいたのか。
「たぶん、死霊が憑依してる。何の目的で憑依しているのかは分からないけど」
憑依か。そう言えば、あの魔族の子は存在が朧気だった。きっと複数の存在が重なっていたから、そういう見え方をしてたんだろう。それに気づかないとは、僕もまだまだだなぁ。
母さんの手を外し、安心させるように微笑んで見せる。
「……分かったよ、頑張ってみる」
「ええ、私の娘ですもの、きっと出来るわ」
だから娘じゃないってば。
◆ひとこと
使者の御霊というのは神の御許へ送られる、というのがこの世界の考え方ですが、死霊という存在も居るようです。
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