第七九話「え、これ詰んでませんか?」
※ここからリーファちゃんの一人称視点に戻ります。
ヴァールブルクで一日滞在し、翌朝南のネーベルベルクへと飛び立つシャムシエルを見送った後、私たち六人も王都への旅路を急ぐことにした。
ちなみに税率引き上げの話についても調査した結果、やはりベリアルがアルトナー侯爵に化けて触れを出していたらしい。緊急事態だったので聖女の名を使って面会の機会を頂き、事情を話しておいた。これで再び正常な税率について触れが回るため、ケルステン州の税率に関する混乱は沈静化する……筈。
さて、私たち六人は馬で真っ直ぐ王都を目指し進んでいたのだけれど……。
「あれは何だ?」
アロイスさんが小さく声を上げたのが微かに聞こえた。どうやら前方を見ての感想のようだったので私も目を凝らしてよく見てみる。
「……砦? あのような場所にありましたか?」
「いえ、聖女様。私も初めて目にしますね。このような場所に砦を建てるなど、報告は入っておりませんが……」
それは幅三〇メートルくらいの、街道沿いに建てられた木造の小さな砦と言えるような代物だった。勿論砦なので兵士の方々が駐留している。しかもまだ建造中のようで、忙しなく職人さんたちがお仕事をしていた。
そう言えばここってケルステン州とカレンベルク州の境くらい? ケルステンは私の自宅がある州で、カレンベルクは王都ヘルマーがある州だ。その境に砦を建てるとか、通行税か何か取るつもりなのかなぁ、やだなぁ。
「止まれ! 何者だ!」
私たちが砦を通り過ぎようとしたところで二人の王国軍兵士に止められ、誰何された。なんか既視感だな。ヴァールブルクでも同じような止められ方したっけ。
「いきなり何者かとは不躾だな。私はアロイス・ハイドリヒ・フォン・リーフェンシュタール。王国軍ケルステン州第三部隊の部隊長を務めている者だ」
「この先に何用だ?」
兵士の方はアロイスさんの身分に臆することも無く堂々と尋ねている。いや、何用も何も、ここから先に用と言えば普通は王都でしょ?
「我々は王都に向かっているだけなのだが」
「ケルステン州からカレンベルク州の街道は、現在封鎖されている! 別の道を通れ!」
「は?」
あまりに予想外の言葉に、アロイスさんだけでなく私たちまでもが間抜けな声を上げてしまった。
ケ、ケルステン州からの道が封鎖? どういうこと? またこの道の途中で『獣』でも復活したの?
「……封鎖とはどういうことだ?」
このまま通れないのも困るのでアロイスさんが食い下がる。うん、気になるよねぇ。確かこの先にはベルトローン川が立ちはだかっており、その上には我が国の名物の一つでもある石橋、ベルト大橋が架かっている。今日はその先にあるフィヒターの町に泊まろうと思ってたんだけど。
「ベルト大橋が破壊されている」
………………。
え?
すると、王都へ向かうためのルートが無いってこと?
「なあリーファちゃん、橋が壊れてるっちゅうことは、王都にも行けんっちゅうわけか?」
「……はい、そうです。ここから王都へ向かう道が閉ざされております。もし向かうとなれば、かなりの回り道となるでしょう」
アロイスさんは兵士さんに詳しいお話を聞いているけれど、どうやら石橋にはかなり大きな被害が出ているらしく、馬が通ることは出来ないらしい。人は荷物が軽ければ辛うじて通れないこともないが、渡るには危険があるとのこと。
「今ケルステン州、カレンベルク州の両側から総動員で補修に向かっているところだ。だが渡れるようになるまでどんなに早くても一ヶ月はかかる見通しだ」
「い、一ヶ月……」
アロイスさんが眩暈でも起こしたのか、ふらついている。私もおんなじ気分だ。
「……それで、この砦については?」
「再度この石橋を壊されてはならぬと、不審者を監視するための対応拠点とする、との王命だと聞いている」
「なるほど、流石は陛下、動きが速くていらっしゃる。……聖女様、如何なさいましょう?」
「……困りましたね、いえ、本当に……。我々はなんとしても王都へ向かわねばならないのですが……」
いや本当に困った。どうやって向かおう? と言ってもルートは一つしか無いんだけれど。
いったんヴァールブルクまで戻って、南東ではなく北東に向かって……結構離れた場所だけどツェッテル川の水運拠点があるので、そこからヘルマーまでは直接船で向かえば着く、筈。ただヴァールブルクの北東は険しい山道なんだよねぇ。馬は置いていかないとかもだけど……。
「なぁなぁ、リーファちゃん」
頭の中でうんうん唸って考えてると、ちょんちょんと肩をつつかれた。シャラだった。
「……え、はい、どうしました、シャラ」
シャラはどういう訳か、不思議そうな顔で私を見つめていた。
「橋、渡っちゃえばええんやないの?」
◆ひとこと
それなりに川幅の広いベルトローン川に架かっているベルト大橋ですが、かなり立派な石橋で、工事には数十年単位で掛かっています。
この時代においても川の渡り方は船が主流ではありますが、建築方法を確立してからは各地の運輸能力が飛躍的に上がったそうです。
昔の石橋の作り方とか、調べてみると色々と興味深いですよ。
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