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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第七九話「え、これ詰んでませんか?」

※ここからリーファちゃんの一人称視点に戻ります。

 ヴァールブルクで一日滞在(たいざい)し、翌朝(よくあさ)南のネーベルベルクへと飛び立つシャムシエルを見送った後、私たち六人も王都への旅路(たびじ)(いそ)ぐことにした。


 ちなみに税率(ぜいりつ)引き上げの話についても調査した結果、やはりベリアルがアルトナー侯爵(こうしゃく)に化けて()れを出していたらしい。緊急(きんきゅう)事態(じたい)だったので聖女の名を使って面会の機会を頂き、事情を話しておいた。これで再び正常な税率について触れが回るため、ケルステン州の税率に関する混乱(こんらん)沈静化(ちんせいか)する……(はず)


 さて、私たち六人は馬で()()ぐ王都を目指(めざ)し進んでいたのだけれど……。


「あれは何だ?」


 アロイスさんが小さく声を上げたのが(かす)かに聞こえた。どうやら前方を見ての感想のようだったので私も目を()らしてよく見てみる。


「……(とりで)? あのような場所にありましたか?」

「いえ、聖女様。私も初めて目にしますね。このような場所に砦を建てるなど、報告は入っておりませんが……」


 それは(はば)三〇メートルくらいの、街道(かいどう)沿いに建てられた木造の小さな砦と言えるような代物(しろもの)だった。勿論(もちろん)砦なので兵士の方々が駐留(ちゅうりゅう)している。しかもまだ建造中のようで、(せわ)しなく職人さんたちがお仕事をしていた。


 そう言えばここってケルステン州とカレンベルク州の(さかい)くらい? ケルステンは私の自宅がある州で、カレンベルクは王都ヘルマーがある州だ。その境に砦を建てるとか、通行税か何か取るつもりなのかなぁ、やだなぁ。


「止まれ! 何者だ!」


 私たちが砦を通り()ぎようとしたところで二人の王国軍兵士に止められ、誰何(すいか)された。なんか既視感(デジャブ)だな。ヴァールブルクでも同じような止められ方したっけ。


「いきなり何者かとは不躾(ぶしつけ)だな。私はアロイス・ハイドリヒ・フォン・リーフェンシュタール。王国軍ケルステン州第三部隊の部隊長を(つと)めている者だ」

「この先に何用(なによう)だ?」


 兵士の方はアロイスさんの身分に(おく)することも無く堂々(どうどう)(たず)ねている。いや、何用も何も、ここから先に用と言えば普通は王都でしょ?


「我々は王都に向かっているだけなのだが」

「ケルステン州からカレンベルク州の街道は、現在封鎖(ふうさ)されている! 別の道を通れ!」

「は?」


 あまりに予想外の言葉に、アロイスさんだけでなく私たちまでもが間抜(まぬ)けな声を上げてしまった。


 ケ、ケルステン州からの道が封鎖? どういうこと? またこの道の途中(とちゅう)で『(けもの)』でも復活したの?


「……封鎖とはどういうことだ?」


 このまま通れないのも困るのでアロイスさんが食い下がる。うん、気になるよねぇ。確かこの先にはベルトローン川が立ちはだかっており、その上には我が国の名物の一つでもある石橋、ベルト大橋が()かっている。今日はその先にあるフィヒターの町に()まろうと思ってたんだけど。


「ベルト大橋が破壊(はかい)されている」



 ………………。


 え?


 すると、王都へ向かうためのルートが無いってこと?



「なあリーファちゃん、橋が(こわ)れてるっちゅうことは、王都にも行けんっちゅうわけか?」

「……はい、そうです。ここから王都へ向かう道が閉ざされております。もし向かうとなれば、かなりの回り道となるでしょう」


 アロイスさんは兵士さんに(くわ)しいお話を聞いているけれど、どうやら石橋にはかなり大きな被害が出ているらしく、馬が通ることは出来ないらしい。人は荷物が軽ければ(かろ)うじて通れないこともないが、(わた)るには危険があるとのこと。


「今ケルステン州、カレンベルク州の両側から総動員(そうどういん)補修(ほしゅう)に向かっているところだ。だが渡れるようになるまでどんなに早くても一ヶ月はかかる見通しだ」

「い、一ヶ月……」


 アロイスさんが眩暈(めまい)でも起こしたのか、ふらついている。私もおんなじ気分だ。


「……それで、この砦については?」

「再度この石橋を壊されてはならぬと、不審者(ふしんしゃ)監視(かんし)するための対応拠点(きょてん)とする、との王命だと聞いている」

「なるほど、流石(さすが)は陛下、動きが速くていらっしゃる。……聖女様、如何(いかが)なさいましょう?」

「……困りましたね、いえ、本当に……。我々はなんとしても王都へ向かわねばならないのですが……」


 いや本当に困った。どうやって向かおう? と言ってもルートは一つしか無いんだけれど。


 いったんヴァールブルクまで戻って、南東ではなく北東に向かって……結構(けっこう)(はな)れた場所だけどツェッテル川の水運(すいうん)拠点があるので、そこからヘルマーまでは直接船で向かえば着く、筈。ただヴァールブルクの北東は(けわ)しい山道(やまみち)なんだよねぇ。馬は()いていかないとかもだけど……。


「なぁなぁ、リーファちゃん」


 頭の中でうんうん(うな)って考えてると、ちょんちょんと(かた)をつつかれた。シャラだった。


「……え、はい、どうしました、シャラ」


 シャラはどういう(わけ)か、不思議(ふしぎ)そうな顔で私を見つめていた。


「橋、渡っちゃえばええんやないの?」


◆ひとこと


それなりに川幅の広いベルトローン川に架かっているベルト大橋ですが、かなり立派な石橋で、工事には数十年単位で掛かっています。

この時代においても川の渡り方は船が主流ではありますが、建築方法を確立してからは各地の運輸能力が飛躍的に上がったそうです。

昔の石橋の作り方とか、調べてみると色々と興味深いですよ。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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