第七七話「幕間:シャムシエルの孤独な戦い 後編」
☆前回に続き三人称視点です。
「天使! 天使ィ! 居るんだろォ!? 出てきやがれ!」
それはシャムシエルも聞き覚えのある声であった。そして、明らかに正気を失っているような言葉は、先ほどまでシャムシエルが姿を晒していた窓の外から聞こえている。
「……あの声は、私を矢で射た少女だな?」
「レナか! 謹慎と言ったのに……見張りは何をしていた!」
冷静なシャムシエルと焦るレトの頭上の壁に、次々と矢が突き刺さっていく。同胞である鬼人が居ようがお構いなしに射かけているようであった。
「レト、あの少女はいつもあのような調子か?」
「とんでもない! いつもは内向的な少女だ!」
レトの答えに納得したシャムシエルは、拳を握ったり開いたりしながら、ふむ、と頷いた。そして、大きく息を吸い込む。
「〈隠された剣〉よ! 私へ矢を射かける鬼人の弓を斬り裂け!」
シャムシエルがそう叫ぶと、壁を挟んで隣の部屋からまるで家屋の天井が抜けたような轟音が響いた。リーファの師匠であるアナスタシアより譲り受けた彼女の〈隠された剣〉は、持ち主の指示に従い自動的に相手を攻撃する魔剣なのである。
寸刻後に窓の外から少女の悲鳴が聞こえたことを合図にシャムシエルが起き上がり、翼から神気を放出しながら下着姿のまま窓から飛び出す。
少女はシャムシエルの魔剣に弓の弦を切断され、慌てて直そうとしているようだった。が、弓の弦などそう簡単に直せるものではない。シャムシエルは隙だらけの少女に近づき、飛ぶ勢いを殺さぬまま顎に掌底を食らわせた。
「ふぅ……」
少女が気絶したことをシャムシエルが確認したところで、レトもやって来て、レナという少女を二人で見下ろす。
「一体、レナの身に何が……?」
「恐らく、ベリアルに操られていたのだろうな。こうなった人物……いや、地母神を見たことがある。きっちりと縛り上げておいた方が良い。これを治す方法は神の奇跡だけだ」
「神の奇跡だと……?」
レトが眉を顰める。彼も神の奇跡というものが一握りの天使、しかも神に許可されたものしか行使できないことは知っているのだ。
「神の奇跡を行使できる人間の少女を、私は知っている。彼女を連れてくるまではしっかりと監禁しておくことだ」
「……俄には信じられんが、貴女の言うことだ。嘘は言っていないのだろうな」
「ああ……、神に誓って……嘘は言っていな……い。…………う……」
シャムシエルがよろめき、片膝をつく。倒れ込みそうな彼女を慌ててレトが支えた。
「連れてくるも何も、まずは、その身体を治すところだな。以後、町との交渉は責任を持って我々が行う。シャムシエルは身体を休めていてくれ」
「くっ……リーファ…………無事でいてくれ…………」
激しく動いたことで身体に毒が回ったシャムシエルの意識は、再び閉じたのであった。
◆ひとこと
〈隠された剣〉がやっと本領を発揮してくれました。
一応こういった事態に対応するように、自動的に攻撃をさせるケースについても彼女は練習していたようです。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!




