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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第七三話「あ、あつくるしい」

「こうして再び聖女様のお役に立てること、騎士の(ほま)れと思っております!」

「あ、ありがとうございます、アロイス様。無理を言ってしまい本当に(もう)(わけ)ございません」

「何を(おっしゃ)いますか! 私は二度も聖女様に救われているのです! 必ずやこの大役(たいやく)()たしてみせましょう!」


 あ、暑っ苦しい。いつもながら暑っ苦しいよこの騎士様。


 私はベンカーの町に駐留(ちゅうりゅう)しているアロイスさんに、有事(ゆうじ)であることを理由に護衛(ごえい)()いて(もら)うようお願いしたのである。あまり聖女という権力を(かさ)に着て(たの)むのは好きじゃないんだけど、今回ばかりは仕方ない。


「ディルク様、レオン様、ヴィンフリート様もありがとうございます。道中(どうちゅう)はよろしくお願いいたします」

「は、はっ! 勿体(もったい)なきお言葉です!」

「必ずや無事に王都までお届けいたします!」

「ふぁ、ふぁ※ぶ#%@*!」


 私が一緒に来てくれたアロイスさんの部下三人に馬上から頭を下げると、三人はそれぞれ思い思いの返事をくれた。……部下まで暑苦しいのか。ヴィンフリートさんは緊張(きんちょう)のせいか言葉になっておらず、人間の言葉とは思えなかったけど。


「それにしても、リーファちゃんが馬に乗れるとは思わんかったなぁ」

「ふふ、わたくしは母上から色々と仕込(しこ)まれておりますもので」


 背後(はいご)から()き着くシャラに、私は余裕(よゆう)たっぷりで返す。このお馬さんも大人しいからね、乗りやすいので安心だ。いつものワンピースでは乗れないので、シャラも私も今はロングパンツルックの服に着替(きが)えている。


 シャムシエルはというと、優雅(ゆうが)に空を()っている。たぶん私たちよりもスピードを出せるのだろうけれども、合わせてくれているね。アロイスさんをはじめお付きの三人の(みな)さんも乗馬しているので、移動スピードも上がり当初の旅程(りょてい)とほぼ変わらなくなった。有難(ありがた)いことです。馬の飼料(しりょう)や食料など旅費(りょひ)については私が立て替えてるけど、後で城に請求(せいきゅう)するとしよう。


 そんなこんなで途中(とちゅう)の小さな町村(ちょうそん)に立ち()りながら川沿()いを進み、二日かけて私たち七人はケルステン州一の大都市、ヴァールブルクへと辿(たど)り着いた。




「止まれ!」


 町を(かこ)む高い(かべ)()えられた西門で、荷物(にもつ)のチェックのためか衛兵(えいへい)のおじさんに止められた。まあ、よくあることではある。


 けれど、何やらピリピリした雰囲気(ふんいき)を感じる。なんかイヤな予感がするなぁ……。


「この町に入る目的を答えよ!」

「私は王国軍ケルステン州第三部隊隊長のアロイス・ハイドリヒ・フォン・リーフェンシュタールだ。ヴァールブルクへは王都へ向かう中継(ちゅうけい)地点として経由(けいゆ)させて頂く」


 ()れているのか、高圧的(こうあつてき)な衛兵さんにもアロイスさんは(よど)みない回答を返している。州の部隊長だって言ってたし、たぶんアロイスさんの方がずっと(くらい)は上だよねぇ……あ、衛兵さんが急に背筋(せすじ)を伸ばして敬礼(けいれい)姿勢(しせい)を取った。やっぱりか。


「こ、これは失礼をいたしました!」

(かま)わない。馬が五騎、天使が一騎で通ろうとしたのだからな。任務(にんむ)遂行(すいこう)したまでだろう」


 ……うん、確かに馬が五騎、天使が一騎は(はた)から見て何かと思うよね。途中の町村の住人たちが(おのの)いていたのはそういうことだったのか。


「しかし、何やら剣呑(けんのん)な空気を感じるが……町で何かあったのか?」

「そ、それは……申し訳ございませんが、私の口からは申し上げられません」


 アロイスさんが(たず)ねるも、迂闊(うかつ)に他の人へ聞かせられないような話だったのか衛兵さんは(ちぢ)こまってしまった。


 ということは、それなりにセンシティブな問題がこの町で起きているということか。


「アロイス様、それにつきましては州知事のアルトナー(きょう)に直接お話を(うかが)った方が(よろ)しいのではないでしょうか? 例の件も御座(ござ)いますので」

「例の件……、あぁ、確かに。それもそうですね、聖女様」


 アロイスさんは一瞬(いっしゅん)考え込んだものの、意味を理解したようで(うなず)いた。


 例の件というのは、ベンカーの町で聞いた税率(ぜいりつ)引き上げの件である。あの風説(ふうせつ)流布(るふ)したであろうベリアルがただの一役人に()けてそれを行ったのか、それとも州知事に化けて行ったのかでは話が変わってくる。


「しかしリーファよ、州知事ともなれば多忙(たぼう)なのではないのか?」

「確かにそうですね、シャムシエル。さて、どういたしましょうか……」


 私が持つ王家の紋章(もんしょう)を見せれば無理にでもお話を伺うことは出来るだろうけど、そんなことはしたくない。それはホントのホントに最終手段である。私はあの先輩(せんぱい)聖女とは(ちが)うのだ。




「おっ、アロイスじゃねぇか」

「む……? ああ、ギルベルト先輩、お久しぶりです」


 道の(はし)に場所を(うつ)して私たちがああでもないこうでもないとやっていると、アロイスさんに声を()けてきた人がいたのでそちらを向く。ツンツン髪の野性味(やせいみ)(あふ)れた三〇歳くらいの騎士様がそこに居た。


「何やってんだ? こんな所で。……おい、このお方、もしかしてあの聖女様か?」


 私たちを怪訝(けげん)な表情でジロジロ見ていたギルベルトさんだったけど、どうも私を知っていたらしく、驚愕(きょうがく)のそれに変わった。


「アロイス様のお知り合いの方でいらっしゃるのですね。わたくしは王国の聖女が一人、リーファと申します。このような姿(すがた)で失礼いたします」


 私がいつものワンピース姿ではないので代わりに深々(ふかぶか)とお辞儀(じぎ)をすると、ギルベルトさんは瞳を白黒させてがばっと頭を下げた。


「こ、こりゃご丁寧(ていねい)にどうも。ってこたぁ本当にあの『(けもの)』を(ほろ)ぼした聖女様か。俺ぁギルベルトでさぁ」

「滅ぼしたのでは御座いません、神の御許(みもと)へ送ったのですよ」


 間違えているのでしっかりと訂正(ていせい)しておく。あの『獣』はただの迷える一匹の子羊だったからね。


「ああ……! 流石(さすが)は聖女様! あのような暴虐(ぼうぎゃく)の魔王に対しても(なさ)けをお持ちでいらっしゃるとは!」


 背後のアロイスさんがうるさい。ちょっと(だま)ってて頂けませんか。


「なぁ、リーファちゃん?」

「はい、どうしました、シャラ?」


 何やらシャラがこそこそと小声で話しかけてきた。なんだろう?


「アロイスさんが先輩言うてたし、この人、この町の騎士さんやないの? この町で起きとる問題を知っとるんやないか?」

「なるほど、そうですね。……ギルベルト様、少々お伺いしたいことが御座いますが、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」

「は、はっ、なんなりと!」


 う、うーん、さっきまで胡散臭(うさんくさ)いものを見るような態度(たいど)だったギルベルトさんは緊張でガチガチになっている。私は『獣』の騒動(そうどう)を終わらせた英雄(あつか)いだからなんだろうか。ますます正体がバレないようにしないとなぁ……。


「おい! 道を空けてくれ! 怪我(けが)人が通る!」


 ん?


 さあ詰所(つめしょ)で話を伺おうと移動を始めた時、西門から男性の大声が(ひび)いたのでそちらを向く。


「うわっ……なんやあれ……」


 シャラが思わず口元を(おお)ってしまったのも無理は無い。


 そこには満身創痍(まんしんそうい)だけでは言葉が足りぬほどの傷を負った兵士たちが居たのだ。中には(うで)を失くしている者まで居る。その人も(ふく)め、長くは()たないだろう方々ばかりだったのである。


◆ひとことふたこと


不幸なアロイスくんですが、貴族ということを鑑みたとしても、この若さで州の一部隊長というのはかなり凄いことです。

決してネタキャラではないのです、ええ。


リーファちゃんは『獣』騒動を収めた聖女としてかなり有名になっています。

が、何処に住んでいるのかなどは本人の希望で明かされてはいません。

なにせ村の人たちには正体がバレてるでしょうからね。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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