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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第六六話「セクハラはやめて頂きたい(再)」

「おかえり二人ともー、お風呂(ふろ)長かったねぇ」


 リビングへ(もど)ると母さんとアンナも起きてきていて、(すで)に朝食の準備(じゅんび)(ととの)っていた。


「う、うん」

「そ、そやな」


 私たちはサマエルさんへの返事(へんじ)もそこそこに、そそくさと食卓(しょくたく)へ着いた。


「……どしたの二人とも? なんか初夜(しょや)のカップルみたいな反応だけど」


 ぶっ!


 私とシャラは同時に()き出してしまった。な、なんてこと言うんだこの悪魔は!


「しょやってなあに?」


 う、純粋(じゅんすい)な瞳でアンナに見つめられた。「さ、さぁ?」と取り()えず返しておいた。教えられる(わけ)が無い。


「……サマエルさん? アンナの教育に悪いですからね?」

「はいッ! (もう)し訳ありませんッ!」


 母さんがニコニコ笑いながらも背中(せなか)に黒いオーラを立ち上げると、悪魔のお姉さんは椅子(いす)蹴飛(けと)ばし直立不動(ちょくりつふどう)謝罪(しゃざい)した。三〇〇〇年以上前に御前(ごぜん)の天使だった存在(そんざい)でもうちの母さんは(こわ)いらしい。


 (みな)が朝食を()り始めたところで、私は昨晩(さくばん)起きたことを話した。


「そうかー、ベリアルが復活しちゃったかー」


 サマエルさんは苦々(にがにが)しい表情を浮かべている。この悪魔のお姉さんが(いや)がるほどに厄介(やっかい)な相手なのだろう。


「そういうことだったのだな、リーファ。起こしてくれても良かったのだぞ」

「うん、そうすれば良かったと思ってるよ、失敗した」


 シャムシエルたちを連れていけば、ベリアルの復活までは(いた)らなかったかも知れない。……いや、どのみち時間的に間に合わなかったかな。それにあの狡猾(こうかつ)な悪魔のことだ、二手、三手と用意していたことだろう。


「それでリーファちゃん、シャラさんの精神操作(そうさ)なんだけど、()けそう?」

「あ、それはもう解いておいたよ、母さん」

「あら、我が娘ながら優秀で(うれ)しいわ」


 両手を合わせて顔を(ほころ)ばせる母さん。だから娘じゃないっての。


「シャラおねえちゃん、おかおまっかだよ?」

「へ!? そ、そうかな? 気のせいやないかアンナちゃん?」


 う、正面に座るシャラはさっきのことを思い出してしまったらしく、耳まで真っ赤になっている。彼女の(となり)に座るシャムシエルが不思議(ふしぎ)そうに瞳を(しばたた)かせているけど、その隣のサマエルさんは「何かあったな」とばかりにニマニマと私とシャラの顔を交互(こうご)(なが)めている。やめてくれない?


 私はいったん咳払(せきばら)いをして、話を戻すことにした。


「それでサマエルさん、ベリアルなんだけど、今後どういうことをしてくるか想像(そうぞう)つく?」

「んー、ベリアルなぁ。ラグエルから聞いてると思うけど、アイツ自身は何もしてこないんだよ」


 ベリアル自身も強大な力を持っているものの、彼自身が災害(さいがい)を引き起こしたり、誰かを(きず)つけたりなどはしないと言う。


 ただ、彼は人々や天使()(うそ)煽動(せんどう)する。それは只管(ひたすら)に社会の混乱を生み、だんだんと各地を(おか)していく(どく)のようなものだ。毒はやがて国家間の戦争の原因などに移行(いこう)してしまう。


「でも、嘘や欺瞞(ぎまん)など人間でもすることでしょう。サマエル様、何故(なにゆえ)にそこまでベリアルは危険な存在なのですか?」


 うん、シャムシエルの言うことも納得(なっとく)出来る。嘘や欺瞞を(かた)るのは何もあの悪魔に(かぎ)ったことではないだろう。


「リーファちゃん、ベリアルはどんな姿をしてた?」

「え? えーと、見目(みめ)(うるわ)しい男性の天使といったところかな」

「それはベリアルの姿(すがた)の一つでしか無いのさ。あの悪魔はその場その場で姿さえも虚飾(きょしょく)を見せる。だから人々や天使たちはヤツの言うことを信じてしまうんだよ。(たと)えば自分が信奉(しんぽう)する相手とか、上司とかの姿で出て来られたらどうする?」


 なるほど、確かに悪魔なのに天使の姿をしていた時点でもうおかしいもんなぁ。あの時天使の姿をしていたのは、私がちょうど奇跡を行使(こうし)していたからかも知れない。そうでなければどんな姿を()っていたのだろうか。


状況(じょうきょう)に応じて姿を変えるベリアルが居る、というだけで人々は警戒(けいかい)をして疑心暗鬼(ぎしんあんき)になってしまう。あれは悪魔すら(あざむ)き、それを見て(わら)うような存在からね。厄介なことこの上ない。だからアタシはアイツの復活には反対だったのさー」


 しかしベリアルは復活してしまった。これからは人々がベリアルの悪徳(あくとく)(おび)えながら()らさないといけないわけか。


「そういうことであれば場合によっては大捜索(そうさく)のために天使の軍団が来るかも知れませんね。だいぶ先になるとは思いますが」

「それは近隣(きんりん)諸国(しょこく)説得(せっとく)もあるでしょうし、シャムシエルさんの言う通りだいぶ先ね~」


 カナン神国(しんこく)神都(しんと)ハルシオンからはかなりの距離(きょり)があるからねぇ。それに軍隊(ぐんたい)を動かすとなると、ってことか。


 ベリアルは封印を解除(かいじょ)して(もら)えなかったことを根に持っていた。であれば、(うら)(つら)みの標的(ひょうてき)はこのエーデルブルート王国とカナン神国になるのだろうか。


「ふぁぁ~」

「おねえちゃん、おっきなあくび」

「あらリーファちゃん、みっともないわよ」

「う、ごめん。寝不足(ねぶそく)だからさぁ。朝食を食べ終わったら眠くなっちゃった」


 妹と母さんに笑われてしまった。仕方(しかた)ないでしょ、ゆうべはほとんど寝てないんだから。


「リーファちゃんも、シャラさんも、少し寝てきた方がいいんじゃない~?」


 うーん、母さんの言う通りだな。(いそ)ぎで作らないといけない薬とかも無いし、今日はゆっくりさせて貰うとしよう。


「そうするよ。シャラも寝る?」


 そう(たず)ねるも、おや、シャラは眠そうにしながらもぺちぺちとほっぺたを叩いている。


「う~、そうしたいのは山々なんやけど、今日も仕事が……」

「今日は色々あったんだし、お休みを貰った方がいいわよ~? という訳で、サマエルさん?」

「ほいほい、アタシが村に行くついでに伝えておくから、誰と約束したか教えてちょーだい」

「え、ええって、そんな――」


 遠慮(えんりょ)するシャラに、サマエルさんがぐいぐいと(せま)る。こういう時にこのお姉さんは(たよ)りになるというものだ。


◆ひとこと


ベリアルというのはとても美しい天使の姿で現れるそうです。

しかし、やはりそれは虚飾の一つであるそうな。

ちなみにソロモン王の魔神伝説では、何故か戦車に乗った双子の天使として現れます。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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