第六四話「見ることに慣れてしまったけど見られるのはご勘弁」
私は急ぎ近くの兵士の皆さんを起こし、その中でも封印の事情についてご存知のお偉いさんに経緯を話して、自宅へ戻ってからリビングの魔道具で王都ヘルマーへ連絡を取った。
「……なるほど、事情は分かった、リーファよ。カナン神国へも至急こちらから連絡をしておく」
「よろしくお願いいたします、陛下。封印を解かせてしまったこと、真に申し訳ございません」
「仕方あるまい。ベリアルと言えば狡猾を絵に描いたような存在と聞いておる。我々が想像もしないような手段を採ってくることが想定できていなかったことに原因がある」
国王陛下はまだ明け方という時間だというのに、すぐに通信に出て頂けた。メタトロン様があれほど警戒していた相手だということだし、陛下もこれは重大なことだと判断されたのだろう。
「して、女神シャラは?」
「はい、陛下。ここに居ります。迂闊にも操られてしまったこと、何とお詫びをすれば良いか……」
シャラは下山途中に目を覚ましたけど、自分が山で何をしていたかまるっきり覚えていないようだった。いつもの明るい表情も、今は沈んでしまっている。
「それはよい。リーファよ、女神シャラがこれ以上操られぬよう奇跡で浄化など出来ぬか?」
「……はい、調べてみます。わたくしもこのまま彼女がベリアルに良い様に操られるのは我慢なりませんので」
「うむ、頼んだぞ。では、追って対応を連絡する」
「はい、よろしくお願いいたします」
私は通信を切ると、小さく嘆息した。最近はのんびりできていたと思っていたけれども、思わぬ大きなトラブルが舞い込んできたものだ。
「……ごめんな、リーファちゃん」
「え? ……わっ! シャラ!?」
シャラはぽろぽろと涙を零していた。聞くまでも無く、自責の念に駆られているのだろう。
「うち……うち、二度もリーファちゃんを危険な目に遭わせてしもた……」
一度目はシャラが封印されていたライヒェ荒野でのことだろう。この優しい女神様は他人が傷つくのが我慢ならないのは一緒に暮らしていてなんとなく分かってきている。それを自分が知らぬ間にやってしまっていたのだから涙を流してしまうのも頷けるというものだ。
私はそっとシャラを抱き締め、嗚咽を漏らす彼女が落ち着くまで待ってあげた。
太陽はすっかり昇り、窓から朝の光が差し込む。寝不足だけど、今日はまだやる事がありそうだなぁ。
「あれ~? リーファちゃんとシャラちゃんがよろしくやってる? 二人とも泥だらけで抱き合ってどうしたの?」
「と、尊い……」
「……え?」
気付けば、起きてきたサマエルさんとシャムシエルがこちらを覗いていた。シャムシエル、だからとうといって何なの。それとよだれを垂らすな。
サマエルさんたちに事情を話そうとしたのだけれども、「取り敢えず先にお風呂へ入ってきなさい」と言われてしまい、シャラと二人脱衣場で服を脱いでいるのであった。
しかし、シャラの精神操作か……精神操作系の魔術は苦手だけど、そうも言ってられない。これ以上家族であるシャラがベリアルに好き放題やられるなど我慢ならない。どうしたものか……、母さんに相談してみようかな?
「あ、あの、リーファちゃん? それ……」
「え? ……わぁっ!?」
考え事をしながら下着を脱いだところで、顔を隠しながら私の股間を指さしたシャラの様子でやっと気づき、慌ててしゃがむ。ま、またついてる!? そうか! さっきシャラに神気を分け与えたから聖女の身体を保てなくなってるのかーっ!
「リ、リーファちゃん、どないして……その……そこが男の子に戻っとるんや……?」
「あ、あはは……、力を使いすぎるとこうなっちゃうんだ……。ごめん、シャラ。先に入ってていいよ。私はここで待ってるから」
慌てて私は服に手を掛けるけれども、シャラは一糸纏わぬ姿で、その手をそっと掴んだ。
「え、ええよ? 一緒に入ろ?」
「え、でも……」
「ええんや、……うちを一人にせんといて……」
「あ…………」
小さく震え、唇をわななかせるシャラ。
そうか、シャラは操られるのが怖くて、一人にはなりたくないのか。
「……わかったよ。でも、あんまり見ないでね?」
「あほう、それはこっちの台詞や」
少し元気が出た様子のシャラは、悪戯っぽく舌を出したのだった。
◆ひとこと
お風呂シーン多いな!(笑)
まあTSモノのお約束、みたいなものということで。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!