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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第六三話「虚飾の天使の正体を探れ」

 私が意識(いしき)を失っていたのは数秒だっただろうか。すっぽりと私の(ふところ)(おさ)まっているシャラの方はというと、こちらは瞳を閉じていた。


 しかし魔力が弱々(よわよわ)しい。あれほど魔力を(そそ)いでいたのだから当然(とうぜん)か。神である彼女は力を失うと存在(そんざい)自体が(あや)うくなるし、すぐに分け(あた)える必要があるだろう。


「主よ、公平の神よ、(めぐ)みを(ほどこ)(たま)え、〈神の慈悲(ミセリコルディア)〉」


 奇跡を行使(こうし)し、シャラへと魔力代わりの神気(しんき)(うつ)す。この奇跡、あくまで私とシャラの間に神気授受(じゅじゅ)のパスを作るだけなんだよね。だから彼女へは神の神気では無く私の神気を移していく。膨大(ぼうだい)な神気が必要になるけれど、聖女である私はこの程度(ていど)なら大丈夫だ。


「ほう? 人の子が奇跡を行使しているのか。興味(きょうみ)深いな」


 突如(とつじょ)頭上から降りかかった古代神聖語に、ハッと顔を上げる。


「てん……し……?」


 そこにはこの世の何よりも美しい、とでも表現したら良いだろうか、そんな美貌(びぼう)(かた)まである長い金髪、碧眼(へきがん)を持つ男性の天使が私を見下ろしていた。彼は普通の乙女であれば簡単に()ちてしまいそうな蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべている。


 ……いや、何かおかしい。この天使からは神気を感じない。感じるのは魔力だ。


「……どちら様ですか?」

「ふむ、名乗(なの)るならば自分から名乗るべきではないかな、お(じょう)さん」


 天使、いや、天使らしき何かは余裕(よゆう)の笑みを浮かべながら小さく肩を(すく)めた。正直(しょうじき)不審者(ふしんしゃ)に名乗りたくなんて無いのだけれど、彼が言っていることももっともだ。


 それに考えたくはないけど、彼の正体には心当たりがある。はっきりと確認しておきたい。


「わたくしはリーファと(もう)します。もう一度あなたの名前をお(うかが)いしてもよろしいですか? 『約束の地(カナン)におわす主の御名(みな)において真実を(かた)りますようお願いいたします』」

「……ふむ。僕はベリアルだ。しかしその一文を付け加えるとは、僕の正体に感付(かんづ)いていたと見える」


 やっぱり、大悪魔ベリアルだったか。


 ベリアルは主の御名を引き合いに出されると(うそ)を吐くことが出来ないとラグエル様から聞いていたので(ため)してみたけれど、上手くいったようだ。


 しかしベリアルの封印は王都より北にあった(はず)何故(なぜ)ここに(あらわ)れた?


「ああ、その表情は何故ここに現れたかと気にしているようだね。移動したのだよ、『(けもの)』の封印内をな」

「………………」


 ……まぁ、先を読まれたのは良い。


 けど、封印内を移動した? そんなことが出来るのか、この悪魔は。


 それに何故封印されていた身で『獣』のことを知っているんだ?


種明(たねあ)かしをするとこうだ。何やら最近『獣』に使われていた五つの封印のうち二つは()け、一つは消滅(しょうめつ)し、暴虐(ぼうぎゃく)の大魔王は復活(ふっかつ)した。そんな話をそこで眠っているシャラ経由で僕は聞いていたのだよ」

「……シャラに何か仕掛(しか)けていたのは、貴方(あなた)でしたか。それも封印内の経路(けいろ)を使ってですか?」

「そうさ、シャラは時々この空っぽの封印を使って僕へ干渉(かんしょう)していたのさ。そして今日、僕がここまで移動を終えたところで封印を解除して(もら)ったというわけだ」


 ……神の奇跡で作られた封印内を自在(じざい)に移動し、封印の外まで干渉する?


 何なんだこの悪魔は。何もかもが規格外(きかくがい)じゃないか。


 しかし、そうなると私たちが想像していた、「奇跡を行使する何者かがシャラに干渉を行っていた」というのは的外(まとはず)れだったということか。してやられたな。


「まぁ、そう(おどろ)くことじゃないよ。僕は一番目に作られた天使だったからね、色々規格外なのさ」

「……一番目はルシファー様と伺っておりますが」


 そう返すと、おや、余裕(よゆう)たっぷりだったその美貌がくしゃりと小さく(ゆが)んだ。どうやら()れてはいけない所だったらしい。随分(ずいぶん)とプライドが高いみたいだね、この大悪魔さんは。


「……まぁいい。それは()(かく)、僕だけ封印の解除をしてくれなかったなんて悲しいじゃないか。お礼をさせて貰おうと思ってね」


 そう言うと、ベリアルは(にせ)の天使の(つばさ)をはためかせて飛び上がった。その美しい顔には、見ていて不快(ふかい)になるような(いや)らしい笑みが()りついている。


「何をなさるおつもりですか?」

「何もしないさ、何もしない。僕はね。ただ……」

「ただ?」

「人類の(みにく)いところを、たくさん見て貰おうかな」


 ベリアルはそう言い残すと、うっすらと茜色(あかねいろ)()まり始めた東の空へと飛び立って行った。


◆ひとことふたこと


ミセリコルディアはラテン語です。

リーファちゃんと他者へのパスを作るだけで神の神気は与えません。

神の神気を受けすぎると聖霊化してしまったりと毒にもなるためです。

まぁシャラはそもそも神格ですが。


先に触れた「ベリアルに真実を話させる方法」がこれです(細かいことを言えば生贄も必要)。

とは言っても、これは聖書に記された内容ではなく、ゴエティアという魔導書に記載されている内容です。

ソロモン王の魔神が元ネタですね。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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