表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
61/184

第六一話「しまった、口が滑った」

 翌朝(よくあさ)、私とシャラはリリが世話をしているシュパン村の小さな畑へと()り出していた。〈刻示(ウォッチ)〉の魔術は朝七時半を示しており、ちょうど畑仕事が一段落(いちだんらく)するところだったようで、リリは農具(のうぐ)片付(かたづ)けていた。


「リリ、おはよう」

「あれ? リーファくん? どうしたの、朝早くから……そちらの方は?」


 農作業を終えて汗を(ぬぐ)うリリは、シャラの姿(すがた)を見て怪訝(けげん)な表情を浮かべた。女神様はと言うと人懐(ひとなつ)っこい笑みを浮かべている。


「リリ、こちらはシャラ。昨日からうちで一緒に()らすことになった女神様だよ」

「初めましてなぁ、リリちゃん。よろしゅうに」

「………………」


 あれ、何やらリリが頭痛を(こら)えるように無言で頭を押さえてしまった。どうしたのやら。


「……リーファくん、突っ込みたいところは他にもあるんだけど……また女の子が増えたの? これで何人目?」

「え? えーと……シャムシエル、サマエルさん、アンナ、シャラで……四人目?」


 いや、まぁ、「女の子が増えた」という意味で言えば私を入れて五人目なのだけれども、この会話の流れでは数に入れないのだろう。


「そもそもリーファくんのおうちってそんなに広くないよね? 六人も寝泊(ねと)まり出来るの?」

「あー……、シャムシエルとサマエルさんは元々客間(きゃくま)だったところを使ってて、アンナは母さんと一緒(いっしょ)に寝てる」

「……シャラさんは?」

「……え、えーと……」


 リ、リリの視線(しせん)が痛い。答えづらい。


「……私の部屋」

「リーファくんの馬鹿ッ!」

「うっ!?」


 な、何やら罵倒(ばとう)された!


「なんやー、リーファちゃんも罪な子やなぁ」


 後ろでシャラも溜息(ためいき)()いていた。な、なんだよう、二人とも……。




 気を取り直して、私はリリに何故(なぜ)シャラを畑へ連れてきたのか説明した。


「南方の地母神(じぼしん)様……? シャラ様ってお呼びした方が良いですよね……?」

「ええねんええねん、うちのことを様付けなんてせんといて。他の人間やエルフなんかと一緒に(あつか)ってもろてええから」

「さ、流石(さすが)にそれは……、でも、分かりました、シャラさん。アドバイスをよろしくお願いしますね」

「まかしときー」


 うんうん、早速(さっそく)リリもシャラに馴染(なじ)んでくれたようで、色々と畑を調べながら話している。この様子(ようす)なら大丈夫だろうか。


「せやから、畑の栄養(えいよう)()らんねや。このままやと十分に根が()らず失敗するで」

「えぇ……? リーファくんから(もら)った栄養剤は()いてるんですけど……」

「土の感じからするとそれは実の栄養剤やろ? 土の栄養には大きく分けて葉、実、根があるんや。それにこの作物は実の栄養だけを(あた)えすぎると実が()れてまう。どんな作物(さくもつ)も根の栄養は重要で、この作物の場合はその後葉と実の栄養を適度(てきど)に与えることが肝心(かんじん)や」


 ……なるほど、私があげた栄養剤が逆効果になっているのか。根に()く栄養剤も作って持ってこよう。あれは雑草(ざっそう)頑丈(がんじょう)になっちゃうから封印してたんだけど、大事な薬だったんだねぇ。


「そうなるといったん栄養が落ち着いてるとこに植え()えした方がええな。ちょい待ち、畑全体の栄養状態(じょうたい)を見たるからな」


 シャラは何処(どこ)(うれ)しそうに畑をぐるぐると回りながら色々と調べ始めた。……と、リリがこっちにやってきたぞ?


「リーファくん、シャラさんって(すご)いね。水をあげすぎだとか、栄養が足らないだとか、すぐに改善(かいぜん)しないといけない所を教えてくれる。流石神様だねぇ」


 リリは興奮(こうふん)気味(ぎみ)にそう語る。リリにも混じっているエルフという種族は、元々カナン教が(あが)めている神様が生み出したのではない。何処の神様が生み出したのかは分かっていないものの、だからだろうか、色々な神様や精霊(せいれい)の力を信じることに抵抗(ていこう)が無いらしい。


「そっか、リリに紹介(しょうかい)して良かったよ。……昨晩(ゆうべ)はシャラも、これからどう生きていけば良いか分からないってベッドの中で(なや)んでいたし」

「そうなの?」

「うん、理由は言えないんだけど、彼女は三〇〇〇年以上もの間眠っていたから、いきなり現代社会に(ほう)り出されて戸惑(とまど)っているんだ。そんな中でこうやって出来ることを見つけられたっていうのは彼女にとって良いことだと思う」

「そうなんだ……」


 嬉しそうに畑を調べているシャラを、リリは複雑(ふくざつ)な表情で(なが)めていた。シャラの事情は国家機密(きみつ)でもあるので話すことは出来ないけれど、それでも彼女が楽しく暮らせるようにリリが後押(あとお)ししてくれたらと思う。


「ところで、リーファくん?」

「……ん? ど、どうしたのリリ、なんか(あつ)を感じるけど」


 ニコニコ笑っているけど、どう見てもこれは怒っている。私ってば何かした?


「ベッドの中で、とか言ってたけど? まさか、一緒のベッドで寝ていたの?」

「………………」


 マズい、口を(すべ)らせていたらしい。



「よーしリリちゃん、ここら(へん)に植え替えするでー……って、どないしたんや二人とも?」


 シャラが一仕事(ひとしごと)を終えた時、私は畑の(すみ)でねちねちとリリのお説教(せっきょう)を受けていたのであった。




 そして二週間も()てばシャラのアドバイスの効果も覿面(てきめん)(あらわ)れ、農家の方々からあれやこれやと質問()めに()っている女神様の姿(すがた)があった。


◆ひとこと


うっかりリーファちゃんでした。

ちゃんとこの日、シャラ用のベッドを設置したようです(笑)


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 同衾を気にしちゃうあたり、リリはまだリーファちゃんを諦めてませんねww しかしまた女性陣が増えて大変そうだ……w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ