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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第六〇話「二人暮らしだった家はそろそろキャパオーバーなのですよ」

 当然(とうぜん)ながらうちは母さんと私の二人()らしを想定(そうてい)して()てられた家である。なので自室として使える部屋は当然少なく、シャムシエルとサマエルさんは客間(きゃくま)だった部屋を二人で使っている。アンナも寝る時は母さんの自室だ。


 そういう訳で、シャラが何処(どこ)で寝るのかと言うと、私の部屋しか無い(わけ)です、はい。


「リ、リーファちゃんと同じ部屋で寝るんやな……」

「ごめんねぇ、そろそろ建て()しをする予定ではあるけれども、(しばら)くはここで我慢(がまん)して頂戴(ちょうだい)

「い、いえ、気にせんといてください! ……とは言え…………」


 (もう)(わけ)なさそうにする母さんに(あわ)ててぶんぶんと手を振るシャラ。とは言え、の続きで言いたいことは分かる。私の部屋はそれなりに広いものの、魔術書の本棚(ほんだな)や研究のための作業場で(あふ)れているのだ。まずは片付けないと倉庫(そうこ)にある(そな)えのベッドが()けない。今日はもう(おそ)いから、それは明日の作業だ。


 つまるところ、今日は私のベッドで一緒に寝るしかないのです。


「今日のところはリーファちゃんと一緒(いっしょ)にガールズトークでも楽しみながら寝て頂戴ね~」

「母さん、私は中身が男なんだってば……」


 ()らんことを言いながら出て行った母さんに脱力(だつりょく)しながら、私はシャラの様子(ようす)(うかが)う。彼女は思わぬ展開(てんかい)硬直(こうちょく)してしまっているようだった。


「……えっと、どうしても(いや)なら今日は私が床で寝よっか?」

「そ、そんな! 部屋の(あるじ)にそんなんさせられへん! そんならうちが床で……!」

「いやいや、早速(さっそく)この家に来て嫌な思いはさせられないから、私が……」


 そんな堂々(どうどう)(めぐ)りの問答(もんどう)()(かえ)し、最終的にはやっぱり二人でベッドを使おう、という事に落ち着いたのだった。



「明かり、消すよ」

「う、うん」


 手元にある魔道具(まどうぐ)のスイッチを切り、部屋が暗闇(くらやみ)に包まれる。視覚(しかく)が閉ざされたために聴覚(ちょうかく)()()まされ、シャラの息遣(いきづか)いが鮮明(せんめい)()こえるようになった。


 暫く何を話すことも無く、そんな音だけの世界に二人、(つつ)まれていた。


「……なぁ、リーファちゃん」

「うん、なに?」

「うち、これから、どないすればええんやろなぁ……」


 それは不安が(こも)った言葉だった。


 シャラは三〇〇〇年以上眠りにつき、自分と仲間たちが作り上げた町を失ってしまったのだ。普段は気丈(きじょう)に振る舞っていても、やはり(こた)えるものがあったのだろう。


「……好きなように生きていいんだよ」

「好きなように……かぁ。そうやってまた(ゆた)かな町を作り上げても、また(こわ)されてしまうんやないやろか……」

「メタトロン様が信じられない?」

「せやけどなぁ……。町を壊すんは天使に(かぎ)った話でもあらへん。うちはもう、自分が作り上げたものが壊れていくのは(こわ)いんや」


 なるほど、シャラはトラウマになっているのか。無理も無い話だけれども。


 だったら、身近(みぢか)なところから始めてみるのがいいのかも知れない。


「あのさ、シャラにお願いしたいことがあるんだ」

「お願い? なんや?」

「シャラって豊穣(ほうじょう)の女神様なんだよね? 私の幼馴染(おさななじみ)の子が世話をしている畑があるんだけれど、毎年その家では新しい作物に挑戦(ちょうせん)してるんだ。でも、新しい作物だから当然(とうぜん)上手くいく確率なんて低い。その子にアドバイスをしてくれると(うれ)しい」


 幼馴染というのは私と同い年のハーフエルフ、リリのことだ。あの子の家は雑貨屋(ざっかや)だけど小さな畑もやっていて、そこでは毎年行商人(ぎょうしょうにん)から仕入(しい)れた作物(さくもつ)から()れる種を()いて、シュパン村に根付(ねづ)かせられないか(ため)しているのだ。他所(よそ)地域(ちいき)の種というのはノウハウが無いために手探(てさぐ)りでの栽培(さいばい)になってしまうのだけれども、上手くいったら村の名産物にもなるので重要なお仕事だ。


「アドバイス……? うちが力を行使(こうし)せんでええの?」

「結局のところ、作物に責任(せきにん)を持つのは神様じゃいけないと思うんだ。だから自分たちで育てられるようになるよう、アドバイスが()しい」


 もしシャラがこの地を(はな)れても安定して育てられるように、育て方を(おぼ)えるのが何より大切なことだろう。


 それに、もしかしたらあの荒野(こうや)にあった町から人が姿(すがた)を消したのは、シャラが力を行使していたために作物の育て方などを町民が知らなかったからかも知れない。


「どう? 出来るかな?」

「うん、やってみる。働かん訳にもいかんしなぁ」

「そうだねぇ」


 そんなことを言い、二人でクスクス笑い合ったのだった。


◆ひとこと


リーファちゃんいきなりのドキドキ展開ですね!(笑)


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] リーファちゃんやりますねぇ!! 役職としてじゃなくて、シャラさんその人を見てあげてる……!
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