第五八話「セクハラはやめて頂きたい」
「たっだいまー、帰ったよーん」
元気なサマエルさんの声と共に、私たちはシュパン村のはずれにある自宅へと戻った。もう季節も夏に変わり、山々に近いこの地域でも照り付ける太陽の暑さは変わらないので、早く旅の汗を流したい。
「はぇ~、ここがリーファちゃんたちの暮らしとるおうちなんやな~」
そして今回はシャラさん……いやシャラも一緒だ。国王陛下への謁見などを経て、彼女は城下町に居を構えて暮らすことを提案されたのだけれども、「リーファちゃんたちと一緒がええわ~」と言われて自宅へと案内したのである。
天使たちの勝手な言い分で封印されていたシャラはサマエルさんやサタナキアさんのようにこの先好きに生きる権利があるのだけれども、今は少しでも自分のことを知っている私たちと暮らすことを選んだらしい。寂しがりやなのかも知れないね。
ちなみに母さんには事前に魔術でシャラが来ることを伝えてある。なので諸々の準備はしてくれている筈だ。
「おねえちゃんたち、おかえりなさい! ……んぅ~?」
元気にお迎えをしてくれたアンナだったけれども、シャラの姿を見つけると、不思議そうに彼女の顔と私の顔を交互に見つめた。正体が分からずどう対応したら良いか分からないのだろう。
「アンナ、この方はシャラお姉さんだよ。今日から一緒に暮らすんだ」
「そうなの?」
「そうや~。今日からよろしゅうな、アンナちゃん」
「んぅ~、よろしゅうな?」
シャラの特徴的な言葉遣いが分からずにこてんと首を傾げたアンナの様子に、思わず私とシャラは顔を見合わせて噴き出した。可愛いったらもう。
「あらあら、みんなお帰りなさい。その方がシャラさんね」
とかやっていたら母さんもやって来た。夕方時なので夕食の準備でもしていたんだろうか。手伝いたいけど正直今はお風呂に入りたい。
「アナスタシアさんですか? よろしゅうに、今日からお世話になります」
「ええ、ええ、賑やかになって嬉しいわぁ」
考えてみれば四か月ほど前まではこの家には母さんと私しか住んでいなかったというのに、シャムシエル、アンナ、サマエルさん、そしてシャラと随分同居人が増えたものだ。……まぁ、アンナは魔族として、あとは天使、悪魔、女神なんだけれど。
「みんな帰ってきたのなら、夕食を四人分追加しないとね~」
「ね!」
母さんは久しぶりに賑やかな食卓に向けてやる気になっているようで、アンナも手伝う気満々で半袖なのに腕捲りのポーズを決めている。
「母さん、私も手伝いたいけど、先にお風呂入ってきてもいいかな?」
「勿論よ~、みんなでゆっくり旅の疲れを流していらっしゃい?」
言わずもがなといった様子で、母さんはニコニコ微笑みながらアンナを連れてキッチンの方へと戻って行った。まぁ、汚れた身体で料理を手伝おうとしても邪魔なだけだしね。
「……ん? シャラ、どうしたの?」
さて風呂場へ行こうとしたら、シャラが何やら顔を赤らめてもじもじしている。
「う、うーん……、その……リーファちゃんって……ほんまは男の子なんやろ?」
そうなのである。既にシャラには私が元男であることは話しているのだ。まぁ、これから一緒に暮らすのだから知っておいて欲しいよね。
「一緒にお風呂入るの……なんや恥ずかしいなって」
なんと。
この女神様はうちの天使と悪魔が捨てている羞恥心をちゃんと持ってくれているらしい、思わず感激してしまった。
「ほら! これが正しい反応なんだって! 二人とも分かってる!?」
「は? なんだなんだ、リーファが切れ散らかしているぞ」
「どしたんリーファちゃん、情緒不安定だねぇ。もしかしてあの日でも来ちゃった?」
弓やら鎧やらを片付けていた天使と悪魔に私が正しい羞恥心の在り方というものを説いてみせたものの、二人は怪訝な表情で首を傾げるだけだった。来てません!
◆ひとことふたこと
サマエル、サタナキア、シャラには神国より生活のための支度金がそれなりの額渡されています。
なのでサタナキアもお店を持つことが出来たのです。
聖女化以来、リーファちゃんにも定期的に「来て」しまうようです。せつない。
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