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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第五六話「いったいどこでその毒を浴びたのか」

 さて、三人の天使に(かこ)まれ、光の()(しば)られているシャラさんは相変(あいか)わらず憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべながら歯軋(はぎし)りをしている。目が()めたら何か状態(じょうたい)が変わってるんじゃないかと思ったけど、ダメだったよ。


貴様(きさま)()(ゆる)さん……許さん! 貴様等の首を()ぎ落とし、大地にその血を(そそ)いでやる!」

「いやお前いい加減にしろよ。そんな事言う(やつ)じゃなかっただろ」

「そうですね……。もっとおっとりした話し方で、自分のことも『うち』と呼んでいたような気がしますが」

「許さん……許さん!」


 ダメだ、メタトロン様とラグエル様が話しかけているけど、会話になっていない。二人とも(こま)っているようだった。


 と、同じく困惑(こんわく)の表情を浮かべたシャムシエルが私に手を振る、なんだろう。


「なあ、リーファ」

「はい、なんでしょうか、シャムシエル」

「この古代悪魔シャラは何かしらの(じゅつ)()かっているのではないか?」

「術……ですか」


 まあ、温和(おんわ)だった地母神(じぼしん)があれほどに(きば)()いているのだ。そりゃ、そういう話にもなるか。


 だけど、誰が? 彼女は今の今まで封印されていたんだぞ?


「私も少し気になるのです、(ゆが)んだ魔力と言いますか……そういったものが感じられます」

「ラグエル様? 歪んだ魔力……ですか?」

「はい、ほんの(わず)かなのですが、彼女とは(ちが)う魔力がこびり付いています。それによって(あやつ)られているのではないか、と思いました」


 ラグエル様がこう(おっしゃ)るということならば、その可能性が大いに考えられるのだろう。


 となると、彼女は封印される前から操られていたという事になるのだけれど――


「なるほど……ときにメタトロン様。このお方はメタトロン様が封印をされたのですよね?」

「ああ、そうだぜ」

「彼女は封印される直前もこのような様子でしたか?」

「……いいや、それまで通りだったな。『うちが仲良ぅした人間たちだけは(きず)つけんといてや』と最後まで町のことを心配していたな」

「そうですか……」


 なら、一体何処(どこ)で彼女は暴走(ぼうそう)するようになったんだ?


 まさか……封印されている間に? どうやって?


「リーファ?」

「……あ、すみません、シャムシエル。操られているのだとすると、どのようにして彼女に接触(せっしょく)したのかを考えておりました」

「そうか。でも、もし彼女を元に戻せるのならば、その後に()いてみるのが良いのではないか?」

「そうですね……、その通りです。――その流れを我に(うつ)せ、〈魔力探知(マナサーチ)〉」


 相変わらず(うら)(ごと)(つぶや)いているシャラさんに近づき、精密(せいみつ)術式(じゅつしき)意識(いしき)してから魔力の存在(そんざい)(さぐ)ってみる。


「……これは……なるほど……」


 確かに、(みょう)な魔力の欠片(かけら)が彼女の頭にこびり付いている。それは集中しないと見つからないように高度な隠蔽(いんぺい)()されており、私が〈魔剣のアナスタシア〉の弟子(でし)として魔力の(あつか)いに()けていなかったら見つからなかったかも知れない。これを仕込(しこ)んだ術者(じゅつしゃ)(うで)にも戦慄(せんりつ)する。仕掛(しか)けたのはかなりの手練(てだ)れだろう。


()けますか?」

「はい、ラグエル様。奇跡を使えばこの魔力片(まりょくへん)も問題無く消し去ることが出来ます。それで元に戻るかどうかは、()けでしか御座(ござ)いませんが……」

「ならばやるしか無いでしょう。このまま手をこまねいていても事態(じたい)悪化(あっか)しかしません」


 そうですねぇ。最初はメタトロン様だけに敵意(てきい)を見せていたのに、対象が天使、悪魔、人間と増えていった。そのうち世界になってしまいそうだし。


「主よ、(あわれ)れな贖罪(しょくざい)の羊を救い(たま)え、――〈祝福があるように(ベネディクトゥス)〉」


 丁寧(ていねい)構築(こうちく)した術式により、奇跡が放たれる。ちょうど魔力片のある場所から(けむり)が上がり始め、それと同時にシャラさんが苦しみ始めた。


「がっ、がぁぁぁぁぁ!」

(こら)えろ、シャラ!」


 苦しみのたうつシャラさんを、メタトロン様が押さえつける。彼女の頭から上がっていた煙はやがて(いきお)いを失っていき、それと共に彼女の表情は(おだ)やかなものになる。


「……あれ? うち……どないしたんや?」

「シャラ! 気が付いたか!」

「メタトロン……? あれ? うち、あれ……?」


 先程まで憤怒の表情を見せていた少女は、封印の〈制約(ギアス)〉を受けた光の環で縛られている状況の意味が分からず、困惑した表情でおろおろと(まわ)りを見回(みまわ)し始めた。


◆ひとこと


ベネディクトゥスはラテン語です。

さて、彼女はどこでこの毒を浴びたのでしょうね?


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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