第五五話「天の怒りが降って来る」
「天に満ちる第五元素よ! 私の怒りを形にして、邪魔な天使たちを討て! 〈彗星〉!」
これは……私が全く知らない魔術だ。しかし彗星と言うならば、上から降って来る?
「メタトロン、能天使シャムシエル、私の近くに!」
ラグエル様が天に向けて〈聖壁〉を生み出しながら叫び、メタトロン様とシャムシエルが慌てて彼女の傍に寄った。シャラさんの言うことに嘘偽りが無いのならば、狙われているのは天使だけなんだろう。そして、それにはシャムシエルも含まれるということか。
そして一瞬遅れ、光の雨が彼女たちに降り注ぐ。おいおい、こんなの一発でも当たったら洒落にならないぞ!
ラグエル様は歯を食いしばっている。どうやら見た目通りかなりの威力らしい。気を抜いたら〈聖壁〉が壊れてしまうのかも知れない。でも――
「私の怒りを形にして、爆ぜろ! 〈爆発〉!」
マズい、〈聖壁〉が上に向いている間に、シャラさんが横から再度大魔術を放った!
私は慌てて天使たちの前に〈聖壁〉を作り出そうと杖を向けた。無詠唱で造りが粗い分、厚いものにしないと!
しかし、シャラさんから放たれた火球は、その直後に爆発し、彼女は再度吹き飛んだ。あ、あれ? 一体、何が――?
「いやー、危ない危ない。あんなの当たったらシャムシエルどころか、御前の天使でも無事じゃ済まないでしょー」
「サマエルか! 恩に着る!」
「ふっふー、メタトロン、これは貸しだかんねぇ?」
サマエルさんが魔弓で射抜いたのか、違う角度から動く弾に当てたのだから、流石と言う他無い。
「貴様等……そうか、天使も、悪魔も、ここに居る人間も、そうか、私の、私の邪魔をするのかァッ!」
あ、悪魔と人間も標的に入った。
効くか分からないけれど、アレを使ってみるか……。
「聖霊よ、異端なる力の行使を止めよ、〈神域〉!」
魔術の行使を禁止する〈神域〉を、シャラさんを効果範囲内に収めるように展開する。普通の相手なら、これで事足りるんだろうけれど……。
「邪魔をッ、するなァーーーッ!」
うん、一点に魔力を注ぎ込まれてあっさり破られた。ダメかー。
――と、今度は私を睨みつけるシャラさん。あれ? 私ってば余計なことをした?
「主よ、許しを請う者に慈悲を与え給え、〈神殿の壁〉!」
「彼の者を貫き、耐え難き苦痛を与えろ! 〈苦痛の弾丸〉!」
シャラさんから真っ直ぐ私の心臓へと放たれた魔術の弾は、一瞬早く展開された奇跡により私の目の前で消し飛んだ。あ、危なかった。衝撃が殺せない〈神の慈悲〉を改良したこの奇跡を編み出しておいて良かった……。
「天に満ちる第五元素よ!」
あ、マズい。またあの〈彗星〉を使ってくるつもりか。それはちょっと防御に難儀しそうだから止めて?
「あの煩わしい小娘を――ぐっ!?」
「やれやれ、こうするしかないか」
今まさに大魔術が放たれようとしたところで、視界の端に居たメタトロン様の姿が掻き消えたと思ったら、次の瞬間、シャラさんの鳩尾に神剣の柄がめり込んでいた。もちろん御前の大天使様の仕業である。まさに神業だ。
「メタ……トロン……貴様…………」
悔しそうな表情を浮かべながら、シャラさんはゆっくりと前のめりに倒れ、メタトロン様がその身体を支える。
一体、温和だと言っていた彼女に何があったんだろうねぇ。
◆ひとことふたことみこと
コメットはシャラがおとめ座のモチーフになった女神であるため
おとめ座流星群をイメージして使わせました。これも大魔術です。
かつて神殿の西壁であったかの有名な嘆きの壁はヘブライ語でハコテル・ハマアラビーと言います。
ハコテル=The wall、だけで嘆きの壁を指します。単純に「西壁」でも嘆きの壁を指すようです。
ユダヤ教にとってはそれほど特別な存在なのですよね。
リーファちゃんはメタトロンの方を神業と言っていますが
サマエルの方も十分神業ですよね。
たぶん見慣れちゃったのだと思います(笑)
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次回は明日21時半頃に更新予定です!