第五四話「色々と話が違いませんか?」
さて、雑談しながら歩いていたら、すぐに目的の場所へと到着した。
現地はシュパン村近くにあった古代遺跡のように、兵隊さんたちが守っている。彼らも前もって話を聞いていたためか、来訪に驚くこともなく私たちに向かって最上級の敬礼をしてくれている。
「あの古代遺物が目的の封印です」
ギュンター様が指をさした先にあったのは、円状に置かれた岩の中心に、円錐状の形をした金属製の物体が埋まっている古代遺物だった。
「あれは……サマエルさんを封印していたものと類似していますね」
「っていうか、そっくりじゃん」
ですねぇ。表面に術式っぽいものが描いてあるのもそっくりだ。ちなみにこの術式っぽいものはダミーである。神から力を預かった能天使以上の天使か、私の奇跡でないと封印は解けない。
「シャラは俺たちが悪魔と呼んでいたものの、その土地では地母神と言われていた存在だ。温和だけど、一応警戒しておいた方がいいな。まぁ、俺とラグエル、サマエルが居れば何の問題も無いだろうが」
「お願いいたします。……ギュンター様、封印を解いても宜しいでしょうか?」
「はい、聖女様。こちらは準備が整っております。どうぞよろしくお願いいたします」
ギュンター様以下の近衛兵の皆様はこの場に残って警戒をされているけれど、封印を守っていた一般兵士の方々は遠く離れている。温和とは言え相手は強大な地母神だし、この対応は正解だろう。
「では、参ります。――主よ、罪の絆しに囚われた咎人へ、許しの恩寵を与え給え、〈自由を〉!」
久々に組み上げた奇跡の術式により生まれた数多の神気の糸が、私の手から古代遺物へと延びていく。
神気の糸が古代遺物に絡みつき、眩い光を放つ。光はゆっくりと人のような形をとってゆく。
「おいおい、ホントに奇跡だよ……。信じられるか? ラグエル」
「……この目で見てしまった以上、信じるしかありませんね……」
やがて光は落ち着いていき、果たしてそこには一人の女性が立っていた。
肩より少し下の方で切り揃えられたキラキラと光る白銀色の髪に、結構なスタイルをお持ちのその身体は、私と同じくらいの身長か、やや低めといったところか。美しい顔立ちから年の頃は私と同じくらいに見えるけど、見た目通りの年齢ではないんだろう。山吹色のドレスは、彼女が高貴な存在であるような印象を与えている。手に持った双頭のメイスが特徴的だ。
「………………」
地母神シャラであろう女性は目を閉じたまま、動かなければ、言葉も発さない。でも立ったまま死んでいる訳ではない。私の目には、彼女の強大な魔力が見えている。
仕方ない、こちらからコンタクトをとってみるか。サタナキアさんの時みたいにいきなりディープなキスをされたりしなければいいけど……。
「……あの、シャラさんでいらっしゃいますか?」
「………………」
私の古代神聖語の呼びかけには答えなかったものの、シャラさんは静かにその瞳を開けた。スカイグレーの瞳は私を一瞥したけれど、すぐに隣に立つメタトロン様を見上げる形で動かされる。
そして、その瞳は見開かれ、段々と怒りの表情を浮かべ始めた。
「メタトロン……!」
憤怒の籠った声で、シャラさんはメタトロン様を睨みつけた。あまりの怒りに、私は思わずたじろいでしまいそうになる。……あれ? 温和だって言わなかったっけ? 随分お怒りの様子なんですが……。
「そうだ、俺だ、シャラ。久しいな。あの時はお前を封じてしまい済まなかった」
メタトロン様が直々に封じたのか。そりゃ彼女が怒るのも納得だ。
「……町の周りに、人間の気配が無い?」
シャラさんは呟くと、ギリリと大きな歯軋りの音を立てて、メタトロン様を睨みつけた。
「お前たち天使が殺したのかッ!」
「は? いや、俺たちが殺したワケじゃなく、この町から出て行っただけだと思うぜ……? それにお前、なんか言葉遣いが……そんなだったか?」
「許さない……許さないッ!」
メタトロン様の言葉も届いていないようで、吠えるシャラさんの周りに魔術の光が集まっていく。あ、ヤバいな、これ。
「皆さん、下がってください! 〈聖壁〉!」
ラグエル様がシャラさんと私たちの間に神術で壁を作る。無詠唱でも造りが見事だ。流石だなー……って感心してる場合じゃなかった!
「私の怒りを形にして、爆ぜろ! 〈爆発〉!」
膨れ上がった魔力による大魔術が、シャラさんからメタトロン様に向かって放たれた。が、途中に建てられた〈聖壁〉に直撃する。
そして文字通り爆発。衝撃でシャラさん自身が吹き飛んだ。でもラグエルさんが作った〈聖壁〉はびくともしていない様子。すごい。
倒れていたシャラさんは、ゆっくりと起き上がった。そして変わらず憤怒の視線をメタトロン様……じゃない、今度はラグエル様に向けている。
「貴様も、私の邪魔をする天使かッ! 天使は何故私の邪魔をするッ! 許さない……許さないぃぃぃッ!」
温和な地母神と言うから対話のつもりで起こしたというのに、どうしてこんなことになっているんだろう? 御前の天使のお二方も困惑している様子だった。
◆ひとことふたこと
久々の奇跡、リベルタスはラテン語です。
この詠唱もレクイエムの一節から持ってきています。
エクスプロージョン出ました。すなわち爆発。
この世界の魔術体系では大魔術に入ります。ぽんぽん使えるのは凄いのです。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!