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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第五二話「女性限定情報屋のサタナキアお姉さん」

「……というわけなのです」

「はぁ、なるほど。シャラの封印を解除しに行くのですね」


 城下町(じょうかまち)の大通りに(かま)えている一軒の魔道具(まどうぐ)屋で、私はサタナキアさんを相手に溜息(ためいき)()きながら(こと)次第(しだい)を説明していた。ここは彼女が(あるじ)(つと)めているお店で、母さんと私が(つく)った道具や薬なども(おろ)している。


 なんで私がここに来ているかというと、この無駄(むだ)にエロい女好きのお姉さんはサマエルさんと同じ時代を生きていた悪魔であり、シャラという悪魔に(くわ)しいのではないかと思い話を(うかが)いに来たのである。実際、二ヶ月と少し前の『(けもの)』の騒動(そうどう)では彼女の情報に助けられている。


「それで、サタナキアさん。古代悪魔シャラのことについて何かご存知(ぞんじ)ですか?」

「んーーーー…………」


 おや、サタナキアさんが(しぶ)い表情を作って考え込んでしまった。サマエルさんは知らないようだったけど、このお姉さんでも微妙(びみょう)な反応をしてしまうような、知られていない存在なのか。


「ごめんなさいまし、リーファちゃん。シャラについてわたくしが知り()ていることは、『正確には悪魔ではない、カナン教にとって異端(いたん)の神である』ということだけですわ」

「悪魔ではない……、異端の神……」

「ええ、確かここより南方の地を守る神の一柱(いっちゅう)だった(はず)ですわ」


 ああ、なるほど。サタナキアさんが言っていることの意味が分かった。


 昔、天使の故郷(こきょう)であるカナン神国(しんこく)という国は、天使と人間以外の種族を認めておらず、異端として(あつか)っていたのだ。天使たちにとっては彼らが(あが)めている神こそが唯一(ゆいいつ)の神であり、他の神を信奉(しんぽう)する者たちを排除(はいじょ)していたという経緯(けいい)がある。


「確かに、『獣』の封印に力を使われていた五柱の悪魔の中で、お一方(ひとかた)だけ随分(ずいぶん)(はな)れた場所に封印の地がありますからね、サタナキアさんがご存知無かったとしても仕方のないことなのかも知れません」

「そうですわね、存在の所以(ゆえん)だけを考えれば『悪魔』と呼ぶのは間違(まちが)っているとは思いますけれども。彼女はれっきとした『神』ですわ」


 彼女、ということは女性神なのか。それにしても神様なのに下界(げかい)()わすんだねぇ。そういう神様も居るということか。


「おねえちゃん、みてみて、これきれい!」


 と、アンナが(うれ)しそうにお店の片隅(かたすみ)に置いてあった売り物の硝子(がらす)細工(ざいく)を持ってきた。高そうな逸品(いっぴん)なので落とさないよう(あわ)てて私が手を()える。


「本当、綺麗(きれい)ですね、アンナ。ですが、落としたりしたら割れてしまうものですので、(たな)から取り出してはいけませんよ」

「んぅ~、わかった……」


 しょんぼりと顔を落としてしまった。ちくりと(むね)が痛むけど、きちんと危ないものは危ないと理解して(もら)わないといけないので心を鬼にする。


「ふふ、アンナちゃん。そんなお顔をしてはいけませんわ。リーファお姉ちゃんはアンナちゃんが怪我(けが)をしたりしないようにそう言ってくれているのですわよ?」


 おお、ナイスフォローだサタナキアさん! ただの脳内(のうない)ピンクなお姉さんじゃないんですね!


「……リーファちゃん? 何か失礼なことを考えてません?」

「…………カンガエテマセンヨ」


 しまった。(にら)まれたので思わずそっぽを向いて棒読(ぼうよ)みしてしまった。なんで私の考えてたことが分かったんでしょうね?


「そう言えば聞きたかったのですけれども、リーファちゃんとお姉さまは何故(なぜ)王様に召喚(しょうかん)されたのです? 聞けば、封印の解除が本目的ではなかったということですけれども」

「え、えー……、それは……」


 う、うーん、このお姉さんに私の正体が男であることがバレると良くない未来が待っていそうな気がする。だってこのお姉さん、相手が男だと露骨(ろこつ)態度(たいど)を変えるんだよね……。ゴミでも見るような瞳になるから今後こうやって協力してくれることも無くなってしまうかも知れない。まぁ、そんな瞳で視られるのを楽しみにしているお客さんも居るみたいだけど……。


「サタナキア、残念ながらそれは口外(こうがい)出来ないのよ~」

「あら、お姉さま。そうですの、それでしたら仕方ありませんわね」


 あ、(うら)在庫(ざいこ)をチェックして次の納入(のうにゅう)数を決めていた母さんが言ってくれたお(かげ)でサタナキアさんはあっさりと引き下がってくれた。


「はい、サタナキア。次の納入数はこんな感じでいいかしら?」

「ん~……、お姉さまもリーファちゃんに同行すると考えましたら、(しばら)くシュパン村のご自宅には戻られないのですわよね? でしたら、次に納品(のうひん)を頂けるときはもっと在庫が減っていると思いますので、多めに……」

「いえいえ、私とアンナちゃんはリーファちゃんと一緒には行かないわよ~」


 え、そうなの? 初耳なんだけど。


 まぁ、アンナのことを考えたら、二人は先に自宅へ戻ってくれた方が良いかも知れないね。


「そうでしたの。でしたらこのくらいでも大丈夫ですわね。ご自宅へ戻られる(さい)はわたくしもご一緒させて頂きますわね」

「……そんなにしょっちゅうお店を離れていても良いのですか?」


 在庫の確保(かくほ)というよりは、母さんと一緒にいたいというのが目的なんだろう。この悪魔さん、この二ヶ月ほどで三回もシュパン村に来ていたけど、店員さんにお店を全部(まか)せっきりで大丈夫なのかな……?


「良いのですわ、わたくしも男性客は相手にしたくありませんし」


 うーわ本音(ほんね)が出た。そう思うのならもうちょっと過激(かげき)な服は(ひか)え目にした方がいいと思うんだけど。それ目的で来ているお客さんとか居るだろうしさぁ。


「あ、そうです。サタナキアさんにもう一つお聞きしたいことが」

「あら、なんですの?」

「ベリアルの――」

「男の悪魔になんて興味(きょうみ)ありませんわ」


 あ、そうですか。



 それから五日後、王城に滞在(たいざい)していた私へと、正式に古代悪魔シャラの封印解除について陛下(へいか)から勅命(ちょくめい)(くだ)されたのだった。


◆ひとこと


さて、シャラですがユダヤ教系列の存在ではありません(サタナキアも厳密には違いますが)。

シャラは古代シュメール文明の大地母神の一柱であり、穀物と思いやりの女神で、実はおとめ座の原型となった存在なのです。

ちなみに古代シュメールには同名(日本語にするとですが)の男性神が居ますが、そちらは牧畜神。ややこしい。

一柱だけ別文化の存在にしたのは、封印の場所が天使の国であるカナン神国と離れていたからという理由もありますが……?


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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