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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第五一話「その封印解除、ちょっと待った方がいいんですって」

 さて、御前(ごぜん)の天使のお二人もこの後予定があるかも知れないし、私と話をしたいという事なので、早速(さっそく)本題に入ろうか。


「お二方(ふたかた)とも、カナン神国(しんこく)から遠路(えんろ)はるばるエーデルブルート王国までようこそいらっしゃいました。わたくしに話を聞きたいということは(うかが)っておりますが、どのような件かお伺いしてもよろしいでしょうか」

「おう、聖女リーファ。今回はお前と話をするのが目的だったからな、帰っちまう前に会えてホッとしてるぜ」


 え……このお二方、神都(しんと)ハルシオンからわざわざ私に会うためにやってきたの?


 しかし……私が陛下(へいか)から召喚(しょうかん)を受けたのが一五日前だし、天使でも一ヶ月はかかる行程(こうてい)を半分の時間でやって来たのか。流石(さすが)だ。


「そ、それは……恐縮(きょうしゅく)です……」

「まぁ、そんな気張(きば)らずにいこうや。ラグエル、(たの)む」

「分かりました、メタトロン。聖女リーファよ、先の『(けもの)』の一件、我々に()わり解決をして頂きありがとうございました」

「あ、いえ、自分に出来ることをやったまでですので」


 その件か、やっぱり。


 いや、『獣』の件というより、アレだろうなぁ。


「……それで、その身が人の子でありながらも神の奇跡を行使(こうし)出来るようになったとは、(まこと)ですか?」

「…………はい、間違(まちが)御座(ござ)いません。神より力をお借りして、『獣』にも神炎(しんえん)などで対抗いたしました」


 私は能天使(パワーズ)のシャムシエルが神の代理として行使した奇跡により、自身も神の力をお借りして奇跡を行使出来るようになった。私が魔術師として研鑚(けんさん)()んできたということに加え、奇跡を身に受けた時にその術式(じゅつしき)を一部解析(かいせき)したからなんだけど。


 しかもそれは代理としてではなく、()のままに(あつか)える(じゅつ)だ。この目の前にいらっしゃる御前の天使のお二人ですら、神より力を(あず)かった上で、しかも決まった奇跡でないと行使することは出来ない。


 つまり私は存在そのものがイレギュラーであり、御前の天使が会いに来るということも納得(なっとく)出来ることなのである。


「……はぁ。話には聞いておりましたが、本当なのですね。こんな可憐(かれん)でか弱い人間の乙女が、我々よりも(はる)かに強大な力を持ってしまうなんて……」


 溜息(ためいき)()いて(なげ)くラグエル様。うーん、(よろい)を着ているとはいえ、見た目だけならラグエル様も私くらいか弱そうに見えるけど、そうじゃないんだろうねぇ。何しろ世界が生まれた頃くらいから生きているんだろうし。


「確かに強大な力ではありますが、私はこの力を進んで使うつもりは御座いません。『獣』との戦いでは奇跡を行使し過ぎて身体が聖霊(せいれい)に近づいてしまいましたし、何より強い力を持つ存在はそれを管理する責任も大きい、と昔から母に(きび)しく教わっておりますので」


 ふぅむ、と(うな)りながらメタトロン様はソファに背中を預ける。そして何処(どこ)(うれ)しそうな表情で天を(あお)いだ。


「なるほどな、リーファは母親に(めぐ)まれているようだ」

「はい、自慢(じまん)の母で御座います」


 ちらりと母さんを見る。ちょっと(ほこ)らしげな表情をしていた。


「とは言え、全く行使することが無い訳でも無いんだろう? 王都への召喚のついでに、俺たちが封印した残り二人の悪魔を復活させると聞いている」

「……ご存知(ぞんじ)でしたか。そうです、古代悪魔シャラと、古代悪魔ベリアル。この二体の悪魔は封印されている理由も無くなったので、封印解除を検討していると陛下は(おっしゃ)っていました」


 かつて御前の天使が『獣』を封印するための力を得るため封印した五体の悪魔のうち、(すで)にサマエルさんとサタナキアさんは復活済み、アバドンは消滅(しょうめつ)している。


 しかし『獣』は既に神の御許(みもと)へと送られてしまったため、残る二体の悪魔も封印しておく理由が無いのである。


「んー、やっぱり、そうなのか。しかしシャラはむしろ人類に好意的(こういてき)なので良いが、ベリアルはなぁ……」

「そうですね、ベリアルは……」

「そうだねぇ、アイツはちょっと、アタシも復活させるのは反対だなー」


 メタトロン様は天を仰いだまま顔を(おお)っており、ラグエル様も(しぶ)い表情を作っている。(さら)に同類の悪魔であるサマエルさんまでもが反対するって……ベリアルってそんな嫌われてるの?


「古代悪魔ベリアルには、何か問題があるのですか?」

「問題しか無いな。奴はかつてのサタン以上に厄介(やっかい)な存在とも言える。元同僚(どうりょう)とは言え、奴ほど狡猾(こうかつ)な悪魔は居ないだろうからな」


 え、えぇ……、かつて魔王の中の魔王と呼ばれたサタンより厄介な悪魔ってメタトロン様に言わしめるなんて……って、ベリアルも元御前の天使だったの?


 そう聞いてみたら、メタトロン様から「神が創造(そうぞう)した二番目の天使だった」と言われた。知らなかったよ。ちなみに一番目が南の大帝国を治めている魔帝(まてい)ルシファー、つまりかつてサタンとも呼ばれていた悪魔だというのは知っている。どっちも悪魔に()ちちゃったんだねぇ。


「そういう事ならば、シャラは良いですが、ベリアルの封印解除は待って頂くようエーデルブルートの王に申し上げなければなりませんね。下手をすれば、『獣』以上の混乱を(まね)く恐れがあります」

「それほどまでにですか……」

「ベリアルは(うそ)や不正をもって人類や天使を堕落(だらく)させる狡猾な悪魔です。天使を監視(かんし)する役目を神から与えられている私は、随分(ずいぶん)と彼に()()を飲まされました」


 ラグエル様は天使が堕落しないように監視する役割を(にな)っているのだそう。だとすると、一〇〇人単位で女性の天使を堕落させたサタナキアさんとか、そうとう目の(かたき)にしていそうだ。


「それでいこう、ラグエル。それとリーファ、シャラの封印を解除する時は俺たちもついていって(かま)わないか? 奇跡の行使をこの目で見たい」

「は、はい、勿論(もちろん)です。陛下のお(ゆる)しが有れば、ですが」


 うむ、相手が御前の天使とは言え、そのあたりは私の一存(いちぞん)で決める訳にはいかないからね。


「ああ、その辺は王に直接話させて(もら)うさ。という訳でカナフェル大司教(だいしきょう)謁見(えっけん)許可(きょか)を頂くために一筆(いっぴつ)頼む」

承知(しょうち)しました」


 相変わらず半目で何を考えているか分からない大司教猊下(げいか)が短く答え、ハロムさんに指示を出している。猊下が大司教の仕事をしているところを初めて見たかも知れない。


◆ひとこと


ベリアルはサタン(=ルシファー)、ベルゼブブに次いで有名な悪魔かと思います。

御前の天使たちが話す通り嘘と不正で人々を堕落させます。

この悪魔、ソロモン王の魔神でも序列68位の王として君臨しており、召喚されてもやっぱり嘘ばっかり吐きます。

ですがこの悪魔に嘘を吐かせない方法があります。……それは後述しますね。

名前はヘブライ語でずばり「悪」。尖ってますね!


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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