第五話「うちの母さんは順応力が高いのかそれともこの状況をただ楽しんでいるのか」
家へ戻った僕たちは、早速リビングで母さんに事の次第を報告していた。
母さんは暫く考え込むような仕草をしていたけど、報告を聞くにつれて段々と眉を顰めていった。
「そう、こんな辺鄙なところにあるあの遺跡に目を付けた者が居るのねぇ」
やっぱり母さんはあの遺跡の正体を知っているみたいで、ふぅ、と小さく溜息を吐いた。
「母さん、あの遺跡って一体何なの? いつも兵隊さんたちが警備してるよね」
「古代悪魔の封印よ。どんな悪魔が封じられているかは私も知らないわねぇ。たぶん王族あたりは知っていると思うけど」
え、軽い気持ちで尋ねたら意外な話が返ってきたぞ? 古代悪魔の封印だって?
「悪魔ですか……? 封印されるほどの悪魔と言うと、余程の相手ですね……」
シャムシエルが唸っている。悪魔と言ってもピンキリだもんねぇ。彼女の言う通り、封印しないといけないレベルの相手は危険な臭いがする。
「でも、前に見に行った時は特に魔力を感じなかったよ? 描かれた紋様も特に術式って形じゃなかったし」
「あれは魔術でも神術でも無い、神の奇跡によって封じられているの。紋様は封印を解こうとする人を混乱させるためのダミーよ」
なるほど、魔術ではなく神の奇跡で封じているのか。僕も見事に騙されていたってことね。
あれ? でも神の奇跡ってことは……
「ねえ母さん、それってもしあの魔族の子が封印を解くことを目的としていたとしても、放っておいても大丈夫なんじゃ? 神の奇跡なんでしょ?」
神の奇跡ということであれば、それを解除するのに同等の神の力が必要になる筈だ。だとすると、シャムシエルのような能天使か力天使、またはそれ以上の奇跡を行使できる存在を連れてこないといけない。でも天使がそんな協力をする筈無いし、奇跡だって神からの代理としてしか行使出来ない者がほとんどだろう。
「魔術師は物事を常識で測っちゃダメっていつも言っているでしょう? 何かしら封印を解く手立てがあるから狙ってきているんじゃない。それに奇跡を破れるような膨大な魔力があれば封印だって消し飛ぶわよ。まぁ、普通は出来ないでしょうけど」
「……そうだね、その通りだ」
母さん、いや師匠に窘められて縮こまる。仰る通りです、はい。
「さて、そういうことで日が暮れる前にリーファちゃんとシャムシエルちゃんにはやってもらうことがあります」
「「やってもらうこと?」」
母さんにビシッと指をさされ、僕とシャムシエルは声を揃えて鸚鵡返ししてしまう。
それにしてもリーファちゃんと呼ぶのは勘弁してほしい。さっき僕を着替えさせてる時「娘も欲しかったのよねぇ」とかルンルン気分だったけど、それなら早く良い人を見つけて子供を作ればいいのに……とか言うと後で血を見るので言わないけど。
「シャムシエルちゃん、リーファちゃんに貴女が使える神術を叩き込んであげて、今日中に」
「きょ、今日中にですか!?」
「大丈夫よぉ、うちの娘は優秀なんだから」
ウインクと共に無理難題を押し付けられて顔を引き攣らせるシャムシエル。しかも母さん、とうとう娘とか言い出した。は、早く元の身体に戻れるよう情報を集めないと……。
◆ひとこと
シャムシエルを見れば分かると思いますが、この世界では基本的に天使も悪魔も能力的にはそう人間とは変わらないようです。
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