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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
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第四六話「神の炎は燃え盛る」

 いま、私はまさに、化け物の餌食(えじき)になろうとしているのだろう。


 こんな時に有効な奇跡を考えるけど、上手(うま)く頭が回らない。いや、頭が回っても、舌が回らないので術式(じゅつしき)の展開が出来ないだろう。


 (くま)のようで、人のような手が、私を(つま)み上げようと伸ばされる。そして私は――


「……しっかりしろ!」


 死を覚悟(かくご)していたまさにその時、叱咤(しった)の声と共に身体が浮く感覚があった。


「シャムシエル、サマエルさん……?」


 天使と堕天使(だてんし)(すん)でのところで私を(かか)え、飛び上がったらしい。みるみる高度が上がってゆく。


「やー、危ない危ない。リーファちゃん、サタナキア姉さんの次は、化け物に食われるトコだったねぇ」

「まったく、戦意(せんい)喪失(そうしつ)は早すぎるぞ?」

「ふ、二人とも……無事だったんだ……」


 呆然(ぼうぜん)(つぶや)いた私を安堵(あんど)させるかのように、二人ともニッと笑って見せた。どうやら、今際(いまわ)に見えている(まぼろし)なんかじゃないようだ。


「なんとかねー、『(けもの)』が雄叫(おたけ)びを上げた途端(とたん)、アタシたちも気を失っちゃってさ、下が沼地(ぬまち)だったんで九死に一生を得たっていうか。水に打ち付けられた衝撃(しょうげき)もなかなか痛かったけどね」

「私は、地上に落ちる前に意識を取り戻してな。落下の(いきお)いを殺し切れず左足をやられてしまったが、なんとか助かった」


 本当だ、サマエルさんはずぶ()れだし、シャムシエルは左足を骨折(こっせつ)しているようだ。二人とも満身創痍(まんしんそうい)なのに、私を『獣』から救ってくれたんだ。


 恐怖に(ふる)えていた頭が、段々(だんだん)とクリアになっていくのが分かる。彼女たちに()れることで、不思議(ふしぎ)呼吸(こきゅう)も落ち着いてきたような気がする。


 ――そうだよ、私はまだ、あの『獣』相手に何もしていないじゃないか。


「ゴメン、ありがとう。私も玩具(おもちゃ)にされて気力を失ってた」

「こっちこそゴメンよー、なかなか助ける機会が見つからなかったけど、二人で思い切って飛び込むことにしたんだ」

「ああ、我々には、リーファしか居ないのだ。そのためなら、『獣』の(ふところ)へだって飛び込むさ」


 シャムシエル、格好良(かっこい)いことを言ってくれるじゃないか。私の中で(きざ)まれていたポンコツ天使の汚名(おめい)返上(へんじょう)かも知れない。


「ひゅー、シャムシエルかっこいー」

「かっ、からかわないでください、サマエル様!」


 などと言っていたら、『獣』がこっちを見続けているのが分かった。身を乗り出すようなあの姿勢(しせい)(ねこ)に似てるな……いや、まさか、アレは……?


「二人とも、『獣』がこっちに飛び()かろうとしてる」

「え? マジ? けっこうアタシたち高いトコにいるよ?」

(まい)ったな、これ以上高度を上げると、()れないリーファには(つら)いかも知れん」


 そうか、いきなり高い所に移動すると激しい頭痛が起こったりするんだっけ。


 でも、大丈夫だ。この場所から()ってやる。こちらに注意が向けられていたままなのは好都合(こうつごう)だ。他に被害が出る心配は無い。


(つえ)があればよかったんだけど、仕方ない。応戦(おうせん)するから、身体を固定してほしい」

「ほいほい、りょーかい」

「応戦? ということは……」


 そう、ここから(はな)つ、「神の炎」を。


 (ねら)いは『獣』が()び上がった所だ。


 シャムシエルとサマエルさんが、私のお(なか)(こし)を抱えたまま空中で静止する。師匠も魔術で飛べたりはするけど、空中で完全に静止するのはかなり難易度(なんいど)が高い(はず)だ。生まれた時から飛べる存在はやはり(かく)が違う。



 さて、お膳立(ぜんだ)ては整った。


 勘違(かんちが)いしている『獣』よ、狩人(かりゅうど)はお前じゃない、私だ。



 全身から頭に激痛の悲鳴が届いているけど、奇跡の術式(じゅつしき)に集中する。大丈夫、私なら出来る。


 それに、シャムシエルも、サマエルさんも居る。怖くない。


(しゅ)よ、冒涜(ぼうとく)せし者を永久(とわ)業火(ごうか)で焼き(はら)(たま)え――」


 『獣』がこちらに向かって跳び、前(あし)を伸ばす。だが、術式の構築はもう終わっている。


 お前の(つみ)と共に燃え(さか)れ! そして無様(ぶざま)に落ちろ!



「〈神の炎(ウリエル)〉!」



 渦巻(うずま)く巨大な神炎(しんえん)が、狙い通りの位置に生まれる。まるで地獄の(かまど)を開けたようなその光景(こうけい)に、瞳が()け付く。


 その竈へ正面(しょうめん)から突っ込んでしまった『獣』は、炎に(まみ)絶叫(ぜっきょう)を上げた。空中でバランスを(くず)し、そして落ちる。


 地面に叩きつけられた『獣』は、藻掻(もが)き苦しみ、苦悶(くもん)咆哮(ほうこう)を上げている。だが、炎は消えない。


 神の正義たる炎は、その者が働いた邪悪の分だけ燃え盛るのだ。


◆ひとことふたこと


ウリエルはラテン語ではなくヘブライ語です。何故ヘブライ語にしたか?かっこいいからですよ!(笑)

で、ウリエルは皆さんご存知ミカエルなどと並ぶ熾天使ですが、実は聖書では外典にしか登場していないので、悪魔扱い(!)された過去があります。

その後免罪されたのですが、今でも天使とは扱われておらず、「聖ウリエル」と聖人として扱われています。

ヘブライ語ではまんま「神の炎」「神の光」などという意味になります。


黙示録の獣は天から降って来た炎によって滅ぼされるというエピソードがあります。

神の炎が弱点というのはそこから採りました。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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