第四五話「そして私は蹂躙された」
痛む身体を引き摺りながら『獣』に背を向けて逃げる。足首も激しい痛みを訴えているが、そんなことを気にしていられる状況では無い。
衝撃が背中から襲い、前のめりに転んでしまう。何をされたのかは分からないけど、振り返ったその先には、変わらず七つの豹の頭。そいつらは、まるで私を嘲るかのように哄笑を上げている。
――『獣』は、どうやら私をいたぶってから殺すつもりらしい。
起き上がり、すぐさま術式の構築に入る。効くかなんて分からないけど、やってみるしかない。
「主よ、万軍の神よ、いと高き所に救い給え! 〈神の恩寵〉!」
シャムシエルをサマエルさんの魔弾から守った奇跡だ。これで、私の身体が傷つかないようになった筈だ。これなら――
「ぐふっ!?」
お腹に衝撃が来た。天地が逆になり、吹き飛ぶ。何が起こったのか分からなかった。
激しく跳ね、回転し、やっと止まった。嘔吐感が私を襲う。怪我こそしなかったけれども、衝撃までは殺せないようだ。正直意識を手放したいけど、絶対防御の奇跡を解く訳にはいかないので必死でそれを繋ぎとめる。逃げるのを辞めて『獣』が飽きた時が、私が死ぬ時だ。
「にげないと。にげないと、ころされる――」
よろよろと立ち上がり、最早まともに動かない足でどうにか逃げる。その間に、なんとか逆転するための奇跡を考える。だが、何も思いつかない。
「にげないと、にげないと、にげないと――」
足の痛みにバランスを崩し、また転ぶ。ああ、起き上がらないと、殺されてしまう。
でも、力が出ない。
振り向いて、相変わらず私にご執心の『獣』を窺う。その七つの顔に何処か失望の色が見えているような気がする。
なんだ、もう終わりか、と。
そして、ゆっくりと近づく『獣』。
だけど私には、既に立ち上がる体力も気力も残されていなかった。
◆ひとこと
「神の恩寵」では肉体的ダメージはなくとも衝撃があるようで。
だからシャムシエルも気絶したのですね。よくリーファちゃんは起きられました。
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