表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
42/184

第四二話「得てして決戦と共に悪報はやって来るもの」

 私、シャムシエル、サマエルさん、師匠、サタナキアさんの五人は、輸送(ゆそう)用の馬車に()られながら目的地へと向かっていた。アンナはお城のメイドさんに預かって(もら)ったものの、旅立つ前にぎゃんぎゃん泣かれてしまった。「おねえちゃんきらい」って言われてしまい、立ち直るのに時間がかかったよ……。


「目的地へは一日半だから、あともう少しってトコ?」

「はい、あと二時間といったところでしょうか。配置(はいち)が完了しましたら、魔術で連絡を取り合い攻撃開始となります」

「りょーかい。やー、流石(さすが)にあんな怪物(かいぶつ)は相手にしたことないから、アタシも(ふる)えてきたわー」


 ……いつものノリで兵士さんと話している姿を見る限り、全然そんな風に見えないんですけど。


 でもこの間(はげ)ましてくれた時のことを考えると、いつもあんな調子で本心(ほんしん)(かく)しているのかも知れない、この優しい悪魔のお姉さんは。


「サタナキアの話によれば、妨害(ぼうがい)魔術は使ってこないのよね。思う存分(ぞんぶん)大魔術が()てるわねぇ」

「はい、お姉さま。とは言え、メインはリーファちゃんですので、わたくしたちは予備戦力ですけれども」


 ……相変わらずサタナキアさんは母さんのことを「お姉さま」と呼んでいる。一〇〇人の天使を堕天(だてん)させるような悪魔をどうやって手懐(てなず)けたんだろう、母さんは……。


「と言いますか、お母様が大魔術を使っているところを見たことがありませんが……?」

「これでも故郷(こきょう)では随一(ずいいち)の大魔術使いって言われていたのよ? リーファちゃんの前では使う機会が無かっただけ」


 そうだったの? てっきり剣を使った近接攻撃ばかりが得意だと思っていたら、そうじゃなかったんだ。私はまだ魔術師見習いを卒業したばかりだから大魔術には(えん)が無いし、教わる機会もそりゃ無かったか。


「私は上空から様子(ようす)をお伝えすれば(よろ)しいのですよね?」

「ええ、その通信用魔道具があれば陣地(じんち)待機(たいき)している兵士さんとお話出来るからねぇ。高価なものだから落とさないでね?」

「気を付けます……」


 シャムシエルは貴重(きちょう)な空の戦力ということで、上空から俯瞰(ふかん)した様子を伝えてくれるらしい。『(けもの)』の東西に陣取(じんど)っている戦力についても把握(はあく)出来るので有難(ありがた)い。


 サマエルさんも飛べるけど、こちらは伝達(でんたつ)役ではなく空から弓での攻撃をメインとする予定だ。実際に彼女の弓の威力を()の当たりにしているため、正直、「神の炎」を(のぞ)けば全戦力の中で最も高い攻撃力ではないだろうかとも思う。


「ああ、あとこれも、シャムシエルちゃん。いざと言う時には使って頂戴(ちょうだい)。いざと言う時が無ければいいけどねぇ」


 母さんは自分の荷物から、布にくるまれた長い物体をシャムシエルに手渡した。あれは、もしかして……。


「これは……? 開けてみても?」

「どうぞ~」


 シャムシエルが布を丁寧(ていねい)に外していくと、装飾(そうしょく)(ほどこ)された一振(ひとふ)りの長剣が現れた。やっぱり、あれは母さんの魔剣の一振りだ。名前は確か――


「それはね、私の魔剣よ。名前は〈隠された剣(クォデネンツ)〉。魔力を与えれば自動で戦ってもくれる便利な剣よ。シャムシエルちゃんの剣は一二〇〇年前の量産品(りょうさんひん)のようだし、あげるわ。これからはそれを使って頂戴」

「そ、そんな!? こんな貴重なものを頂く(わけ)には(まい)りません!」

「いいのよ~、どうせ家に帰ったら他の魔剣もあるからねぇ。それに、命に係わる状況で出し()しみはいけないわ」


 母さんが〈魔剣のアナスタシア〉と呼ばれる所以(ゆえん)である。相手に応じて魔剣を使い分ける、剣術にも()けた魔女ということからそう呼ばれている。


「……有難く、頂戴いたします」

「はいはい~。今回はそれが使われないことを(いの)っているわ~」


 シャムシエルは(さや)に収まったそれを(こし)の剣と入れ替えた。元の剣は大昔のものだもんね、そりゃ現代の武器かそれ以上のものに替えた方がいいだろう。


 やがて馬車は陣地へと到着する。小高い(おか)になっており見晴(みは)らしが良く、奇跡を使う私にとっても有難い。


「では、行ってくる。リーファ、あまり気負(きお)()ぎんようにな」

「はい、ありがとうございます、シャムシエル」


 早速(さっそく)、シャムシエルが状況を確認するため飛び立って行った。私たちも配置に()くために準備をする。


 長杖(ちょうじょう)を両手に深呼吸(しんこきゅう)する。大役(たいやく)だけど、大丈夫。私なら出来る。


 やがてサマエルさんも飛び立ち、私と母さん、サタナキアさん、兵士の方々も準備が(ととの)い、戦場は攻撃開始の合図(あいず)を待つだけとなった。


「……ん?」


 何やら陣地の方が(あわ)ただしい。……伝令(でんれい)の方がテントから出てきた。何かあったんだろうか。


「上空の天使シャムシエル様より連絡です! 予定より早く対象が活動を開始! 東(はん)(すで)壊滅(かいめつ)状態、西班が応戦(おうせん)中とのことです!」


 それはあまりにも、悪い(しら)せだった。


◆ひとこと


クォデネンツはロシア地方に伝わる魔剣です。

勝手に動いて斬り刻んでくれるのですが、果たして剣技に優れたシャムシエルが使う必要があるのでしょうか。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ