表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
38/184

第三八話「私は生贄の羊となったのだ」

 私たちは一旦(いったん)王都へと戻ると、すぐに陛下(へいか)へ報告に()(さん)じた。サマエルさんとサタナキアさんが(いや)がるので謁見(えっけん)の間ではなく、会議室に集まっている。大事な話なので、アンナは城のメイドさんに預かって(もら)っている。なんでもこの前シャムシエルと留守番(るすばん)をしていた時クリストフ第一王子殿下(でんか)のご子息(しそく)と仲良くなったそうなので、たぶん一緒に遊んでいることだろう。この騒動(そうどう)片付(かたづ)いたら、妹がお世話になりましたと一度ご挨拶(あいさつ)に行かなければなぁ。


伝令(でんれい)から(すで)に事の顛末(てんまつ)は聞いている。復活は阻止(そし)出来なんだか」

「はい、申し訳ございません……」

「仕方あるまい。話を聞く限り、並の勇者や聖女では太刀打(たちう)ち出来ぬ相手であったろうからな」


 陛下には魔術による連絡で詳細(しょうさい)な情報が伝わっているらしく、私たちが(あらた)めて説明する必要は無いらしい。


「古代悪魔サマエルよ、自らが封印に(もち)いられていたというのにも関わらず、あの魔王に対して魔術を(ほどこ)しておいてくれたこと、改めて()からも礼を言わせて欲しい」

「まあねー、礼というならなんか欲しいけど。再封印されないように神国(しんこく)()()ってくれるとかさ」


 礼を()くす陛下に対して、ふんぞり返りながらひらひらと手を動かして答えるサマエルさん。あまりに不敬(ふけい)態度(たいど)に、近衛(このえ)兵の皆さんが顔を(しか)めているからやめてほしい。


「アレの再封印に悪魔を利用するなどということは、現代の価値観(かちかん)では許されぬ所業(しょぎょう)であろうが、一応伝えておこう。それとは別の礼も用意させておく。まぁ、この後を乗り切れればだがな」

「はいはい、期待してるよー」

「……して、その術はどの程度の時間効果がある?」

「そうだねー、あと一〇日ってとこかなー。いや、『(けもの)』がアバドンの力で強化されてるから、もうちょっと短くなってるかも。魔術が弱体化されたとして……七、八日ってとこ? 保証は出来ないけどね」

「そうか、あまり猶予(ゆうよ)は無いな。……予定通り、近隣(きんりん)の村に避難(ひなん)指示を出しておけ」

「はっ!」


 サマエルさんの話を受けて、陛下が近くの近衛兵さんに指示を出している。どうやら、前もって避難計画を立てていたらしい。


 陛下は死霊術師(ネクロマンサー)である自分の末弟(まってい)のアーデルベルトが今回の実行犯であることには薄々(うすうす)感づいていらしたらしく、三番目の封印解除(かいじょ)先として『獣』の復活地点でもあるゲーベル(ぬま)を選ぶだろうということも予測(よそく)されていたということだ。そこに投入(とうにゅう)されるという期待をされておきながら、私が阻止(そし)出来なかったのは無念(むねん)一言(ひとこと)に尽きる。


「カナフェル大司教(だいしきょう)、カナン神国には連絡を?」

「はい、陛下。神術(しんじゅつ)ですぐに連絡しました。ただ、向こうから天使の軍勢(ぐんぜい)が届くのは……」

「……いくら天使が飛んでくるとは言え、早くても一ヶ月はかかるであろうな。それに、周辺諸国を納得(なっとく)させるのにも時間がかかる。天使の戦力は期待しない方がいいだろう」


 天使の軍勢ってことは、御前(ごぜん)の天使が(ひき)いる軍がやって来るということ? それだけ『獣』の復活は神国にとっても大事(だいじ)だということか。


 でもセイレス神国、それもその首都(しゅと)はここから(はる)か北西にある。隣国(りんごく)のように易々(やすやす)()()できる(わけ)ではないのだ。


「さて、我々にはあまりにも時間と情報が少ない。であるからして、この中で最も『獣』に(くわ)しいらしい貴女(きじょ)へ話を(うかが)いたいのだ、古代悪魔サタナキアよ」

「あら、わたくしをご指名?」


 のんびりお茶を(すす)っていたサタナキアさんは、陛下に呼びかけられたにも関わらず「どうしようかしらね~」なんて長い髪の毛を(いじ)り始めた。……他人事(たにんごと)なんだろうなぁ、きっと。


 何故(なぜ)サマエルさんに続きサタナキアさんまで大陸共通語を(しゃべ)れるのか不思議(ふしぎ)だったんだけど、フロトー村を出発する前にサマエルさんが手渡(てわた)していたリンゴのお(かげ)らしい。〈知恵の実(アーダムスアプフェル)〉っていうサマエルさん独自(どくじ)の魔術による生成物(せいせいぶつ)なんだそうな。物質を生み出せる魔術って(すご)い。今度教えて貰おう。


 ちなみにサタナキアさんには王都へ着いた時にすぐ着替えて貰っている。それでも結構露出(ろしゅつ)が多い服なのだけれども、ちょっと動いただけでお胸が(こぼ)れる前のよりはマシだ。


 ……と、そんな余計(よけい)なことを考えていると、ちらっとサタナキアさんに横目で見られた?


「そうですわねぇ、リーファちゃんを一日自由にさせてくれるなら、いいですわよ?」

「……はい?」


 私を、一日、自由に?


 (あま)りに突飛(とっぴ)なお願いに、間抜(まぬ)けな声が出ちゃったよ。


「あ、あの? それはどのような……」

「もう、初心(うぶ)ですわね。そういう所が可愛くてたまりませんわ。オトナの遊びを教えて差し上げると申しておりますのよ」


 頬杖(ほおづえ)をついて(なが)し目を向けてくるサタナキアさん。あのー……、今の状況分かってます?


 私は助けを求めるために母さんを見たけど、ちょっと困ったような顔はしているが口は出さないようだった。私の意思を尊重(そんちょう)するのだろう。シャムシエルには――視線を()らされた。後で(おぼ)えてろこのポンコツ天使。


「……うぅ、分かりました。わたくしで良ければ、お付き合いさせて頂きます……」

「あら(うれ)しい。約束ですわよ? 悪魔との契約(けいやく)(たが)えないでくださいまし」


 正直逃げたいけど、後が怖いので逃げませんよ……。


◆ひとことふたこと


スケープゴートのゴートは山羊ですが、キリスト教では生贄と言ったら羊です。

山羊が生贄なのは古代ユダヤ教らしいです。へー。


アーダムスアプフェル、ドイツ語でアダムのリンゴ、つまり知恵の実、ということでルビを当てました。

サマエルはアダムとイブに知恵の実を食べるようそそのかした蛇と言われます。

そそのかしたのはサタンとも言われているので、サマエルとサタンは同一視されることもあるようです。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ