第三四話「出し惜しみなんてしていられる状況じゃない」
「半霊体か。神術の方が効くのだろうが、リーファを守らなければならん。剣で相手をするとしよう」
私の方へと進む不死王を阻むようにシャムシエルが上空から斬りかかる。袈裟懸けに斬撃が入ったものの、王は煩い蠅を追い払うように手を振るう。彼女は翼を駆使しギリギリでそれを躱し、舞うように更に斬り刻む。そう言えば初めてシャムシエルのまともな剣技を見たけれども、中々のものだ。純粋な技術だけなら師匠以上かも知れない。
「〈光槍〉」
不死王の胸元から何本も光の槍が生まれ、雨あられと私へ突き進む。無詠唱でこれほどの複数展開とは流石と言う他無い。もう一つ〈聖壁〉を展開し、これを阻む。
「ええい、骨相手は狙いにくいったらもう!」
サマエルさんは文句を言っているけど、彼女の矢が真っ直ぐ不死王の額に命中し、頭が爆散する。相変わらず規格外の力だけど……頭はすぐに復活してしまう。こちらも規格外だ。
「ちょっとー、こんなんどうやって倒すのよー、めんどー」
「復活しているように見えますが、ダメージは蓄積されています。続けていれば、なんとか……」
うぅ、泣き言言わないでくださいよサマエルさん。それを言いたいのは狙われてる私なんですから。
「聖女様を守れ! ……うわっ!」
近衛兵の皆さんが剣で畳みかけるも、不死王の手が勢いよく振るわれ近づくことすら難しい。シャムシエルとは違い、飛べないから逃げ場が限られるのだ。
「無理をなさらないでください! あれに触れられると生気を吸い取られます!」
厄介なことに生気を吸われると回復されて攻撃した分が無駄になってしまう。攻略難易度の高い相手だよ、ホント。
「クカカッ! 苦戦をしているようだなぁ、聖女よ!」
プロディティオが煽ってきよる。ええい、お前が召喚したんだろうが、やかましいわ!
ついでにルピアを見る。もう魔力弾を撃つつもりが無いのか何なのか、槍を地面に突き刺し不敵な笑みを浮かべている。とは言え、いつまた撃ってくるか分からないから〈聖壁〉の解除は出来ない。
「っとと……」
地面が揺れた。地震か、こんな時に。隙を見せてしまったために不死王から〈光槍〉が再び雨のように飛んできたので、慌てて〈聖壁〉で守る。
しかし、だんだんと不死王が近づいてきている。コイツは〈護陣〉でも〈聖壁〉でも防げないし、いざとなったら奇跡を――
「リーファちゃん、すっごい揺れてない?」
「……揺れてますね」
地震が治まらない。これではもはや〈聖壁〉の維持も危ういけど、気を抜いたら魔力弾が飛んでくるだろうし、不死王の〈光槍〉に貫かれてしまう。
やはり地震が収まらない。しかも段々と揺れが強くなっている。一体……?
そこまで考えて、私はルピアをもう一度見る。
「遅い」
彼女の唇がそう動いたように見えた。
咄嗟に私は躊躇いも無く奇跡の術式を組み上げる。
「主よ、死せる者の御霊を、罪の絆しより解き放ち給え、〈主よ憐れみ給え〉!」
「リ、リーファ!?」
気付いたシャムシエルが慌てて止めようとしたけど、構わず放つ。
不死王の足元から光が立ち昇り、一瞬で王は消し飛んだ。あまりに強力過ぎる術に近衛兵の方々が唖然としているけど、そんな暇は無いですよ!
たぶん不死王は囮だ。そして本命はルピアの槍。地面に突き刺していたのは、そこから広範囲に膨大な魔力を送り込んでいたからだ。封印が反応していたため、地震が発生していたのだろう。
「皆さん、伏せてください!」
叫んだ直後、轟音と共に背後から恐ろしい衝撃が襲い掛かり、私の意識は暗転した。
◆ひとこと
キリエエレイソン、かっこいいですよね響きが。
レクイエムの一節なのです。やっぱりラテン語。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!