第三三話「根暗死霊術師の本領発揮らしい」
「さて、貴方の罠も無効化され、状況は元に戻りましたよ。大人しくして頂けると幸いです」
槍を持つルピアに守られたプロディティオへ、一応投降を呼びかける。まぁ、無駄だとは思っているけどさ。
プロディティオは舌打ちすると、「プラン変更だ」とルピアへ呼びかけた。魔術も吸収トラップも使えない状況で一体何をするつもりだ。
「承知しました。……はぁっ!」
ルピアが気合を入れると、彼女の持つ槍の先で何かが壊れる音がした。これは――
「そこだけ〈神域〉を壊した? ……いけない!」
彼女の目論見に気付いた私は、咄嗟に近衛兵さんたちを守るように槍の正面へ〈聖壁〉を無詠唱展開した。次の瞬間、轟音が鳴り響くと共に壁が打ち震えた。溜め込んでいる魔力を使って強烈な魔力弾が放たれたんだろう。こんなの当たったらただじゃ済まないぞ!
「チッ、勘のいい奴だ。だが、まだだ!」
続けて魔力弾を放つルピア。だがこちらも神気の量には自信がある。壁を打ち砕くことは出来ないだろう。
ルピアが撃ち続けているため、〈聖壁〉のお陰でお互い近づくことが出来ない。もしかしてこちらの神気が枯渇するのを待っている? いや、そんな分の悪い賭けをするとは思えない。
「リーファ、プロディティオが何かをしている。一瞬だけ〈聖壁〉を弱められるか?」
「え? ……あれは」
シャムシエルの言葉で気が付いた。見ればプロディティオが地面に短剣を突き立て何かを唱えている。あれは、もしや――
「さあ来い、不死の王よ! アーデルベルトの名においてその姿をここに現せ!」
「死霊召喚術! シャムシエル、止めてください!」
「させるかっ!」
私が〈聖壁〉を弱めようとしたところを見逃さず、ルピアが畳みかける。慌てて神術を張りなおしたため、結局誰も壁の向こう側へと辿り着けなかった。くそっ、魔力弾で牽制している間に召喚するなんて!
プロディティオの目の前に黒い霧が立ち込め、人の形を取り始める。それはやがて、一人の高僧の姿となった。……ただし、その身体は既に骨だけとなっているようだが。
「我を喚び出したのは貴様か。我に何を望む」
骸骨は何処から出しているのか、しわがれた声でプロディティオへと尋ねる。あれは、まさか不死王? 使役するとなると、とんでもない対価が必要となる筈だ。
「あそこに居る忌々しい聖女を殺せ。対価は俺の命の半分だ」
はぁっ!?
私を殺すためだけに自分の命を半分!? 正気か!?
「承った。では、貴様の望みを叶えよう」
ゆらり、と不死王がこちらを向く。とんでもない大物だ。私の手には余る。
「仕方ありませんね……術者を倒せばなんとかなる筈です。サマエルさん、弓でプロディティオを狙えますか?」
「………………」
あれ? サマエルさんの返事が無い。どうしたんだろう?
彼女を見ると……珍しく脂汗を流している。何があった。
「ご、ごめん、リーファちゃん。なんか、さっきから狙ってるんだけど、全然狙いが定まんないっていうか……、手が震える」
「は?」
この何者にも怖気づかなそうなお姉さんが、震えてる?
「たぶんアイツ、自分に何かの呪いをかけてる。アレを傷つけたらアタシもタダじゃ済まなそう」
「……そういうことですか」
サマエルさんは恐るべき勘で、反射の呪いを感じ取ったのか。もしそれが本当だとすると、気づかず射ていたら大変なことになっていただろう。
「分かりました。プロディティオを狙うのは最後の手段にしましょう。不死王の相手をするしかありませんね」
私は覚悟を決めて、不死王に視線を向けた。朽ちた高僧は〈聖壁〉をすり抜け、ゆったりとした速度で近づいてきている。狙いは間違いなく、私だ。
◆ひとこと
みんな大好きノーライフキング。リッチとも言う。
死霊召喚術で呼び出した者を使役するには代償、つまり生贄が必要というわけです。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!