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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
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第三話「幼女に話しかけるときはご注意を」

 さて、明日の朝食に使う森の(めぐ)みを()み取りながら、僕はシャムシエルを連れて山の(ふもと)へとやって来た。そろそろ夕方に()()かっている所だしあまり長居(ながい)は出来ないけど、ちょっと休憩(きゅうけい)するかな。


 そんなことを考え(かか)えていた(かご)を置こうとした僕は、突然(うで)を引っ張られて木陰(こかげ)(おさ)まった。そして(くちびる)にシャムシエルの人差し指が押し当てられる。


「んむっ?」


 シャムシエルが自分の口にもう片方の人差し指を当て、顔を近づけた。どうやら「声を出すな」ってことらしい。


 そしてその指を、くいっと僕の右側へと向ける。あれは――


「……魔族だね、紅魔族(ロートトイフェル)


 そこにはかつて天使族が悪魔の末裔(まつえい)として(あつか)っていた魔族の姿があった。頭には一対のくるんと丸い羊の(つの)、背中にはやや赤い蝙蝠(こうもり)の羽、お尻からは先端が(やり)のように特徴(とくちょう)的な形をしている尻尾(しっぽ)を持ち、燃えるような緋色(スカーレット)のショートヘアを()らす、黒い粗末(そまつ)なワンピースを着た五歳くらいの()せぎすの少女が何やら山の方角(ほうがく)(にら)みつけている。手には短槍(たんそう)(たずさ)えており、それが彼女の獲物(えもの)だということは分かった。


 しかし、何というか……何だろう? 存在が朧気(おぼろげ)というか、(はっ)している魔力がはっきりしない子だな。


(おさな)い魔族の子が、槍を持ってあんな場所で何してるんだろ」

「……分からんが、何かきな臭いものは感じるな」


 僕らは気取(けど)られないようにひそひそと小声でそうやり取りする。昔の価値観を引きずるシャムシエルだけじゃなく、僕もそう思う。とは言え取り()えず話を聞いてみないと分からないんじゃないかなぁ。


「君、そこで何してるの?」


 天使の制止を振り切り木陰から()い出してそう声を掛けると、魔族の少女は(おどろ)いたのか尻尾をぴーんと伸ばしこちらを振り返った。ちょっときつめの印象を受けるけれども可愛らしい顔立ちをしている。


「誰だ、オマエ」


 年相応(そうおう)の可愛らしい声に、(けん)のある口調で誰何(すいか)された。顔には警戒(けいかい)心がありありと浮き出ている。


「僕はリーファ、ここの森に住んでる人間だよ。君は?」

「……ルピアだ。それとさっきの質問だが、別に何もしておらん」


 うーん、声こそ幼いけど、(しゃべり)り方が随分(ずいぶん)老成(ろうせい)しているな。


「山を見ていたよね? 遺跡(いせき)が気になるの?」

「………………」


 ありゃ、図星(ずぼし)を突かれたのか沈黙(ちんもく)しちゃった。


 先程この子が見ていた先にある名も無き小さな山の中腹(ちゅうふく)には古代遺跡が存在している。と言ってもよく聞くような大きな迷宮とかではなく、山の斜面(しゃめん)に突き刺さった古代遺物(アーティファクト)が存在しているだけのような地味(じみ)な遺跡だ。いったい何の遺物(いぶつ)なのか僕は知らないけど、もしかしたら師匠は知っているのかも。


「良ければ案内しようか? って言っても、迷うような場所には無いけど――」

()らん、死ね」

「うわっと!?」


 友好的に話しかけてたつもりだったけど、いきなり隠していた短剣を投げつけられ、間一髪(かんいっぱつ)のところで(かわ)した。あ、あぶなっ! 槍にばかり気を取られていたらやられてた!


「ふっ――」


 短く息を吐きだし、ルピアは短槍で追撃(ついげき)()り出してくる。幼いながら確実に急所を(ねら)(たく)みな槍術(そうじゅつ)だ。こんな幼いのに、どれだけ訓練されているのやら。


 でも、狙いが分かるからこそ単純であり、僕は手にした長杖(ちょうじょう)でそれをいなしていく。師匠の剣術を相手することに比べれば、まだまだ余裕がある。


 とは言え、この状態では流石(さすが)に魔術を行使することも出来ない。どうしたものか。


「オマエ、ただの神官じゃないな、何者だ?」


 え? あー、今の僕は魔術師ではなく神官に見えるのか。そりゃ白いワンピースと神聖儀礼(ぎれい)用の長杖を身に着けていればそう見えるか。


 でも攻撃を受けているのに、ご丁寧(ていねい)にこちらの身分を明かすつもりも無い。さて、何と答えますかね。


「どうした、(だま)ってないで――」

「はぁっ!」


 槍を躱しながら考え事をしていたら、気合の一声(いっせい)、そして甲高(かんだか)い金属音と共に目の前の短槍が上空へと(はじ)き飛ばされた。槍は()(えが)き、近くの茂みに突き刺さる。


「……天使、何処(どこ)に隠れていた」

「そこの木陰に。さて、貴様の目的は何なのか、話してもらうとするか」


 どうやらシャムシエルの剣が槍を弾き飛ばしたらしい。問答無用(もんどうむよう)でルピアを殺したりしなくて良かった。魔族に対する心の整理がついているかどうかは分からないけど。


 二対一で武器を失い、喉元(のどもと)に剣を突きつけられている絶望的な状況となり、ルピアは舌打ちをしながら諸手(もろて)を上げた。


◆ひとこと


ロートトイフェルというのはドイツ語です。赤い悪魔。まんまや。


--


次回は本日21時半頃に更新予定です!

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