第二八話「封印の地防衛作戦は開始された」
東のフォークト湾へ流れ込むグロース川の流れとは逆に、私たち一行を載せた馬車は西へと進んでいた。目的地は王都からそう遠くはなく、一日半あれば着いてしまうとのことだった。
今回護衛をしてくれているのはリーフェンシュタール家ではなく、陛下直属の近衛兵さんたちだ。というか、侯爵家は聖女候補の私を誘拐させてしまうという失態を犯したために王弟派から糾弾されており、それどころではないのである。自分たちで仕掛けておいて糾弾するって、マッチポンプもいいところだよ、ほんと。
「今回向かってるのはー、アタシと同じく誰かが封印されてるトコなんだよね?」
「はい、そうですよ」
これから向かう場所にも古代悪魔が封印されているらしく、私たちの役目はその封印を守ることだ。ちなみに護衛の人たちに見つかっても大丈夫なように、私は聖女の外面で話している。そして護衛の人たちは、目の前に居るこのお姉さんが封じられていた悪魔ということも既に知っているので、気にせずこういった話も出来ている。
サマエルさんは最初来るつもりが無かったのだけれども、カナフェル大司教猊下に「再封印されたくなければ働いてください」と脅しに近いことを言われ渋々同行している。アンナも置いていくのは可哀想だったので一緒だ。まぁ、戦地へ連れていくことは出来ないので、近くの拠点で護衛の人を付けて待機して貰うけど。
「封印って残り三ヶ所なんでしょ? リーファちゃんをここに一点投入して大丈夫なの?」
「他の封印には勇者様やわたくしの先輩となる聖女様が向かわれているので大丈夫ですよ」
そうか、あの時詳しい事情を聴いていたのは私だけだったからか。きちんと教えられることは伝えておこう。
私は、昨日大教会であった出来事を思い出すべく記憶を辿った――
トントントン、とリズミカルに葱を刻んでいく。私は母さんに家事も仕込まれているので、料理の仕込みなどはお手の物だ。
私が今何をしているのかというと、教会の朝食を作るお手伝いをしているところだ。まだまだ皆が寝ている時間帯だけれども、滞在させて頂いているのだから少しでもお手伝いをさせて欲しい、ということで立候補したのだ。
「聖女様はお料理もお得意でいらっしゃるのですね」
「ふふ、この程度でしたら子供の頃からやっておりましたので」
一緒にお手伝いをしている若いシスターが羨望の眼差しを向けてくれている。毎日こんな時間から朝食を作っている方が大したものだと思うけどね。
「リーファ様、応接室へお客様がいらっしゃっています。こちらは結構ですのでご対応をお願いいたします」
「わたくしに? こんな時間にですか? 畏まりました。すぐに参ります」
まだ日も昇りきっていないこの時間にお客様? なんか嫌な予感がするなぁ。
私は近くに居たシスターへ後を任せると、エプロンを外して応接室へと向かい、ドアをノックした。しかしなんで応接室の横に兵士さんが立っているんだ? これホントに絶対嫌な予感しかしないんだけど……。
「お待たせいたしました、リーファです」
「ああ、来ましたか、リーファさん。入ってください」
ドアの向こうからカナフェル大司教猊下の声。おや、猊下はもう起きていらっしゃるのか。流石聖職者の朝は早い。
「失礼いたしま……?」
私の言葉が尻切れになったのは無理も無い。
応接室に居たその人物の背後にも槍を手にした兵士が二名立っており、ちらりと横を見ればドアの内側にも立っていた。
しかし、これでも兵は足りない筈。だって目の前のソファに座っておられるのは――
「どうした? 早く座れ」
国王陛下は不思議そうなお顔で、私に着席するよう促したのだった。
◆ひとこと
近衛兵を借りられるなんて……と思うかも知れませんが、リーファちゃんは陛下直属という扱いになっているのでこういった待遇になっています。
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