第二二話「目が覚めたら知らない天井のパターンその一」
そしてリーフェンシュタール邸に到着してからも、残念ながら休む暇は無かった。
まず到着するなり専属メイドにドレスを着せられ、アロイスさんのお父上であるリーフェンシュタール卿と奥様へのご挨拶、アロイスさんの妹君とそのご友人とのお茶会、別のドレスに着替えさせられ歓迎のパーティ、などなど何これ必要なの? っていうイベントばかりこなさねばならなかった。もうこれ、完全に貴族の待遇になってるよね……。
これで「聖女になりませーん」と言ってしまったらどうなってしまうのやら。いや、それを許さない雰囲気にしているんだろう、きっと。貴族コワイ。
「わたくしは平民ですのに、ここまでして頂いて宜しいのでしょうか……? それに、まだ聖女になれると決まった訳では御座いません」
「何を仰いますか! 私は貴女に命を救われた身です! 必ずや貴女が聖女と認定されるよう、力の限り教会へ訴えかけさせて頂きます!」
頼んでないんだよねぇ……。そんなこと、頼んでないんだよねぇ……。
アロイスさんも悪い人じゃないんだろうけどさ、どうも熱くなったら周りが見えなくなるお方のようだった。
パーティも終わり、普段なら疲れも取れる筈のお風呂は背中を流して頂くことで気疲れまでする始末だった。その後、一人にしてほしいとメイドさんを外に追い出して、私は部屋のソファの上でスライムのようにぐったり溶けていた。ネグリジェ姿で。
「疲れ果てていますね……」
「まぁ、気持ちは分かるわなー……」
「……あー、二人とも、お疲れ様……」
気が付けば目の前にシャムシエルとサマエルさんが居た。いつの間に入ってきたんだろう。っていうか外にメイドさん居るし、ノックの音に私も返答したんだろうな……。無意識にやってしまうほど私は疲れ果てていたのか。
「アンナと母さんは……?」
「ああ、アンナは私が寝かしつけておいた。リーファに会えずむずがっていたが、体力の限界だったんだろう、すぐに寝入ってしまった」
「シャムシエルが? 助かるよ、ありがとう」
てっきり母さんが寝かしつけたと思っていたんだけど。まぁ助かったことには違いない。シャムシエルも魔族への偏見が無くなっているかは分からないけど、アンナには優しいので嬉しい。
「で、ママさんは『気になることがある』って言って、寝た振りして町の方まで何か調べに行ったよー」
……なるほど、母さんがわざわざそんなことをするってことは、やっぱりこれはおかしいんだろう。
「でも、気になるってのは分かるよねぇ」
「……この厚遇のこと、ですよね?」
「そそ」
人間社会の貴族制度をよく知らないサマエルさんでも気づいているようだ。明らかに平民への対応じゃないもの。一体どういった裏があるんだろう? 聖女を見つけると名誉とか、そういうことがあるのかも知れないけど……分からん。
「うーん、考えても答えが出ない……」
「リーファちゃんはもう寝なー? 明日も教会に顔を出したりと色々忙しいんでしょー?」
う、そうだった。明日は大教会に居らっしゃる大司教様にご挨拶とかしないといけないんだっけ。心休まる時が無いなぁ、うぅ。
シャムシエルたちが自分の部屋へと戻っていった後、私はさっさとベッドに潜った。ふかふかのベッドはすぐに眠りを誘い、夢の世界へと落ちていく。
そして目が覚めたら、見覚えのない部屋の粗末なベッドの上だった。
……ちょ、もしかして私、攫われてる!?
◆ひとこと
完全に貴族待遇ですね。
でも礼儀作法がしっかりしていたリーファちゃんは驚かれたとかなんとか。
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