第二〇話「私は聖女としての外面を覚えてしまった」
※リーファちゃんの一人称視点に戻ります。
ゴトゴトと揺れる馬車の中、私は内心で憂鬱な溜息を吐いていた。
何故内心でだけで表には出せないかというと、護衛している騎士様に余計な気遣いをして欲しくないから。一度溜息を見られてしまった時、「大丈夫ですか?」「馬車を止めて休憩にしましょう」などと一々こっちが気疲れするような対応をしてくれたのだ。いや悪気は全く無いんだろうけどさ。
「ひまー。それにおそーい。飛んでっていい?」
「……何処かの天使に見つかって再封印されたいなら止めませんよ」
「やめとく……」
小声で釘を刺したら大人しくなった。やはり再封印は嫌らしい。
最初のうちは馬車の物珍しさに喜んでいたサマエルさんも流石に飽きたようで、暇だのなんだの愚痴を零すようになっていた。まぁ気持ちは分かるけど、ビシッと背筋を伸ばして座っているシャムシエルを見習ってほしい……と思ったら正面向いたまま寝てたわ。馬車が揺れてるのに器用だな……。
さて、私たちは騎士様方の来訪の四日後村を出発し、近くの町から大型の馬車に乗り込み、王都へ向かうことになったのである。
目的は勿論私の聖女認定のためだ。憂鬱の原因もこれだ。だってお貴族様の頼みは断れなかったんだもん……。なんか爵位のことはよく分からないけど、騎士様のおうちは侯爵家ということでかなり力を持っているらしいし。
で、馬車が用意されるまでの四日間、私は母さんにみっちりと淑女としての特訓をさせられた。優雅な歩き方や挨拶の仕方、言葉遣い、テーブルマナーや果ては王族への謁見時の礼儀作法など。あまりに自分の知る常識と異なる文化に頭がパンクしそうでした。というか母さんはなんでこんなマナーを知っているのか。謎だ。
「うー……」
「あらあら、アンナちゃんもおねむかしら? さっきまではしゃいでいたものねぇ」
母さんの言葉に視線を向けると、妹がごしごし目を擦りながら唸っている。馬と馬車が珍しくて興奮してたからね。騒いで気力が切れちゃったんだろう。
「おねえちゃん、だっこ……」
「……しょうがないですね、おいで」
アンナがせがんできたので、姉としては断る理由も無く彼女の身体を抱えてあげた。幸せそうな顔をしてすぐに寝息をたて始める。それにしても軽いなぁ。お風呂の時も思ったけどけっこう痩せている。記憶を無くす前はあまり裕福そうでない生活だったのが分かるというものだ。これからはたくさん食べて成長して貰わないと。
「リーファちゃんもお姉ちゃんが板についてきたねぇ」
「可愛い妹の頼みですもの、断れません」
煽りにもニッコリと微笑んで返し、悪魔のお姉さんは「お、おう」と鼻白む。こんな言葉遣い、最初はさぶいぼが出てたけどもう慣れた。王都に着いてからボロが出ないように慣れておくしか無いのだ。
そんな調子で途中町などに寄りながら、王都へと到着したのは出発してから七日後のことであった。
◆ひとこと
とうとう外面が女性化してしまったリーファちゃんの明日はどっちでしょう。
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