第一九話「幕間:昏き獣の脈動」
※三人称視点です。
「ふむ、予想外の邪魔が入ったが、主目的は果たせたようだなぁ」
古代遺跡からやや離れた森の中、手に持った水晶玉に映る壊れた古代遺物の様子を眺めながら、その黒い外套を纏った四〇代くらいの男は満足そうにそう独り言ちた。
いや、一人ではない。男の背後にはぼやっと浮かび上がる紫色の女性の霊体が片膝をつき、畏まっている。
「申し訳ございません、プロディティオ様。封印を解くことには至りましたが、悪魔の力を手に入れることが叶いませんでした」
プロディティオと呼ばれた男は、霊体の言葉に小さく笑うと振り返り、自分も片膝をついて霊体の頬に手を這わせた。いや、霊体なので触れることは出来ないのだが。
「ああ、構わんよルピア。あくまで第一の目的は封印の解除だからなぁ。それにまだ四ヶ所残っている。恐らくあと二つ封印を解けばアレが復活するだろうが、それまでに十分力を吸い上げてくれれば良い」
「はっ、承知しました」
死霊ルピアは主君の命を心に刻むように、力強く応える。〈魔剣のアナスタシア〉を始めとする予想外の分子のお陰で予定が狂い、計画の一部については諦めざるを得なくなったのである。
「……して、次はいずこの封印へ?」
「ロイヒテンダーバルトへ向かう。ダークエルフの縄張りではあるが、あそこは身を隠しやすいからな」
「南方に位置するダークエルフの森ですか。では、私はそこで次の身体を見つけることにいたしましょう」
死霊のような幽体は誰かに憑依しなければ物質に強い影響を与えることが出来ない。そのため彼女はシュパン村の近くを彷徨っていた幼い魔族に憑依していたのだが、封印を解く際の爆発に巻き込まれないため、脱出せざるを得なかったのである。
「ああ、引き続き貴様の活躍に期待しているぞ」
「勿体無きお言葉にございます。必ずや、主君の大願を果たして見せましょう」
終始頭を下げたままであった死霊ルピアは、森の闇に溶け込むように消えてしまった。
残されたプロディティオはザックの中へ水晶玉を仕舞い、ククッと含み笑いを漏らした。
「アレの復活は近い。兄上たちよ、俺を放逐した恨みを思い知って貰うぞ」
含み笑いは段々と大きくなり、やがて森へ響き渡る高笑いとなったのだった。
◆ひとこと
変なおじさん登場()
ダークエルフの森という単語が出てきましたが、この世界ではダークエルフも基本的に他種族と共存しています。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!