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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一八二話「最後の奇跡、そして私は――」

「サ……サタンだと……? サタンを()れてきたのか……?」


 クシエルは目の前に(たたず)む、一二枚の黒い(つばさ)を持つ美しい悪魔を目の前にして、がちがちと()を鳴らしていた。


「かつてはそう呼ばれていた事もあるがな。(ちん)の名はルシファーだ。間違(まちが)えるな」

「ひっ!?」


 ルシファー陛下(へいか)(にら)み付けられたクシエルは、(まさ)(へび)を目の前にした(かえる)のようだった。


 何しろルシファー陛下は神に(つく)られた最初の天使であり、そして最初に堕天(だてん)した悪魔でもあるが、古代より現代まで長きに(わた)り、最強の名を(ほしいまま)にしてきた存在(そんざい)なのだ。あの『(けもの)』とも対等(たいとう)(わた)()ったという話もある。そんな最強を目の前にして(おのの)かない(はず)が無いのだ。


貴様(きさま)(つみ)は何だ? 答えろ、智天使(ケルビム)クシエル」

「ひっ……あ、はぁっ…………」


 クシエルは陛下のプレッシャーに当てられ、まともに答えも出来(でき)ないようだった。彼の側近(そっきん)の天使たちなど、(すで)にそのプレッシャーだけで気絶(きぜつ)している。


「どうした? 答えろ。答えなくとも、朕が直々(じきじき)(さば)いてやるが」

「はぁっ、はぁっ…………ふ、ふふふふふ」


 息も(あら)様子(ようす)だったクシエルが、突然(とつぜん)不気味(ぶきみ)(ふく)み笑いを始めた。身構(みがま)えた私たちを、反逆(はんぎゃく)の天使は愉快(ゆかい)そうに睥睨(へいげい)した。


「……まさか!」

「もう(おそ)い! 最後に貴様等(きさまら)道連(みちづ)れにしてくれ――」


 気付(きづ)いた私を嘲笑(あざわら)って何かを言いかけたクシエルの首が、綺麗(きれい)切断面(せつだんめん)を残して()き飛んだ。嘲笑(ちょうしょう)()り付けたまま、クシエルの首が(ころ)がる。一拍(いっぱく)遅れ、残った切断面から血が()き出した。


「……遅かったか」


 何時(いつ)の間にか抜剣(ばっけん)していたルシファー陛下が、静かに剣を(おさ)めながら空を見上げた。どうやら陛下が首を()ねたらしい。(まった)く見えなかったけど。


 しかし……そんなことは、最早(もはや)どうでも良いことだった。


「……そのようですね」


 私も空を見上げる。


 そこには、こちらを目指(めざ)してゆっくり落下する最後の『ニガヨモギ(ラーナー)』があった。再使用に二日()かるというのは間違(まちが)いだったらしい。(たん)に二日掛かったのは、シュパン村を正確に(ねら)(ため)、『聖別されし者(マシアハ)』をメンテナンスしていたとか、そんな所だろうか。


「……最後の、仕事ですね」


 私の口から、無意識(むいしき)にそんな言葉が()れた。


 そしてゆっくりと長杖(ちょうじょう)の先を、落ちてくる猛毒(もうどく)の星へ向ける。


「リーファちゃん! 無理して止めんでも、ここから急いで逃げれば――」

駄目(だめ)です、シャラ。ここには川があります。汚染(おせん)された水は、海へ(そそ)がれる。どの道、あれを消し()らねばならないのです」


 汚染された水はやがて海へ辿(たど)り着き、多くの生命を殺すことになる。そんなことを、(ゆる)(わけ)にはいかない。


「そんな…………」


 ありがとう、シャラ。私を気遣(きづか)っての事だよね。


 でも、もう限界(げんかい)()えているのは分かっていたんだ。だって――


「……リーファ、奇跡を使うつもりか」

「シャムシエル、もう止めませんよね?」

「……ああ」


 シャムシエルは、私の顔を見て答えている……そのつもりなのだろう。


 その凜々(りり)しい瞳から、ぽろぽろと涙が(こぼ)れた。


「……そうだ……っ、もう、私には……リーファの姿(すがた)が……見えていないのだから……!」


 先程、私の顔を二度見(にどみ)した時から、薄々(うすうす)気付いていた。


 この中で、シャムシエルや陛下のお付きの悪魔たちは座天使(スローンズ)以下の存在であり、私の姿が認識(にんしき)出来ていないような態度(たいど)を取っていた。シャラだけは、私を()(しろ)にしている為に見えていたのだろう。


「……そうだったのか、リーファちゃん。馬鹿だねぇ……」

「サマエルさん……」


 うちの長姉(ちょうし)は、長杖を(かま)える私の身体を、そっと後ろから()()めた。戦いで火照(ほて)った彼女の身体が、(あたた)かくて心地良(ここちよ)い。


「馬鹿だけど、大好きだよ。シャムシエルに、ママさん、アンナには見えなくなっても、アタシはリーファちゃんの(そば)に居てあげる」

「…………はい、ありがとうございます」


 (やさ)しい悪魔のお姉さん。本当に、彼女にはお世話(せわ)になった。


 そしてこれからも、私は彼女のお世話になるのだろう。


「でも…………」


 私は一旦(いったん)言葉を切り、()いた片手で涙を(ぬぐ)った。


「……(あきら)めるつもりは無いのです。絶対にまた、(みな)と笑い合えると、信じています」

「……そっか」


 そこまで話し終わった所で、サマエルさんは私から(うで)(ほど)いた。


「もう、時間はありません。奇跡を行使(こうし)し、あの星を落とします」


 私は後ろに居る皆へそう告げると、術式(じゅつしき)構築(こうちく)に入った。



 ……もう、この身体も限界(げんかい)だろう。視覚的(しかくてき)に認識出来るとか出来ないとか、それ以前に私の身体が()たない。そんな気がする。神へと昇華(しょうか)してしまうのではないだろうか。


 でも、愛する者たちを守れるのだ。何を(まよ)う必要があるというのか!



「主よ、創造(そうぞう)の光であるべきはじめの姿へと()(もど)(たま)え――」


 私は術式(じゅつしき)(つむ)ぎ――そして、最後の奇跡を展開(てんかい)した。


「〈光あれ(イェヒー・オール)〉!」


◆ひとことふたことみこと


世界最強の悪魔、しかも一国の皇帝陛下に睨まれたら、そりゃ気絶もしますよね。


既にリーファちゃんの身体は神と等しくなっていたようで、能天使であるシャムシエルには見えなくなっていたのでした。

悪魔に神が見えるのかという話にはなりますが、力自体は天使時代のそれと等しいのでアザゼルたちにも見えているようで。

ベートにも見えていたのですが、実は彼女、シャムシエルより遙かに格が上でした。世界創造の時に創られた神獣たちの娘ですしね。


リーファちゃん最後の奇跡。

果たして彼女の運命や如何に。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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