第一八一話「仲間たちは集い、そして世界最強もやって来た」
何処から湧いて出るのか、メタトロン様、アザゼル、シャムシエルが倒せど倒せど、天使たちは次々とやって来る。奇跡でだいぶ落としたというのに、これ程までに居るとは思わなかった。そりゃメタトロン様の部隊も負ける訳だ。
「ちっ! 次から次へと!」
「全くだ! だが、リーファには触れさせん!」
舌打ちをするアザゼルと、同感だと悪態をつきながらも天使たちを斬り伏せてゆくシャムシエル。メタトロン様曰くこの天使兵たちは殆どが能天使だというのに、シャムシエルは全く気にすることなく殺している。この辺、私たちと感覚が違うのだろうか。それにしても同じ階級相手でもこれ程までにシャムシエルは強いんだな。
「なっ、何だ!? 水が……がっ!?」
後方から聞こえた声に振り返ると、天使兵たちが次々と水に頭を射貫かれていた。これは一体……?
(あたしよ、あたし)
「わっ!?」
「なんや? どないしたんやリーファちゃ……わっ!?」
突如響いた声に驚いた私へ不思議そうに尋ねたシャラも、何やら驚いた様子。もしかして、同じように声が聞こえたんだろうか。
「……って、この声、ベートさん?」
(あたり。こいつら敵でしょ? 仲間を連れて来たから助けたげる)
ベートさんが仲間を連れてわざわざ戻ってきて、水の精霊魔術で助けてくれているらしい。そう言えばここは川の側だった。精霊魔術ならば〈神域〉の影響も受けないし、多分この声も精霊を介して語りかけているのだろう。
「……ありがとうございます!」
「おおきに! 助かる!」
「え、ナニ突然? 見えない誰かと交信中? 怖いんだケド」
ハニエル様が普通に引いていた。
如何にメタトロン様たちが強かろうが、無傷では居られない訳で。ハニエル様が神術の複数展開で癒したりもしているけれど、限界はある。段々と味方の手傷は多くなってきた。その上、油断をしたら死に至る状況である。精神的にも張り詰めているだろう。
こんな時、身体が言うことを聞かないのがもどかしい。敵はまだまだ無傷の兵たちが上空で控えているようだし、奴等を叩きたいのに。
そう思い空を見上げた直後、空に舞う天使の一人の頭が、石榴のように弾けたのを見た。そして次々と同じように天使たちが殺されていき、彼らは蜂の巣を突いたように散り始めた。これは――間違い無い!
「……サマエルさん!」
この正確無比な狙撃の腕はサマエルさん以外には居ない。それにしても、南の方へ誰かを迎えに行くと言っていたけど、一体誰を迎えに行ったのか。
と、南の空を見た瞬間、私は強烈なプレッシャーに思考が止まったような気分を覚えた。
そのプレッシャーを放っているのは……上空に留まる悪魔の兵士たちの中心に居る。いや、御座すお方だ。長い黒髪をたなびかせる、一二枚の黒い翼を持つ美しい男性の悪魔。
「朕が許す! 聖女の上空に居る敵の天使共を滅ぼせ!」
……朕?
今、あの長髪の黒い悪魔、朕って言った? え、まさか……?
何時の間にか形勢は逆転しており、残る敵兵はクシエルと、クシエルの側近らしき者たち数名だけだった。途中、彼らは戦場から離脱しようとしたものの、無情にもサマエルさんの狙撃により翼を射られて叶わなくなってしまった。
ハニエル様も神術防壁を解いたところで、私の所へ先程到着した美しい悪魔がやって来た。いや、いらっしゃった。
「ああ、よい、膝をつくな。その服が戦場の血に濡れてしまうだろう?」
いえだいぶ返り血に染まってますけどね。でもお気遣い頂いているのにそんなこと言えない。
「その…………はい、恐縮です……」
私だけでなく、シャラまでがっちがちに緊張してしまっている。だって、目の前に御座す悪魔って……。
「ふむ……美しいな。整った顔に、柔らかそうな唇。翠色の髪と瞳は西方の血か? だが、姿も美しいが……何より、自らの存在を犠牲にしてまでも愛する者たちを救おうとするその慈愛の心、それこそが何より美しい」
「あっ……、もっ、勿体なき、お言葉です……」
馴れ馴れしく髪と頬に触れられて口説かれたけれど、それを撥ね除ける勇気は私に無い。こ、これ、どうすればいいの?
と思っていたら、私を弄んでいた気高きお方の頭を、スパーンと叩いた人、いや悪魔が居た。側近の方々の空気が凍り付く。
「ちょっとルシファーくん!? アンタこんなトコでリーファちゃんを口説くんじゃない!」
叩いたのはやっぱりサマエルさんだった。そしてやっぱり、目の前のお方はカナン神国と並んで最強の国と呼ばれる、ヴィニエーラ帝国の皇帝、ルシファー陛下だった……。
信じたくは無かったけど、サマエルさんはマブダチである皇帝陛下と、その直属の部隊を連れてきたらしい。正気ですか? いや、お陰で助かったんだけどさ……
「戯れだ、許せ、サマエル」
「許さん。奥さんにチクる」
「そこをなんとか……」
先程まで悠然としたお姿だったのに、奥様を出された途端に頭を下げて懇願する陛下。告げ口されるのがそんなに怖いんですか……。
◆ひとことふたこと
精霊は、それ自体が何かしらの依り代を持って動く存在です。
そして精霊魔術は精霊に呼び掛けて行使するので、魔術とは言いますが魔力を必要としないのです。
やって来ました、リーファちゃんを除けば世界最強キャラのルシファーくん。
そして口説かれるリーファちゃんもまんざらでは無さそう(笑)
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