第一八〇話「反逆者たちとの戦いが、始まる」
※リーファちゃんの一人称視点に戻ります。
「う……ぐっ……」
「無茶し過ぎや、リーファちゃん!」
流石に、〈神の炎〉、〈メギドの丘〉、〈安息を〉の三連発は私の身体を大きく消耗させてしまった。慌てて駆け寄ったシャラに、強く抱き締められる。
「シャ……ラ、私のことは、いいから、敵を……」
「……分かった! リーファちゃんは休んでるんやで! 天に満ちる第五元素よ! うちらを狙う奴等を返り討ちにせえ! 〈彗星〉!」
すぐに立ち上がり、シャラは眼前に迫る天使たちを撃ち落とす大魔術を放った。天から雨あられと魔力弾が降り注ぎ、天使たちは次々と翼を射貫かれてゆく。
しかし魔力弾を掻い潜った天使たちも居る訳で、彼らは私たちへと真っ直ぐ急降下してきた。このままでは――
「〈聖壁〉!」
詠唱も無く展開された神術防壁が私たちを包み込み、急降下してきた天使たちは次々と跳ね飛ばされた。
「アタシを忘れて貰っちゃ、困るんだよねー」
「貴様! ハニエルか! 生きていたのか!」
「そーそー、聖女ぴのお陰でねー、マジ感謝しか無いって」
叫ぶ髭面の天使に対して、余裕の態度で返すハニエル様。それにしても聖女ぴって何だ。何語なんだ。
「よう、俺も忘れて貰っちゃ困るぞ、クシエル。二日ぶりくらいか?」
上空で戦っていたのか、神術防壁の前で立ち塞がるように舞い降りたメタトロン様。って――
「あれが、クシエル……?」
「そうだ。こいつらを煽動した首領だな。おい、覚悟しろよクシエル」
「メタトロン……!」
メタトロン様をまるで親の仇のように歯軋りしながら睨み付けるクシエル。何がそんなに憎いのか。やっぱり地位に対する嫉妬か何かなのだろうか。
「……ククク、だが、聖女は既に力尽きた。後は二日前と同じくその防壁を破壊し、聖女を殺すまでだ。こちらにはまだまだ兵が居るからなァ!」
「させるかよ!」
クシエルの言葉が皮切りとなり、天使たちが一斉に私たちへと密集し、防壁へと斬りつけ始めた。敵はまだ一〇〇人以上は居る。このままではヤツの言う通り、いずれ防壁は突破されてしまうだろう。
「オラオラァ! まったく虫みてぇにゾロゾロと! 吹き飛びやがれ!」
メタトロン様は集まる天使兵を、大剣を振るって言葉通りに吹き飛ばしている。でも、メタトロン様の身体がどれだけ保つのか。一〇〇人以上を相手取る事は出来るのか?
「くっ! 〈神域〉を使われとる! 魔術が発動せえへん!」
シャラは魔術を封印されてしまったらしい。この状況を打破するには、私が――
「主よ、万軍の神よ……ぐっ……」
「リーファちゃん! もうあかん! これ以上使うたら身体が保たへんで!」
〈神の恩寵〉でメタトロン様を援護しようとしたものの、身体が言うことを聞かない。神の純粋な神気を取り込み過ぎて、恐らく身体が変質してしまった為に順応出来ていないのだろう。なおも杖を掲げようとしたけれど、シャラに止められてしまった。
「うーん、まだまだ耐えられるけど、この数はヤバいかもねー。時間の問題?」
ハニエル様は余裕そうな態度だけど、言葉の内容は絶望的だった。そんな、ここまで頑張ったのに。
そう思った時に、黒い何かは突然降ってきた。
メタトロン様を背後から斬りつけようとしていた何かが、その黒い何かに肩から反対側の脇腹まで真っ二つにされ、物言わぬ死体へと成り下がった。
「ア……アザゼルさん!」
「アザ……ゼル……?」
叫ぶシャラと、なんとか言葉を絞り出した私の方へ、執事のような黒い服に身を包んだ悪魔は、ニヤリと笑みを浮かべてみせた。手にはこの間持っていた〈慈悲の剣〉ではない、新たな聖剣……〈高潔なる〉だったか。やはり母さんから借りてきたのだろう。
「間に合ったようだな。あと、俺だけではないぞ」
「えっ…………シャムシエルさんや!」
アザゼルに追いつこうと急いで飛んできたのだろう。シャムシエルは息を切らせていたものの、群がる天使兵を次々と〈隠された剣〉で葬っていった。
「まったく、洞窟を逃げ出すとは思わなかったぞ、リーファ。この事はしっかりと後で――」
ちらり、とこちらを見て何か言いかけたシャムシエルだったけど、驚いたように何故か私を二度見した。え、一体何?
「……後で、きちんと説明して貰うからな、覚悟しておけ」
「う、うん……?」
え、何だったんだろう、今の反応は。ちょっと気になる。
◆ひとことふたこと
聖女ぴっぴ。
オートクレールはクルタナと同じくシャルルマーニュ伝説に登場する剣です。
騎兵に斬りつけた時、真っ二つにした上に馬まで斬り裂いたという、とんでもない切れ味を持っているんだとか。
〈魔剣のアナスタシア〉と呼ばれる魔女は、こんな名剣まで持っていました。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!