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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一七七話「火中の栗を拾いに行こう」

 二発目の『ニガヨモギ(ラーナー)消滅(しょうめつ)後、私たちは近くの大きな川まで来ていた。ベートさんは護衛(ごえい)遠慮(えんりょ)していたんだけど、方向(ほうこう)が同じだったので結局(けっきょく)一緒(いっしょ)に来てしまった。


「それじゃあ、二人とも気を付けて。リーファ、あまり無理(むり)をしては駄目よ」

「はい、ベートさんもお元気で」

「また会おうな、ベートさん」


 (たが)いに別れを()げた後、ベートさんは川へ()()まれるように消えて行った。飛沫(しぶき)一つ立てないのは魔法ではなく、生まれ持っている技術(ぎじゅつ)なのだろう。この川の流れだと、彼女は東の海に向かうのだろうか。


「さて、また二人になってもうたな」

「そうだね。……クシエルの兵が来るまでに、作戦を()っておこう」


 相手は天使だ。空を飛んでくる(ため)圧倒的(あっとうてき)に向こうが有利ではある。


 けど、逆に言えばその飛んでくるのをなんとかすれば、私たちにも勝ち目はある(わけ)で。


「どうする? うちが攻撃する? 〈彗星(コメット)〉なら飛んでる相手に有利やで」


 〈彗星〉か。(たし)かに空から魔力の(たま)を落とすのは効果的(こうかてき)ではあるけど……


()()らしたら接近(せっきん)されて不利になる。私たちは魔術師だからね」

「リーファちゃんは近接(きんせつ)出来(でき)るって、アナスタシアさん言うてたで?」

「ちゃんと訓練(くんれん)してる兵士には勝てないよ……」


 いくら私が剣の修行(しゅぎょう)もしているとは言え、本職(ほんしょく)相手に勝てる訳が無い。瞬殺(しゅんさつ)がオチだろう。


「私よりシャラの方が防壁(ぼうへき)得意(とくい)でしょ? シャラが守り、私が奇跡で攻撃の方が良くない?」

「〈神域(パーミッション)〉とか使われたら、魔術防壁も紙切れになるで」


 あ、そうか。近づかれた後に魔力の術式(じゅつしき)(ゆる)さない神術(しんじゅつ)〈神域〉を使われたら防壁が(こわ)れる。だとしたら……私が神術か奇跡で防御(ぼうぎょ)、シャラが攻撃の方がいいのか。


「いっそのこと、二人でぶっ(ぱな)すのもええかも知れんな。撃ち漏らしが無いように」

物騒(ぶっそう)だね……、でも、今更(いまさら)か」


 傷つけることを(おそ)れていては、勝てるものも勝てない。覚悟(かくご)を決めたんだろう、リーファ。


 ……でも、気になるのは――


「そう言えば、さっきも話したけどさ、どうしてクシエルの部下たちは無茶(むちゃ)な命令に(したが)っているんだろうね?」

「そやなぁ……。あれやないの? アザゼルさんもそうやったって聞いとるけど、(のろ)いを()けられとるとか?」

「呪い、かぁ……」


 確かにラファエル様からは、クシエルは手段(しゅだん)を選ばないと聞いているけれど、まさか神術とは正反対の呪いなんていう手段を使ったりするだろうか? だとしたら、どうやって部下全員に呪いを掛けたのか? ということも気になる。


「呪いじゃなくて、シャラが掛けられていた魔術なのかも?」

「その可能性(かのうせい)もあるなぁ」


 かつて女神だった(ころ)のシャラは、大悪魔ベリアルに魔術を掛けられて()のままに(あやつ)られていた。呪いとは(ちが)う力だけど、魔術的な制約(せいやく)というのは呪いのようなものだ。


 でもやっぱりその手段も、大勢(おおぜい)に掛けるとなると限界(げんかい)がある。それに失敗すると呪い同様(どうよう)、自分が魔術に掛かってしまう恐れもあるのだ。


 二人で可能性についてうんうんと(うな)っていたその時。


 少し坂を登った(あた)りの所から、轟音(ごうおん)が鳴り(ひび)いた。


「な、なんや!? 襲撃(しゅうげき)か!?」

「あそこは……私が奇跡を(はな)った場所……かな……」


 轟音の正体は分からない。まさか砲撃(ほうげき)? いやいや、天使がそんなもの用意して飛んで来たとは思えないし、遠方(えんぽう)から正確無比(せいかくむひ)にあの場所を(ねら)えるとも思えない。でもあの音からすると、もの(すご)い速度で何かが突撃(とつげき)したような――


 ……まさか?


「ねえシャラ、様子(ようす)を見に行ってみない?」

「はぁ!? 正気(しょうき)かリーファちゃん、また狙われたら飛んで火に()る夏の虫やで!?」

「たぶん、攻撃じゃない。その証拠(しょうこ)に、近くに天使の姿(すがた)は無い」


 うん、空を見ても、誰も居ない。ならばこれは攻撃ではなく――


「あ、ちょっと! リーファちゃん!」


 私はシャラの声も()たず、坂道を()け足で登り始めた。


 そして、到着(とうちゃく)したその川の(そば)には、大きな陥没(かんぼつ)が生まれており、その中心には――


「……やはり、そうでしたか」

「よう、リーファ……に、シャラ? 取り()えず、傷を、治してくれねぇか……?」


 メタトロン様は気を失っているもう一人の御前(ごぜん)の天使を(かか)え、息も()()えといった様子でそう懇願(こんがん)してきたのだった。


◆ひとこと


〈神域〉を使われると魔術は使えなくなります。

なので神術と魔術の対決だと圧倒的に神術が有利。

奇跡はどっちにも圧倒的に強いので、ジャンケンにはなりません。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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