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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一七五話「ドーンと行きますよ、ドーンと」

 不安(ふあん)杞憂(きゆう)だったらしく、シャラと交代(こうたい)でしっかり六時間の仮眠(かみん)と食事を()った後、私たちはベートさんと一緒(いっしょ)地底湖(ちていこ)をぐるりと迂回(うかい)するような形で歩き、再び地上を目指(めざ)すべく登り続けた。ベートさんも(はだか)のままは私たちが気まずいので、取り()えずコートを(まと)って(もら)った。


 ベートさんが歩くことにそれほど()れてはいないので休憩(きゅうけい)しながらとはなったものの、私たちはようやく外の光へと辿(たど)り着くことが出来(でき)たのだ! ああ、(ひさ)しぶりのお外で心が(おど)――


「………………」

「………………」


 私とシャラの二人は、目の前を(ふさ)いでいる崩落(ほうらく)現場(げんば)を前に、沈黙(ちんもく)していた。


「ね? こうなってて、ここからも出られないのよ」

「……(たし)かに、これは出られませんよねぇ……」


 大きな溜息(ためいき)()くベートさんの話に、私は大いに納得(なっとく)した。崩落した岩はほぼ天井まで(とど)いており、これでは水を得意(とくい)とする神獣(しんじゅう)の力では出ることが出来ないんだろう。


 でも、私なら出来る。


「リーファちゃん、いける?」

「うん。シャラは外に何か居ないか魔力探知(たんち)をお(ねが)い。大怪我(おおけが)させちゃうからね」


 要領(ようりょう)()ないシャラの質問にも、意図(いと)理解(りかい)した私はそう返す。こんなのは奇跡で何とか出来るのだ。


「え、貴女(あなた)たち、まさか(こわ)す気? 無理じゃない?」


 (おどろ)きと(あき)れが()(まじ)じったような、そんな視線(しせん)を向けてくるベートさんの手を取り、少し後ろへ引っ()った。危ないからね。


「リーファちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)。なんもおらんよ」

「分かった。じゃあシャラも下がって、危ないから」


 シャラが下がったのを見届けて、私が先頭に立ち、長杖(ちょうじょう)(かま)える。崩落した岩を()き飛ばさねばならないので、使う奇跡は一つしか無い。


「主よ、どうかそのお力で、正しき怒りを(しめ)(たま)え、〈怒り(アフ)〉!」


 奇跡の術式(じゅつしき)展開(てんかい)し、猛烈(もうれつ)圧力(あつりょく)が崩落現場を(たた)く。轟音(ごうおん)(とも)に岩の(むれ)れは軽々(かるがる)と私たちとは反対側へ吹っ飛んだ。それと同時に、外の光が()()む。ずっと暗い所に居たから(まぶ)しい。


「………………なにこれ」

「ベートさん、口開けとったら砂入るで」


 ぽかんと口が開けられたままのベートさんの(あご)を、シャラがトントンと叩いていた。




 洞窟の出口は、岩肌(いわはだ)ばかりだった反対側のラウ山とは(ちが)い森が広がっていた。ここは山の(ふもと)なんだろうか?


「リーファちゃん、うちらどっち方向に歩いとったんや? 西側?」

「いや南東に歩いてたよ。ここはラウ山の南東にある山の麓かな?」


 (はる)か北西にシュパン村、北にベンカーの町が見える。ここからならシャムシエルたちにも見つからず、クシエルも横から不意打(ふいう)ちが出来るだろう。もう少し移動したら()()せかな。


「で、リーファ。外に連れ出してくれたのは有難(ありがた)いんだけど、あの力は一体何?」


 (われ)に返ったらしいベートさんに()()られた。まぁそうなるよねぇ。


「え? あ、あー……神の奇跡です」

「はぁ?」


 お前何言ってんだよ的な目で見られたので、観念(かんねん)した私は奇跡を行使(こうし)出来るようになった経緯(いきさつ)を話した。ついでに元男であることも。


「主の神気(しんき)を使って、人の子が奇跡を起こすなんて……あり()ない……」

実際(じっさい)に目の前で起こったことやで」

「そうなんだけど……」


 神獣(しんじゅう)の娘だし思う所もあるのだろう。シャラの無情(むじょう)な言葉に、ベートさんは頭痛を(こら)えるように頭を押さえている。


「……まぁ、いいわ。取り()えずあたしは川に(もど)るわね。外へ出してくれてありがとう」

「あ、川まで護衛(ごえい)しますよ」

「そこまで世話(せわ)になる気は……ん? 何、あれ」


 私の(もう)()(ことわ)ろうとしたベートさんは、言葉を切り、北の空を指さした。私とシャラも(そろ)ってそちらを見上(みあ)げる。


「あれは……!」


 見れば、遙か北にあるベンカーの町。その上空。その光景(こうけい)を見た私はそう(さけ)ばざるを()なかった。


 そこには、(なな)めにゆっくりとシュパン村を目指して落下する『ニガヨモギ(ラーナー)』がはっきりと見えたのだから。


◆ひとこと


やっと外に出られたと思えば、降ってきたのはニガヨモギ。

リーファちゃんはコレをどうにかできるのでしょうか?


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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