第一七三話「ミミズ駆除も聖女の役目……なの?」
「リーファちゃん、防御の交代は出来る?」
「いや……私の防壁じゃあ……囓られたら壊れるかも……」
幾ら神気が無尽蔵とは言え、シャラのように見事な防壁を張れる自信は無い。となれば……
「……奇跡で攻撃するしか、無いかな」
攻撃魔術は下手っぴで、攻撃神術もこの巨体に効くものは持ち合わせていない。であればもう、奇跡を使うしか無いんだろう。
「……大丈夫なん? 使いすぎると……」
「平気。それにここは出し惜しみする所じゃないと思ってるし」
魔術防壁を維持しながら心配してくれるシャラにそう返すと、私は意を決して右手で長杖を構え、先ずは左の巨大蚯蚓へともう片方の手を翳した。相変わらず蚯蚓たちはがじがじと防壁を囓り続けている。本能のままに私たちを目指しているのだろう。
すぅっ、と小さく息を吸い、久々に使う奇跡の準備をする。……大丈夫、問題無く使える筈だ。
「……主よ、私に悪を討ち滅ぼす聖者の槍を与え給え、〈竜殺しの槍〉!」
翳した私の左手から生まれた光の槍が、左の巨大蚯蚓の口の中へ吸い込まれる。そしてそのまま口腔内から外へ貫通し、天井に縫い付けた。
「って、あんま効いてないように見えるなぁ……」
「……そうだね……」
巨大蚯蚓は天井に縫い付けられたまま、ジタバタと元気に尻尾(?)をばたつかせている。あの様子だとすぐに槍が抜け……あ、抜けた。
そして再び魔術防壁を囓りに掛かる。振り出しに戻ってしまった。
「……仕方ない。洞窟内ではあまり使いたく無かったんだけど……」
「え、なんやその不穏な物言いは」
シャラが不安そうだけど、もうこの手しか無い。
私は水筒を取り出し、口を開けた。
「シャラ、しっかり防壁を維持しててね! ――主よ、冒涜せし者を永久の業火で焼き払い給え、〈神の炎〉!」
かつて空から『獣』を迎撃した巨大な炎の玉が、巨大蚯蚓二匹の胴体(?)あたりに生まれる。そして蚯蚓たちに着いた炎は、あっという間にその全身へと巡り――
「あ、あちゃ、あっちゃっちゃ!」
猛烈な熱に悲鳴を上げるシャラ。でも防壁を解く訳にもいかないので、頑張って欲しい。
「シャラ、もうちょっと耐えて! 『水の精霊ウンディーネよ、私たちと炎の間に壁を作って!』」
精霊語でそう呼びかけた直後、水筒から飛び出した水が膜となり、私たちを炎から守るようにしっかりと張られた。良かった、呼びかけに応えてくれたようだ。
「あ、熱かった……。リーファちゃん、それ精霊魔術なん? そんなのも使えたんや?」
「うん、一応ね。水の精霊とは仲が良いんだ」
私が涙目のシャラにそう答えると、水の精霊ウンディーネは手乗りサイズの女の子の形を取り、「ねー」と私に向かって微笑んだ。小さい頃から、水とだけは相性が良いのである。
「むぅ、なんかジェラシーや……」
「精霊相手に嫉妬しないでよ……って、シャラも精霊だけどさ……」
まあ、シャラは所謂上位精霊だから、下位精霊のウンディーネとはそもそも在り方が違うのだけど。普通に精霊語以外話せるし。
「っと、巨大蚯蚓も流石に息絶えたかな?」
見れば燃え盛っていた巨体は、あっという間に炎で縮んでしまったらしい。残ったのは黒焦げの何かだった。流石に神炎はよく燃える。
「さて、蚯蚓の死体がある所は酸欠になるから通らない方が良いね。もうホールの真ん中は安全だろうし、そこを通って行こうか。『ウンディーネ、ありがとう。また助けてくれると嬉しいな』」
精霊語で再びウンディーネに呼びかけると、小さな水の精霊は「またね」と手を振ってから水筒に戻っていった。
「……後でその水を飲むんやと思うと、なんや微妙な気持ちになるんやけど……」
「大抵の水には精霊が宿ってるよ?」
「いや、そら知っとるんやけどな……。まあええわ……」
なんかもにょっているシャラ。言いたいことは分かるけどね。というかシャラは自身が精霊なのに他の精霊とあまり関わってないのかな? 勿体ない。
炎で空気が悪くなっているので、あまりこの場に留まっているのは宜しくない。早々に私たちはその場所を離れ、巨大蚯蚓の住処だった場所を突っ切っていくことにした。
◆ひとことふたことみこと
益虫と呼ばれるミミズですが、花壇などでは厄介者と思われるようで。
そしてここまで巨大だったら害虫でしか無いでしょう、はい。
リーファちゃん、久々に奇跡を行使!
ここからは主人公らしくガンガン活躍していきますよ!
ここに来て初めて登場の精霊魔術。
ですが実は過去話で水の精霊について触れているところがあります。何処でしょうね?
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次回は明日21時半頃に更新予定です!