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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一七一話「まさか再びこの姿を見られる日が来るなんて思わなかった」

「来たか」


 私が来ないことなど(まった)く考えていなかったのだろう。ペル殿下(でんか)とお付きのメイさんは、地竜(ちりゅう)族の居住区(きょじゅうく)、その少し(おく)まった所で当たり前のように()ち受けていた。ここまでの分かれ道は細いものしか無かったので(おそ)らくここだろうと思って歩いてきたけど、正解だったか。


「……って、え、えぇっ!?」


 私は(さら)に、メイさんの横に(ひか)えている人物――いや、人じゃなくて精霊(せいれい)なんだけど――を見つけて、(おどろ)きの声を上げてしまった。


(やかま)しいぞ聖女。()()けておる。地竜(ドラゴス)とて夜は眠りについておるのじゃぞ」

「も、(もう)(わけ)ございません……で、でも、えぇっ!?」


 そこには見まごうことも無い、いつか女神だった(ころ)姿(すがた)をしたシャラが居たのだ。


「リーファちゃん、あまり大声出したらあかんで? 殿下の(おっしゃ)る通りや」

「驚きもするでしょ……。なんでシャラが元の姿に戻ってるの? 神格(しんかく)を取り(もど)したとか?」


 シャラは一年半くらい前に女神としての肉体を(うしな)い、その半年後に精霊としての半霊体(れいたい)()て、幼児(ようじ)の姿で復活(ふっかつ)した。だけど、目の前に居るのは(まぎ)れもなく失った肉体と同じく、私と同じ年頃(としごろ)の姿である。


「いやいや、神格は取り戻してへんよ、精霊のままや。殿下がシュパン村の避難(ひなん)の時に、お手持ちの竜玉(りゅうぎょく)紐付(ひもづ)けてくれたんや」

「うむ。つまり今のシャラは竜玉の力で生きておるということじゃな」


 どうだ見たか、とばかりにふんぞり返るペル殿下。……なんというか、とんでもないことをするな、この地竜王女。


 精霊であるシャラは、自らの身体を維持(いじ)する(ため)に何か()(しろ)を持っている必要がある。今までそれは一本の若い()だったのだけれども、魔術で依り代を変えたというのか。で、依り代の力が十分(じゅうぶん)だから、シャラの姿も元に戻っている、と。


「はあー、つまりこれからシャラは、その竜玉と(はな)れることは出来(でき)ないんですね? なんと言いますか、それも不便(ふべん)そうですが」


 精霊は(つね)に依り代の近くに居なければならない。逆の言い方をすると、依り代自体から離れようとしても離れられないのだ。


 そして、竜玉とは古竜(エンシェントドラゴン)秘宝(ひほう)とも言える物と聞いたことがある。そんな存在(そんざい)(むす)びつけられてしまったら、自由も()かなくなるよねぇ。


 しかし、私の質問に「お前は馬鹿か?」とでも言いたげな顔を見せる殿下。何というか、……ちょっと(はら)が立つお顔だ。


「何を言うておる。竜玉には一時的に紐付けたに()ぎん」

「えっ。と、いうことは――」

「結べ、そして(うつ)せ。〈転霊(シフトソウル)〉」


 私がその先を聞こうとするのを無視(むし)して、殿下が私の知らない魔術を行使(こうし)した――途端(とたん)、ドクンと自分の心臓(しんぞう)()ねる音を聞いた。


「うっ…………?」


 一瞬(いっしゅん)不快感(ふかいかん)眩暈(めまい)(おそ)われ、よろめいてしまう。が、シャラが(かた)(ささ)えてくれた。


「リーファちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)?」

「だ、大丈夫……、ありがと。何、今の……」


 まあ、十中八九(じっちゅうはっく)、殿下の魔術の所為(せい)だと思うけど。その証拠(しょうこ)に殿下は「うむ、成功じゃな」とうんうん(うなず)いている。


「あの……、まさか、私の生命力にシャラを紐付けたんですか?」

「そうじゃぞ? これから行く所は、一人じゃと危ないからのう」


 ……つまり、今私にはシャラが取り()いているような状態(じょうたい)なのか。死霊(しりょう)じゃなくて精霊だから、取り憑いているというのは少し(ちが)うけれども。


「私の生命力、()つかなぁ……」

「なに、違和感(いわかん)は精霊を結びつける最初の時だけじゃ。存在の維持にはそれほど力を使わんから安心せい」


 そーなのか。でも、これで私とシャラは一蓮托生(いちれんたくしょう)になっちゃったような……?


「えーと……、これって、私に命の危険があったら……」

「シャラも死ぬのう。なので、頑張(がんば)るのじゃぞ」

「頑張るんやで、リーファちゃん」

「……シャラ、他人事(たにんごと)みたいに言わないでくれる?」


 ケラケラ笑うシャラに、思わずびしっと()()みを入れてしまった。一回死んでるからここら辺の感覚(かんかく)(にぶ)くなってるんじゃない?


「さて、シャラの移動が終わったところで、行くぞ、聖女よ」


 そう仰って、殿下はさっさと(きびす)を返して……って、そっち奥じゃありません?


「……あの? 殿下、そちらは逆ではありませんか?」


 明らかに殿下は洞窟の奥の方へと向かっている。私は外に出たいんですけど?


 困惑(こんわく)する私に、お付きのメイさんが無言で(たた)まれた一枚の大きな紙を差し出してきた。受け取って広げてみると……


「洞窟の、地図?」


 そこまでお膳立(ぜんだ)てをされ、ようやく私は殿下の意図(いと)(さと)った。


「……あ、なるほど……」


 そうか、シュパン村方向にある洞窟の入口からはサマエルさんとの約束で通す事は出来ないし、外ではシャムシエルたちが巡回(じゅんかい)している。


 けれども、洞窟は別の出口にも(つな)がっているのだ。そこから出るならばその懸念(けねん)を吹き飛ばすことが出来るというわけだ。それにこれならクシエルの(うら)()くことも出来るだろう。


 …………でも。


「あのー……所々(ところどころ)巨大蚯蚓(ジャイアントワーム)』、『毒ガス注意』、『落ちれば奈落(ならく)』とか、不穏(ふおん)な内容が書かれているのですが、これは一体……」

「うん? 注意書きの通りじゃが。道を間違(まちが)えるなよ、本当に死ぬぞ」


 え、えぇぇ……、もっと穏便(おんびん)手段(しゅだん)は無かったんですかぁ……?


◆ひとこと


というわけで、シャラの完全復活です!

一人で行くと危険なので、バディとしてペル殿下が準備したのですねー。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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