第一六八話「また軟禁されてしまった」
「…………うぅ?」
瞳を開けたが、辺りはぼんやりとした神術らしき灯りに包まれている。誰かの気配はするものの、今は何時だろう? それとなんか土臭いというか。
「目が覚めましたか?」
「……あれ、ラファエル様?」
そうだ、あの時シャムシエルに気絶させられて――
「えっ!? ここ何処ですか!?」
はっきり頭が覚醒し、自分が簡素なベッドに寝かされていること、そして左側が何故か岩壁であることに気付いて声を上げた。が、ラファエル様は黙って口に指を当てる。
「今は夜です。皆さん寝静まっているので、静かにしてくださいねぇ」
「あ、はい……。で、何処なのですか? ここは」
「ここはラウ山にある洞窟ですねぇ。地竜族の住処にお邪魔させて貰っているのです。シュパン村の避難民を受け入れてくださったのですよ」
「地竜族が……」
意外だった。ペル殿下もそのお父上であらせられるグラン陛下も、人間のことには興味無さそうなのに。それだけ今回の件が重大なのだろうけども。
「ちなみにぃ、リーファちゃんをここから出さないよう、見張りの地竜さんにはお伝えしてありますので~、外に出るのは諦めてくださいねぇ」
「……そこまでしますか……」
「放っておくと飛び出して行きそうなのですもの~」
……まあ、隙あらば出て行こうかとは思っていたけど。先回りされていたか。
仕方ない、今は状況を確認するだけにしておこうか。
「地竜族は今回の敵に応戦するつもりなのでしょうか?」
「それは勿論、するでしょうねぇ。ただ……」
「ただ?」
ラファエル様は言葉を切って、小さく溜息を吐いた。何やら問題が有りそうな雰囲気だ。
「……以前、ペル殿下がナビール王国に捕らえられていたことはご存知でしょうか?」
「え? あ、はい。勿論です」
その場に居て、ペル殿下の救出作戦を実行したしねぇ。でもそれが何か関係あるのだろうか。
「実は、その時殿下を拘束していた魔術を、天使側が保持している可能性があるとの事なのですよぉ。ですから応戦するにしても、その魔術を行使されると地竜は拘束されてしまうのです」
「拘束……」
そう言えばあの時、殿下は黒い魔術の紐で拘束されていたような。あれを用いれば地竜王女でも身動きが出来なくなってしまうというのか。
「……その魔術が、何故天使側、それも旧体制派に……」
「マスティマでしょうねぇ」
あー、そこ繋がりか。使える技術だということでマスティマが流したのね。
「でも、旧体制派って魔術を嫌っていたのではないのですか? サリエル様がそうだったように」
「……サリエル様の後継である智天使クシエルは、そうでも無いのですよ~」
クシエル? 初めて聞いた名前だけど……サリエル様の後継ということは、敵の首領、と考えて良いんだろうな。
「智天使クシエルは『懲罰の天使』と呼ばれる七人の天使の一人です。災厄をもって天使や人類に罰を与える役目を持っているのですが……規律を守らない天使には、上司である私たちであろうが炎の鞭で容赦ない罰を与える頭のおかしい天使、とでも言えば宜しいでしょうか~」
あ、頭のおかしい天使、とか言っちゃったよ。ラファエル様をしてここまで言わしめるってことはよっぽどアレな天使なんだろうなぁ。
「智天使クシエルは規律に厳しいですが、逆に規律に反してさえいなければ使えるものは使う性格です。ですから魔術なども平気で使ってくるでしょうね~」
「なるほど……ところで、サマエルさんたちもここに居るんですか?」
恐らくはここに居るんだろうな。単騎で飛び出そうとした私を気絶させてまで止めたのだから、少ない戦力で戦いに出ることもないだろうし。
「能天使シャムシエル、アザゼル様、シェムハザさんは交代交代で近くの見回りをしてくれていますね。サマエル様は……南へ向かいました」
「南……『ニガヨモギ』が落ちた所、ですか?」
あの星が落ちた場所がどうなっているのか、現状確認をしに行ったのだろうか。しかしあの大爆発だし、生き残っている人たちは居ないだろう。
「それもあるのですが~、誰かを迎えに行く、と仰ってましたねぇ」
南へ、誰かを、迎えに?
一体、何をしに行ったんだ、サマエルさんは。
◆ひとことふたこと
よく軟禁も監禁もされるリーファちゃん。
重要人物だからね、仕方ないね。
クシエルは七人居る「懲罰の天使」と呼ばれる者たちの一人です。
(文書によっては五人だったりするようですが)
非常に厳格な性格をしており、規律を守らない者には容赦ない罰を与えるとか。
「懲罰の天使」はその役目からしばしば悪魔という扱いも受けるようで、はっきり「懲罰の天使とはデーモンだ」と記載されている文書もあったりするそうな。
名前の意味は「神の厳格な者」。そのまんまやんけ。
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