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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一六七話「大地を冒す星が落ちてきた」

※リーファちゃんの一人称視点に戻ります。

「リーファちゃん、無事(ぶじ)だったか」


 外で村の警備(けいび)担当(たんとう)方々(かたがた)から被害(ひがい)状況(じょうきょう)確認(かくにん)していたら、サマエルさんとシャムシエルが飛んで来た。二人とも仕事中だった(はず)だろうに、文字通りすっ飛んできてくれたんだな。


「はい、大丈夫(だいじょうぶ)です。お二人の方こそご無事で良かったです。ただ、リリが怪我(けが)をしてしまって。今コルに薬を取りに(もど)って(もら)っている所です。自宅の方も気になりますが……」

「そっちは先に見てきた。ママさんがすぐに結界(けっかい)を強化したから被害無しだよ」


 お、見てきてくれたのか。流石(さすが)仕事が早い。母さんもアンナもラファエル様も無事ということか、良かった。


「……そうです、お二人とも。『ニガヨモギ(ラーナー)』という言葉に聞き(おぼ)えはありますか?」


 私が先程(さきほど)警備してくれていた天使の一人が(こぼ)した(つぶや)きについて、二人に聞いてみることにした。


 が、その単語を聞いた瞬間(しゅんかん)、サマエルさんとシャムシエル、二人の顔がさっと青ざめた。


「……誰が、それを?」

「え、いえ、警備を担当してくれていた方のお一方(ひとかた)が、南の山の向こうに落ちる物体を見て、そう呟いて……」


 かつて無い程に強張(こわば)った表情のシャムシエルに問われ、私はしどろもどろにそう答えるしか無かった。何か禁忌(きんき)の言葉だったのだろうか?


「……マジか。この(さわ)ぎは一体何かと思ってたら、『ニガヨモギ』が落ちたのか」

「ということは……『聖別されし者(マシアハ)』が起動したのでしょうか?」

間違(まちが)い無いな」


 二人は私を()いてきぼりにして何やら真剣(しんけん)(かた)っている。……って、え?


「あの……『聖別されし者』が、起動したのですか?」

「……ああ、ここではなんだし家に戻って話そう、リーファちゃん」


 真剣な様子の二人に気圧(けお)されるようにして、コルが戻ってきた後、私はすぐに帰路(きろ)へと()くことにした。


 それにしても……『聖別されし者』が起動したということは、メタトロン様は失敗したということなのだろうか。それ程までに、過激派(かげきは)たちは手強(てごわ)かったということか……。




 家に戻った私たちは、すぐに客間(きゃくま)でラファエル様にお話を(うかが)うことにした。


 母さんはアンナの面倒(めんどう)を見ているので不在(ふざい)だ。アンナの記憶(きおく)に例の無い程の大地震(だいじしん)が起こった(ため)に、(おび)えてしまっているらしい。トラウマにならなきゃいいけど。


結論(けつろん)から言いますと、(さき)の大地震は『ニガヨモギ』の落下によるものだと断定(だんてい)して結構(けっこう)ですねぇ」

「…………そうかー。何やってんだよメタトロン」


 神術(しんじゅつ)でゲーベル(ぬま)と情報をやり取りしているラファエル様が言うのだったら間違い無いんだろう。サマエルさんが頭を(かか)えて盛大(せいだい)溜息(ためいき)()いた。


「……そろそろ教えて()しいんですけど、『ニガヨモギ』って、一体何なんですか?」


 いい加減(かげん)一人だけ何も知らないというのは(つら)い。古代神聖語で苦蓬(にがよもぎ)が、あの落ちてきた球体と頭の中で(むす)びつかないし。


「『ニガヨモギ』というのはですねぇ、空に()かぶ無数の小さな星の一種です。『聖別されし者』は、あれらを落とす力を持っていると聞いております」

「……星」


 ラファエル様の説明に、呆然(ぼうぜん)と呟く私。ゆっくりとはいえそんなものが落ちてきたのか。そりゃ大地震も起きるし(つぶて)も飛んでくるワケだ。そして南の山の向こう側には(おそ)らく、生き残っている人は居ないだろう。


「でね、リーファちゃん。その『ニガヨモギ』の(こわ)い所はそれだけじゃないんだ。あれは毒の(かたまり)で、それが(ふく)まれた苦蓬のように苦い水を飲むと死んでしまう。災厄(さいやく)一種(いっしゅ)なんだよ」

「……だから、『ニガヨモギ』と呼ばれていたのか。そうすると、南の山の向こう側は……」

「猛毒に(おか)された土地になってるね。数百年単位で元には戻らないと思う」


 なんというか……初めて『聖別されし者』の(おそ)ろしさを認識(にんしき)出来(でき)たような気がする。そりゃ世界を(ほろ)ぼせる力を持つと言えるでしょうよ。


 それにしても……


「ここの南に落ちた理由って、もしかして……」

「恐らくリーファの居るここを(ねら)って、(はず)したのだろうな。制御(せいぎょ)上手(うま)く行っていないとか、そんな所だろう。我々は助かったものの、犠牲(ぎせい)になった人々を思うと、辛いな」


 悲痛(ひつう)な表情を浮かべるシャムシエル。やっぱりそうだよね。()ずは私を狙うだろうね、そりゃ。


 でも流石に連発は出来ないんだろう。まだ次の『ニガヨモギ』が落ちてくる気配(けはい)は無いけど――


「ゲーベル沼の部隊(ぶたい)に何とかして(いただ)かなければ、また『ニガヨモギ』が落ちるのも時間の問題ですよねぇ。ですが……」


「兵器が起動されたってことは、負けたんだろうねぇ。だとすれば、メタトロンは(のぞ)(うす)か」


 溜息を吐くラファエル様とサマエルさん。お二人ともメタトロン様が無事だとは思っていないんだろうな。私もそうだ。


「しかし、制御が()かないとは言え敵は『聖別されし者』を手に入れた(わけ)だ。ゲーベル沼の次に狙われるのは、いや、実際(じっさい)に狙われたのだが……」

「……あ」


 そのシャムシエルの言葉で気が付いた。


 そうだよ。のんびりしている(ひま)は無い。兵器がコントロール出来ない以上、直接私の命を狙って、この村に天使の軍勢(ぐんぜい)がやって来る可能性があるじゃないか。


 ()(けっ)した私は、長杖(ちょうじょう)を手にし、部屋を出ようとした。




「おいおいリーファちゃん、何処(どこ)に行くの」

「………………」


 部屋を出ようとしたものの、私の行く手を(はば)んだサマエルさんに(にら)み付けられ、沈黙(ちんもく)する。


「そうですよ、ここで奇跡を使ってしまったら、治療(ちりょう)台無(だいな)しじゃないですか~」

「……命あっての物種(ものだね)ですよ?」

「でも、リーファちゃんが奇跡を使っていたら、神になって(みな)から認識されなくなっちゃいますよ?」

「…………それは」


 そこを()かれると痛いです、ラファエル様。


 でも……


「……私がここに居るという理由で、村の皆を危険に(さら)したくないんです」


 私は小さい頃、遠い国で実の両親を()くした。


 そんな時拾ってくれた旅人の母さんと私を、この村は(あたた)かく(むか)えてくれた。……魔術師は怖がられるからって外れの森に家を建てた母さんだったけど、それでも村の皆は変わり者だとも思わずに(せっ)してくれたのだ。


「……(おん)を、(あだ)で返す訳にはいきません」

「……そっか」


 サマエルさんは、分かってくれたらしい。通せんぼのために広げていた手を下ろした。


「……シャムシエル、やっちゃって」

「えっ――」


 サマエルさんのその言葉に()り向く()も無く、私の首の後ろに強い衝撃(しょうげき)(あた)えられ、全身から力が()ける。


「あ…………」


 そして私の意識(いしき)は、(やみ)の向こう側に(しず)んでいったのだった。


◆ひとこと


ニガヨモギ、という言葉は聖書の中では特別な意味を持ちます。

というのも、ヘブライ語でニガヨモギはלענהと記すのですが、呪いという意味も持ちます。なので聖書にたびたび登場する訳ですね。

また、ヨハネの黙示録の中では第三のラッパが鳴らされた時に星が川や水源に落ち、そのせいで水がニガヨモギのように苦くなり、それを飲むと死んでしまうと記されてもいます。この星自体をニガヨモギと呼ぶみたいですね。

余談ですが原発事故のあったチェルノブイリはロシア語でオウシュウヨモギという意味を持っているらしく、原発事故の汚染もあった所為なのか、このヨモギとニガヨモギを混同されることが多いようです。


--


少し前の感想にあったので補足。

「星が落ちる」と言われていますが、現代知識で星と言えば恒星、惑星、小惑星、準惑星、衛星だと思います(であってるかな)。

ただそんなものが落ちたら世界の滅亡どころか地球が壊れるわけで。

そこまで科学が発展していないこの世界では隕石レベルのニガヨモギでも「星」と呼びます。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 恐竜が滅びたアレも小惑星と言われたりするし、小惑星程度なら壊れないかも と言っても小惑星って分類は軌道要素で決まる面もあるっぽいからなんとも
感想一覧
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