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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一六五話「災厄は、目に見えた形で訪れる」

 さて、年も明けて(しばら)()った二月。(ひさ)しぶりの晴れの日に私は雪深(ゆきぶか)い道を村へ向かっていた。飛べるシャムシエルやサマエルさん、あと警備(けいび)方々(かたがた)に用事を(まか)せることが多かったのでここのところ運動不足になっているし、丁度(ちょうど)良い機会(きかい)だ。


 毎日ラファエル様の治療(ちりょう)も受けているけど、私のお(むね)も小さくなることがなく、どうやら男性になる可能性が低いと思われる。そろそろ安心しても良い頃合(ころあ)いだろうか?


「聖女リーファ、今日は何を買いに行くの?」


 見た目は今のシャラと同じく一〇歳(くらい)で、元気な女の子の天使コルが、私の横をふよふよと()きながら(たず)ねてきた。この子はまだ生まれたての天使らしく、他の天使たちが敬語(けいご)で話しかけてくる中、一人だけフランクだ。まあ可愛(かわい)いから良いんだけど、(まわ)りの先輩(せんぱい)天使たちはお転婆(てんば)ぶりに手を焼いているようだ。


「今日はちょっと雑貨(ざっか)を見に、ね」


 流石(さすが)警備(けいび)担当(たんとう)の天使たちの前では私も()を見せることにしている。ずっと聖女モードだと(つか)れちゃうからね。


「お(つか)いだったらあたしたちに任せてくれてもいいのにー」


 (たよ)ってくれないことが不満(ふまん)なのか、コルがぶーぶーと文句(もんく)()れる。そうは言うけどねー。


「魔術に使う触媒(しょくばい)とかだから、私の目で見て選ばないと駄目(だめ)なんだよ」

「あー、そっかー。それならあたしたちじゃわかんないねー」


 魔術の触媒にはそれぞれ適正(てきせい)というものがある。例えばある種の薬草でも、それが触媒として(てき)しているかは魔力の流れを見てみないと分からないのだ。それを判別(はんべつ)出来るのは魔術を行使(こうし)出来(でき)る者だけなのである。


 雪に抵抗(ていこう)しながら、時間をかけてようやくシュパン村に辿(たど)り着いた。晴れているとはいえ二月だ、寒いのなんの。早くリリのお店で(あたた)まろう。


「…………ん?」

「あれ? なんか空が暗くない?」


 違和感(いわかん)に私が声を上げると同時に、コルも気付(きづ)いたらしく空を見上げた。彼女の言う通りに、何かが太陽の光を(さえぎ)ったような。もしかして天使の部隊(ぶたい)でも通っているのか?


「……え? あれ、なに?」


 太陽のある南の空を見上げると、山の向こうをゆっくりと球体(きゅうたい)の何かが落ちてきているのが分かった。あれが光を遮っていたのか? 一体なんだ、あれは。


「……『ニガヨモギ(ラーナー)』」

「え?」


 警備の天使の誰かが(つぶや)いた。『ニガヨモギ』?


「『ニガヨモギ』というのは、一体――わっ!?」


 私がそう尋ねようとしたけれど、強い力でコルに(うで)を引っ()られて、()(かげ)に引きずり()まれた。


 その直後。


 耳を(つんざ)爆音(ばくおん)(とどろ)き、目の前の山を(ふる)わせる(ほど)の大地震(じしん)が――いや、(ちが)う、これは先程落ちた何かの所為(せい)で、山の向こうで大爆発が起こり、その衝撃(しょうげき)(つた)わっているのだ!


「おい! 地震だぞ!」

建物(たてもの)の中は危険だ! 外に出ろ!」


 村民(そんみん)たちが(あわ)てて建物から外に飛び出してきた。だけど――


(みな)さん! 家の中に(もど)ってください! 南から(つぶて)が飛んで来ます! ……警備の皆さん! 私は良いので、皆さんが外に出ないよう伝えて回ってください!」


 私は樹にしがみつきながら、すぐに二次被害(ひがい)を止めるべく自由に飛べる天使たちに指示(しじ)を出した。火山が遠くないこの地域(ちいき)では地震も少なくないため、耐震性(たいしんせい)の高い家が多い。そう簡単(かんたん)に地震では(こわ)れない(はず)だ。


 それよりも(こわ)いのは……南から飛んでくる礫だ。


「コル、地震が(おさ)まったら、すぐに近くの家に飛び込むよ」

「分かった!」


 このまま樹の陰に居ては防御力(ぼうぎょりょく)(とぼ)しい。地震が収まってきた(ため)、私たちは礫から身を守るべく家屋(かおく)に飛び込んだのだった。




 地震が収まった直後(ちょくご)に、予想通り南から飛来(ひらい)した礫が村を直撃(ちょくげき)した。


 それほど数は多く無かった為か被害は少なかったものの、石が山の向こうから飛んできたのである。その威力(いりょく)たるや、家の屋根(やね)を軽く貫通(かんつう)する程なワケで。運が悪ければ死ぬだろう。すぐに安否(あんぴ)確認(かくにん)するよう、村の警備担当の天使たちにお(ねが)いした。


 そして被害者は、私の身近(みぢか)にも居たのだった。


「いっ……たたた……」

「リリ! 大丈夫なの!?」


 天使たちへの指示出しを終えた後、すぐに当初(とうしょ)の目的地である雑貨屋に向かった私が見たのは、顔の左半分を血に()めたリリだった。地震で()()てた雑貨屋の中、リラさんが真剣(しんけん)な表情で頭に包帯(ほうたい)()いている。


「あはは、(たな)から物が落ちてきて、切っちゃった。見た目ほど深い傷じゃないから大丈夫(だいじょうぶ)

「大丈夫なワケ無いだろう? 化膿(かのう)したらどうするんだい。頭は大事なんだよ?」

「えー、普段(ふだん)から私の頭を(たた)いてるお母さんがそれを言う?」


 苦笑(くしょう)するリリの声も弱々しい。相当(そうとう)無理をしているようだった。


「リーファちゃん、悪いんだけど、薬を分けてくれるようアナスタシアにお願い出来るかい?」

「はい、分かってます。すぐに取りに――」

「あ、あたしが行く! あたしが行ってくる!」


 リラさんのお願いだし、他ならぬリリの為だ。急いで戻ろうと思ったら……言うが早いか、コルが自宅の方へと飛んでいってしまった。気を遣わせてしまったかな。戻ってきたらきちんと()めてあげないと。


 それにしても……、『ニガヨモギ』だったか。一体何のことなんだろう? 後で天使の誰かに聞いてみないと。


◆ひとことふたこと


シュパン村近くは雪が割と多いので、この時期出掛ける際はリーファちゃんもブーツにかんじきのようなものを着けます。

かんじき装備の聖女。


ニガヨモギについては……後述しますね!


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] チェルノブイリだよ とか昔流行ったオカルト知識を披露してみる
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