第一六三話「そりゃ、侵略と思われても無理の無い話ですよね」
数日後、村周辺の警備を担当する部隊がやって来た。今回の作戦行動ではエーデルブルート王国に大部隊が展開しているようで周辺諸国は難色を示していたようだけれども、事が重大なだけに神国は構わず行動しているらしい。先のマスティマやサリエル様の独断行動で国の信用が失墜しているだけに、周りからの圧も強そうだけど……。
ちなみに更に数日後にはメタトロン様までやって来た。このお方とも長いお付き合いとなっているけれども、シュパン村にいらっしゃるのは初めてだと言う。
しかしながら、この作戦行動にエーデルブルート王国の中枢はいい顔をしない訳で……。
「御前の天使メタトロンよ、貴国の行動は侵略と捉えられても仕方の無いことであるぞ」
通信用魔道具の向こうから聞こえる国王陛下の声が、いつもと打って変わって怒りを孕んだものとなっている。まあ、事前に聞いていたよりも多くの部隊を投入してきたのだからそれもその筈だよね。
でも、メタトロン様……と言うより、神国は何故、私という人物を守る為だけにここまで大部隊を寄越したのだろう? 私を守ってくれるのは有難いんだけど、古代兵器を守る方が先決なのでは?
「仰ることは尤もだ、ブルクハルト国王陛下。だが、強引にでも部隊を展開する理由があったのだ」
非難されているにも関わらず、メタトロン様は淡々とそう返している。ちなみに今リビングには私、母さん、シャムシエル、サマエルさん、アザゼル、メタトロン様、ラファエル様の七人が居る。狭いったら。主にデカいメタトロン様の所為だけど。
「陛下、ゲーベル沼という場所を覚えておいでだろうか」
「……サタナキアの封印があった場所であり、『獣』が復活した場所でもあるな」
突然振られた問い掛けに、陛下は鼻白んだ様子だったけれどもお答えになった。また懐かしい名前が出てきた。『獣』か。私が聖女になってから初めて片付けた大仕事だ。あの時も死にかけたんだよねぇ。
「そこの近くに、神国の最高機密である古代兵器も眠っている」
「……なんだと?」
……そういうことだったのか。あの封印の場所には他にそんなものがあったから、急ぎ大部隊をエーデルブルート王国まで寄越したのだ。
メタトロン様は、その古代兵器が世界を滅ぼしかねない力を持っていること、それを使用せんとする一派が存在しており、行動に移していることを説明した。
「……なるほど、そういうことか」
「ああ、恐らく、いや必ずウチの馬鹿共はラッパを鳴らそうとそこへやって来る。貴国の軍でそれを迎え撃たせる訳にはいかん」
カマエル以上の誰かが、軍勢を率いてやって来る。それをエーデルブルート軍が迎え撃てば、それは国と国との戦いになってしまうという訳か。
「御前の天使メタトロンよ。我が国にどの位の戦力を寄越した?」
「二〇〇〇程度だ。その内一部をシュパン村とリーファの警備に宛て、残りはゲーベル沼に向かわせる。彼らの目的は古代兵器を破壊することだが、同時にラッパを鳴らしに来た奴らを殲滅する役割も持っているがな」
「……よかろう、我が国の五月蠅い奴らは余が黙らせる。しかし、こちらからは周辺の防衛は兎も角として、迎撃には一兵たりとも出さん。そのつもりで迎え撃って貰おう」
自国に無断で侵入されている陛下にとっては最大の譲歩なんだろうね。気持ちは分かる。
「寛大なお心遣い、感謝する。作戦行動が終われば、リーファの護衛の一部以外は速やかに出国するつもりだ」
……あ、私の護衛は続けるのか。まあ、残党が居るかも知れないもんね。
しかし、何故『獣』の封印場所近くに古代兵器も眠っていたのか? 『獣』の封印された三〇〇〇年以上前はエーデルブルート王国の影も形も無かったし、神国が勝手に土地を使っていたというのは分かるのだけど、古代兵器と『獣』を一緒に封印する意図が……?
「あの、お話中申し訳御座いません、メタトロン様。今この場でお伺いしたいことが御座います」
「む? 俺か?」
そうだ、これについては陛下とメタトロン様が一堂に会している今聞いておきたい。
「もしや、古代兵器は『獣』へ対抗する為に、近くへ封印されたのではないですか?」
「……その通りだ。まぁ、ちょっと考えれば分かる話ではあるがな」
やはりそうか。
「だとすれば、世界を滅ぼしかねない力は過分と思われますが、何故そのような兵器が出来てしまったのでしょう?」
「…………それは」
答えづらそうにしているメタトロン様。
でも、そこへ発言のために手を挙げたのは意外にも、サマエルさんだった。
「それはね、リーファちゃん。その兵器が『獣』に対抗するものじゃないからだよ」
「え?」
「サ、サマエル!」
意外なところからの真実に驚いていると、メタトロン様が慌ててそれを遮ろうとしたけど、サマエルさんは「ちょっと黙ってなー」と御前の天使の筆頭様を睨み付けた。そう言えばサマエルさんは元御前の天使でしたね、なら真実について知っている可能性がある訳か。
というか、サマエルさんは『獣』の存在を知らなかったのに、古代兵器の存在は知っている。ということは、古代兵器が『獣』への対抗手段として用意された訳ではないということが分かってしまうよね。
「あの兵器はね、『獣』が存在するより、アタシが封印されるよりも前に存在していた。何を目的に創られたか? ――それはね、人類の滅亡なんかじゃない、人類の選別だよ」
◆ひとことふたこと
相手は天使なので国境で阻める筈も無く、あれよあれよと王国に進入(侵入)されてしまったようです。
やはり航空戦力は正義。
古代兵器が創られた本当の目的については、次回にて!
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次回は明日21時半頃に更新予定です!