第一六二話「彼らの目的は、想像していたよりもよっぽど危険なものだった」
翌日、いつものように治療を終えた後、私はラファエル様から昨日の襲撃について詳細を伺っていた。
「能天使カマエルから事情聴取はしておきましたよ~。大方の理由はリーファちゃんも聞いた通りに、リーファちゃんが『神を模した』と判断したことによる旧体制派の暴走のようですねぇ」
「そうですか……。それにしても、よくすんなりと話して貰えましたね?」
私が何とも言えぬ気分で尋ねると、ラファエル様は「そこはそれ、やり方はあるのですよぉ」と意味深な笑みを浮かべた。……なんか、これ以上深くは聞かない方がいいような気がしたので、突っ込むことは止めておいた。
「大方の理由、ということは、それ以外の理由もあるのですね?」
「そうですね~。大方の理由とは申しましたが、むしろ、わたくしとしてはそちらの方がメインでは無いかと考えますよ~」
「メイン、ですか」
私が襲われた理由として、『神を模した』以外のことがあるという事なのだろうか? と、なると……
「旧体制派にとって、リーファちゃんは邪魔なのですねぇ」
「……どういうことでしょう?」
邪魔、というと、私の奇跡を行使出来る力が邪魔、という意味なのだろうな。でも、天使たちにとっては別に関係の無い事なのではないだろうか?
首を捻る私に、ラファエル様はいつもののんびりした様子ではない、真剣な表情を向けた。
「リーファちゃん、カマエル等旧体制派の一部はラッパを鳴らそうとしているのです」
「……は? ラッパ?」
真剣な口調で何が出てくるのかと思えば、ラッパ? どういう意味?
意味を図りかね困惑する私に、ラファエル様は言葉を続ける。
「……ここからお話しする内容は神国の最高機密となるのですが、神国においてラッパというのは、遙か昔に神国が創り出した古代兵器を起動させる鍵を意味しているのです」
「さ、最高機密……」
直接の被害者とは言え、私がそれを知ってしまって良いのだろうか。それにしても、古代兵器?
「その古代兵器というのは、何を目的に創られたのですか?」
神国の古代兵器という位なのだから、かなりの威力はあるのだろう。もしかすると、私ごとエーデルブルート王国を焦土に帰す程度のことくらいは出来るのかも知れない。そんなものを使って一体何を企んでいるのか。
「人類の滅亡です」
「………………」
思ったよりとんでもない内容に、私の脳が一瞬活動を停止した。
え? 人類の滅亡? 王国が亡ぶどころじゃないですね、それ。
「…………人類の、滅亡」
「はい、そうです。彼らは人類が楽園に向かうことが唯一の救済だと考えているのです。それを阻める力を持つリーファちゃんは、邪魔だという訳ですね」
ようやく言葉を絞り出した私に対して、淡々と過激派の意図を説明して頂けるラファエル様。
しかし……
「色々とお伺いしたいことはありますが……何故このタイミングで、その、ラッパを鳴らそうとしているのでしょう? 楽園に向かうことが救済だとする一派は、今までもそのような活動はしていなかったのでしょうか?」
だって、ねえ? 古代兵器って言う位だから古代からあるんでしょ? だったら何故それを起動しようという動きが今突然高まっているのか。
そう疑問を口にすると、何やらラファエル様は言い辛そうに少し目を伏せてしまった。
「それはですね……、先日、リーファちゃんが一度神の御許へ送られたことと関連しているのです……」
「……ありましたね、そんなこと」
私は『群体』との戦いで一度死んでいる。その時、主が御前の天使ラグエル様に魂を呼び戻す奇跡を授けてくださったのだ。そのお陰で私はまたこの世に舞い戻ることが出来たのである。
……あ、もしかして……。
「……その一派は、私が魂を呼び戻す奇跡を行使出来るようになるのでは、と危惧しているのですね? 一度神の御許へ召された人を呼び戻せると、楽園に行けないから」
「はい、それがリーファちゃんを狙う理由です。そして第二、第三のリーファちゃんが出ない内に、ラッパを鳴らそうとしている」
「それは……なんとも……。私はそんな奇跡は使えませんよ」
「彼らはそう思っていないのです……」
頬に手を当て、溜息を吐くラファエル様。思い込みで世界を滅ぼさないで欲しいなぁ……。
「そういう訳ですので、リーファちゃんとシュパン村には今後警備が付きますよ。今回は神国も総力戦になりますので、周辺諸国と調整して、警備担当の方々が向かっております」
「あ、もう来ているのですね……」
「はい。カマエルが向かっていることが分かった時には彼女の目的もほぼ掴んでおりましたので、先に手を打っておきました」
なんとも根回しの早いことだ。まあ、有難いんですけどね。
◆ひとことふたこと
ラッパと言えば、ヨハネの黙示録ですね。
御使いがラッパを吹き鳴らす度に災厄が起こり、合計七回のラッパが吹き鳴らされた時、世界に本当の終末が訪れ神に選ばれた者だけが生き残る、というのが黙示録の流れです。
途中ではアバドン(が起こす蝗害)も災厄の一つとして出てきます。まぁ、本作ではもう退場していますが。
総力戦、と言っていますが神国にとっては同盟国でもない他国の領内。
このままでは色々とマズいですよねぇ。
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次回は明日21時半頃に更新予定です!