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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一六〇話「私に奇跡は無くとも、心強い仲間たちが居る」

 (にら)み合う天使と悪魔たちを見守っていると、不意(ふい)背後(はいご)で足音がした。()り向こうにも(しば)られているので(むずか)しい。


「リーファ、怪我(けが)をさせてしまってすまなかったな。空中で(こと)(かま)える(わけ)にはいかなかったので、こうして降りる機会(きかい)(うかが)っていたのだ」

「あ……シャムシエル……」


 背後の足音はシャムシエルだったらしい。すらりと魔剣(まけん)を抜き(はな)った音がしたかと思うと、私の手首を縛っていた(なわ)が切れた。でも、良いんだろうか。目の前に居るのは直属(ちょくぞく)上司(じょうし)なのに。


「おい、能天使(パワーズ)シャムシエル? 俺に(そむ)く気か?」


 背後の私たちに気付(きづ)いたカマエルが、こちらを振り向くことも無く、殺気(さっき)を叩きつけながら低い声でそう(おど)してきた。が、シャムシエルの作業(さぎょう)の手は(ゆる)まない。


「私はラファエル様より(めい)を受け、ここに来ております。犯罪者カマエルを()らえよ、との命です。貴女(あなた)は私の上司ではありますが、能天使。熾天使(セラフィム)の命が優先です。まあ……」


 シャムシエルはそこで言葉を切り、魔剣〈隠された剣(クォデネンツ)〉の()(さき)をカマエルへと向けた。


(たと)えラファエル様の命が無くとも、大切なリーファにこのようなことをした貴女を、(ゆる)すつもりはありませんが」

「シャムシエル……」


 命令に背いてまでも、私を助けるつもりだったのか。サマエルさんにアザゼルといい、(むね)が熱くなる。


「……どいつも、こいつも……」


 カマエルが、声を(ふる)わせている。刹那(せつな)、彼女の(うで)が振るわれたかと思うと、連接剣(れんせつけん)(へび)のようにシャムシエルへと(おそ)()かった。振り返りもせず背後の天使を正確に(ねら)っているのは、『破壊(はかい)の天使』の名は伊達(だて)では無いということか。


「ちっ! リーファは()(かげ)に!」


 シャムシエルは私を()き飛ばしてから、〈隠された剣〉で受けながらそれをぎりぎりで(かわ)した。剣と剣の(こす)れる、ぎゃりりという(いや)な音が鳴る。私は(あわ)てて手近(てぢか)木陰(こかげ)に身を(かく)した。


「ふっ――」


 その(すき)に、反対側のアザゼルがカマエルに肉薄(にくはく)する。しかしそれを、いつの間にか(もど)ってきた連接剣の切っ先が横から襲い掛かり、アザゼルは()みとどまって打ち落とした。


 アザゼルの背後から、サマエルさんが弓を引き(しぼ)り、カマエルに矢を放つ。が、破壊の天使は自分の足へ超高速で飛来(ひらい)する矢を足(さば)きだけで易々(やすやす)と躱した。


「アンタの強さはよーく知ってるけどさ。大人しく投降(とうこう)しなよ、カマエル。アンタだって、アタシの弓の能力は知ってんでしょ?」


 サマエルさんが油断(ゆだん)なく弓を引き絞りながら忠告(ちゅうこく)する。そうだった。サマエルさん専用の魔術〈魔法の弾丸(フライクーゲル)〉は、彼女の手にしている弓〈魔弾の射手(フライシューツ)〉が七回目に狙った相手を必ず射貫(いぬ)く必殺技だ。いくらカマエルが熾天使(なみ)の強さを(ほこ)るとは言え、最早(もはや)配下(はいか)を全員殺されて孤立無援(こりつむえん)状態(じょうたい)の彼女に勝ち目は(うす)いのだ。


「知るかァ! 七本目の矢を受ける前に、貴様()全員殺すまでだ!」


 うわっ! 連接剣がカマエルの(まわ)りを(あらし)のように()(くる)い始めた! 木の(みき)もズタズタに()()かれている。そのうち(たお)れるかも知れないので、()き込まれないようにしなくては。


 しかし、アザゼルとシャムシエルの二人は、襲い来る連接剣を(たく)みに(はじ)き飛ばしている。連接剣には神気(しんき)を感じたのでもしかすると聖剣(せいけん)かも知れないが、シャムシエルは魔剣〈隠された剣〉だし、アザゼルの持っている剣も、母さんのコレクションの中で見たことがある聖剣だ。相手が聖剣でもそう簡単(かんたん)()こぼれはしないだろう。


 シャムシエルが魔剣を振るって連接剣の軌道(きどう)を、無理矢理(むりやり)大きく()()げる。それで作られた大きな隙に、アザゼルが再び近づき、剣では無く(こぶし)()るった。ダッシュからのストレートを慌ててスウェーバックで()けようとしたカマエルだったが、当然避けられる訳もなく、(はな)(つら)に叩き込まれ、よろめく。


「くそっ!」


 悪態(あくたい)()いたカマエルが倒れまいと身体を(ひね)り、その(いきお)いで連接剣の軌道を真逆(まぎゃく)方向へと変えつつ、アザゼルへ後ろ回し()りを放った。


 しかしアザゼルの姿(すがた)(すで)にそこには無く、()わりに飛来したサマエルさんの矢が勢いよくカマエルの右(かた)()()さる。彼女はバランスを(くず)したものの、その場に()()った。


「もう一回だけ忠告しとくよ。カマエル、投降しな」

(だま)れ……黙れッ!」


 駄々(だだ)っ子のように拒否(きょひ)をしたカマエルの連接剣が再びサマエルさんを襲うも、それを(ゆる)すアザゼルではない。剣を(なか)ばから打ち落とした上でカマエルへと接近(せっきん)し、袈裟懸(けさが)けに斬り下ろした。


「ぐっ……あ……」


 アザゼルの剣は切れ味が悪そうだったけど、易々とカマエルの(よろい)を斬り裂いていた。カマエルは白目を()き、連接剣を取り落として、うつ()せに倒れてしまった。あの勢いなら血が()き出そうなものだけど、出ていないのは〈慈悲の剣(クルタナ)〉の特性(とくせい)で、確か相手を殺すことが出来ないんだったかな。


 天使が切っ先を折って人間へと(おく)った、〈慈悲の剣〉という聖剣を悪魔が振るい、天使を(せい)してしまうというのも、何とも皮肉(ひにく)なものだ。


◆ひとことふたこと


〈魔法の弾丸〉がある以上、サマエルを仕留めなければカマエルに勝ち目は無いんですよね。

チートやチーターや!


クルタナはシャルルマーニュ伝説に登場する聖剣で、復讐に燃える騎士の剣の切っ先を天使が折ってしまい、騎士は復讐を諦めたというお話があります。

本作ではその話にちなんで、殺傷能力を持たない聖剣ということにしました。

カマエルを殺さず捕縛する為に、アナスタシアが渡したのです。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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