第一六話「ついてた」
まだ日は高いけれども、今日は戦いで全身ドロドロになってしまったので早々にお風呂へ入ることにした。母さんも入りたがっていたけど、肩の傷が良くなるまでは身体を拭くくらいで我慢して貰おう。
「……アンナをお風呂に入れてくれとは頼まれてるけど、なんで二人までついてくるの……」
「えぇ~? いいじゃん。アタシも混ぜてよ~」
「昨日髪の纏め方を教えていなかったのでな、折角だしご一緒させて貰おう」
妹にお風呂を教えるだけのつもりが、サマエルさんとシャムシエルまでついてきた。元男だというのにこのお姉さんも気にならないんだろうか。私がおかしいの?
私と手を繋いで歩いているアンナはそんなやり取りを不思議そうに見つめている。この子が着ている黒のワンピースもボロボロになってしまったため、丁度合うサイズの着替えも持ってきた。今度はローズピンクを基調とするフリルのついた可愛らしいワンピース。髪の色とマッチした色味だし、私自身早く妹が着たところを見たい気持ちがある。
何故五歳女児向けの服があるのかというと、母さんがリリの成長に合わせて服を作り、よくお着替え祭りをしていたからだ。リリが気に入った服は持って帰って貰っているので、当然余りはうちのチェストに仕舞われていたのである。羽と尻尾を通す所だけは、先程母さんが断腸の思いでハサミを入れていた。
「アンナ、サマエルさん、ここが脱衣場ね。ここで服を脱いでからお風呂へ向かいます。その後のことはきちんと教えるから、勝手に湯船へ浸かったりしないように」
「ん」
「はーい」
二人とも理解したようでするすると脱いでいく。ふっ、私の心はさざ波のようだ。シャムシエルの肉付きの良い身体とか、サマエルさんのすらっとした肢体とか、女性の裸を見てももう何を思うことも無くなってしまったみたいだ。私の身体も同じだからね。
「おねえちゃん、ないてるの?」
「泣いてないよ? これは心の汗だからね?」
「馬鹿言ってないでリーファちゃんも早く脱ぎなよー。案内してくれるんでしょー?」
おっとそうだった。私もワンピースを脱いで……ん?
「あれ? なんか私の胸が……ちょっと小さくなってるような」
気のせい……じゃないな。へぇ、女の子の胸って日によって大きさ変わるんだ。びっくり。
それじゃ、あとは下着も脱いで……って。
「リ、リーファ? それはいったい……」
「わああああ!?」
自分の身体に起こっていた異変に気付き、慌てて座り込んじゃったよ! 異変を目撃してしまったシャムシエルだけでなく、サマエルさんまでびっくりして目を丸くしてるし!
「な、な、なんで、ついてるの……?」
なんで、昨日さようならした筈の股間の友が、ただいましてるの!?
「……あー、たぶんアレかなぁ? リーファちゃんさっき力を使いすぎたから、聖女の身体を維持できなくなってるんじゃない? まぁ、すぐに神気も回復するだろうし、治るよきっと」
そういうことかぁぁぁ! 不安定すぎるでしょ私の身体! さっき胸のつかえが取れたと感じたのは、聖女の身体が維持できなくて胸が縮んだからかーっ!
「おねえちゃん、おにいちゃんだった……?」
「そうだねー、リーファお姉ちゃんは時々お兄ちゃんになるみたいだねー」
こてんと首を傾げるアンナに、悪魔のお姉さんがケラケラ笑いながら余計なことを吹き込んでるし! やめて、ホントやめて!
「あ、あの、シャムシエル、今日は代わりに二人の案内をお願いしても――」
つ、ついてるなら話は別だ。この状態で一緒に入るのはとてもマズい。なんというか、色々マズいんです。生理的に。
「あれあれ~? リーファお姉ちゃんはママさんにお願いされたミッションもちゃんと遂行出来ないのかなぁ? それにアタシたちにお風呂のことをきちんと教えてくれるんだったよねぇ?」
「うぐぐ……」
煽る、煽ってくるよこの悪魔。サマエルさんが堕天した理由がよく分かったような気がするよ。
この後煽りに負けた私は、お風呂場でも盛大に弄られることになったのだった。
こんな事なら、初めから全部シャムシエルに任せておけば良かった……。
◆ひとこと
ついてちゃーそりゃーマズいでしょ(笑)
ただ、ついてるのに基本の性別は女性なので残念ながら裸を見ても何とも思わないようです。かなしい。
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次回は本日24時半頃に更新予定です!