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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一五九話「煽りすぎにはご注意を」

 もう空輸(くうゆ)され続けて二時間は()っただろうか。方向すら分からないので、今自分がどの(あた)りに居るのかは全く分からない。


 そんな時、急に高度が下がっていく感覚(かんかく)がした。いきなりだったので気分が悪く、()きそうになる。


「いたっ!?」


 と思ったら、麻袋(あさぶくろ)ごと乱暴(らんぼう)に地面へ置かれたらしく、(こし)を打ち付けてしまった。い、痛い……。


 そして麻袋の口が(ゆる)み、外から(うで)(つか)まれて荒々(あらあら)しく引っ()り出され、外に投げ出された。誘拐(ゆうかい)ならもうちょっと丁寧(ていねい)出来(でき)ないものなのか。


 (ひさ)しぶりの外だけど、(まわ)りは木々に(かこ)まれた森のようで、残念ながらここが何処(どこ)かは見当(けんとう)もつかない。まあ分かったとしても、どうにも出来ないんだけどさ。


「……やっと出して(もら)えましたね。貴女(あなた)がたは一体、何が目的でこんな事を?」


 私は目の前で腕を組み、無表情で仁王(におう)立ちする赤い(よろい)の天使を(にら)み付けた。それでも彼女は、無言で私を見下ろしたまま動かない。


 何も答えてくれなければ、こちらとしても要求(ようきゅう)(こた)えられないんだけどな。……ここは一つ、(あお)ってみるか。


「……もしかして、サリエル様の派閥(はばつ)残党(ざんとう)ですか? だとすれば、流石(さすが)過激派(かげきは)ですね。ご自分の見当(ちが)いな正義で他人を傷つける事が神の教えだと信じているなんて、(あわ)れな事です」


 私の言葉に、赤い天使の(まゆ)がぴくりと動いた。どうやら()き目があったらしい。


「わたくしが奇跡を行使(こうし)出来ることを、サリエル様は(おそ)れておられました。貴女がたもその(たぐい)なのですね? ご安心ください。貴女がたの(おそ)れに(めん)じて、奇跡は使わずに――」


 赤い天使に左(ほお)(なぐ)られたため、私は最後まで煽りきることが出来なかった。それほど強い力で殴られた(わけ)ではないけれど、軽く吹っ飛んで逆の頬が地面と(こす)れる。痛い。


(だま)れ、咎人(とがびと)風情(ふぜい)生意気(なまいき)なことを」

「……咎人? どういう意味ですか?」


 私は自由にならない身体を無理矢理起こし、軽く頭を()って頭をクリアにしつつ、やっと(しゃべ)ってくれた天使に問い()ける。マスティマは「(いつわ)りの聖女」と言っていたけれど、「咎人」というのは、一体どういうことか。


「自分の罪も分からないのか? 貴様(きさま)は神を()した。大罪(たいざい)だ。カナンで(さば)かれなければならない」


 神を、模した。


 そうか、私が奇跡を行使出来ることについて、そう(とら)えているのか。それで、カナン神国(しんこく)まで()れて行って裁判(さいばん)を受けさせるというつもりなんだな。


「わたくしはエーデルブルート王国民です。神国で裁判を受ける権利(けんり)など御座(ござ)いませんよ? 貴女がたこそ、神国の集団が犯罪行為(こうい)に手を()めているということがどれだけの大罪であるのか、自覚(じかく)が無いようですね?」

「王国だろうが何だろうが、この世界は唯一(ゆいいつ)の神のものだ。神の御意志(ごいし)(そむ)く者はすべて正義の名の下に大罪人である。それを理解(りかい)しろ」


 私の煽りにも、赤い鎧の天使は無表情のままに何とも痛い答えを返してくれた。うわー、この天使、マスティマと同じ(にお)いがするよ。(きゅう)体制(たいせい)派ってみんなこうなの?


「神の御意志を拡大(かくだい)解釈(かいしゃく)している貴女がたこそが、大罪人ですよ。どうも旧体制派は少数派だということを理解されていないようですね。それとも裁判官に息が掛かった者が居るのですか? 流石、ご自分が正義だと(うそぶ)方々(かたがた)はやる事が……ぐっ……」


 煽り続けていたら、赤い天使が血走(ちばし)った目で首を()めてきた。しまった、やり過ぎたか。


「黙れ黙れ黙れ!」

「カ、カマエル様! ここで殺してはなりませぬ! 裁判にて刑を言い(わた)し、サリエル様の汚名(おめい)(そそ)ぐのが我等(われら)使命(しめい)ですぞ!」


 配下の天使が止めにかかるが、一向(いっこう)に手の力は緩まない。この赤い天使はカマエルと言うのか。あ、駄目(だめ)だ、気が遠く――


 意識(いしき)手放(てばな)そうとしたその時、ばすん、ばすんという破裂(はれつ)音がしたと思ったら私の首は解放(かいほう)されていた。身体が弛緩(しかん)し、その場に(くず)れ落ちる。また地面で右頬を擦ってしまった。痛いったら。


「げほっ! ……一体、何が……?」


 呼吸(こきゅう)(ととの)え、状況(じょうきょう)確認(かくにん)する。破裂音はまだ続いている。首を()められていた(ため)にまだ視界(しかい)がぼやけていてよく見えないけど……周りの景色(けしき)が赤いのは、あのカマエルという天使の鎧という訳ではないだろう。辺り一面が血に染まっているのだ、これは。


「この矢……堕天使(だてんし)サマエルか! 姿(すがた)(あらわ)せ!」


 サマエルさん? ど、どうやって、ここが……?


 私は再び身体を起こして、視界を(たて)に戻す。()を向けたカマエルの向こう側から足音が近づいてきて、彼女の魔弓(まきゅう)魔弾の射手(フライシューツ)〉を手にしたサマエルさんが姿を現した。


「はいはい、お望み通り姿を現してやったよ。で、カマエル、ウチの可愛(かわい)妹分(いもうとぶん)(さら)った落とし前は付けて(もら)うかんね?」

「貴様! どうしてここが分かった!」


 カマエルが()えるも、サマエルさんは鬱陶(うっとう)しそうに身体を()らして彼女を睥睨(へいげい)する。ああ、うちの長姉(ちょうし)(めずら)しく怒っている。


「事前にラファエルが、カマエルの一隊がこちらに向かっている情報を掴んでたんだよ。で、それを聞いたアタシはこっそりアンタたちの後ろからついていってたワケ。尾行にも気付かないとは、『破壊(はかい)の天使』は(こわ)すことしか出来ない脳筋(のうきん)だから(こま)るね」


 思い出した、『破壊の天使』カマエルか。確か大天使(アークエンジェル)の軍団を(ひき)いる能天使(パワーズ)(おさ)で、単純(たんじゅん)な強さだけで言えば熾天使(セラフィム)にも匹敵(ひってき)すると聞く、戦いのスペシャリストだ。この天使も旧体制派だったのか。


 カマエルは(くや)しそうにぎりりと歯軋(はぎし)りをしていたけど、急に(こし)の長剣を引き抜き……いや、あれはただの長剣じゃない。所々(ところどころ)関節(かんせつ)(よう)()がって、(むち)のように遠距離(きょり)を攻撃出来る連接剣(れんせつけん)という(やつ)だ。


「死ね、悪魔め」


 短くそう()げたカマエルが連接剣を振るった。剣はまるで手品のように伸びてゆき、微動(びどう)だにしないサマエルさんを頭上から(おそ)って――


 そして、横薙(よこな)ぎの一閃(いっせん)(はじ)かれた。


「サマエル一人だけだと、誰が言った?」


 黒服の剣士は、薙ぎ(はら)った姿勢(しせい)のままにカマエルを睨み付けた。その剣は、先日まで手にしていたサーベルでは無い。()(さき)の折れている、奇妙(きみょう)な長剣である。


「堕天使アザゼル……! 貴様も邪魔(じゃま)をするのかァ!」


 そんなカマエルの咆吼(ほうこう)など無視(むし)して、アザゼルは(やさ)しげな微笑(ほほえ)みを私に向けた。


「待たせたな、聖女リーファ。いや、リーファ。すぐに片付(かたづ)けてやるさ」


◆ひとことふたこと


彼らはリーファちゃんが奇跡を行使することで神を模していると捉えたようです。

神は唯一、という考えに基づけば許されぬ行為だったのでしょう。


カマエルはケムエルとも呼ばれる、能天使の長です。「破壊の天使」とも呼ばれるのだとか。

苛烈な性格をしており、天使の軍団を率いて人間を罰する役目を負っています。

その為かちょくちょく堕天使扱いをされるらしく、ウリエルやラグエル同様、旧約聖書の偽典にしか登場していない天使なので本当に公式から堕天使とされた過去があるらしい。かわいそう。

モーセの天国行きを阻んだら、ワンパン食らって消滅したという。ほんとかわいそう。

名前の意味は「神を見る者」。貴様、見ているな!


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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