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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一五八話「天使よ一体何処へ行く」

 翌日(よくじつ)から、私はラファエル様の治療(ちりょう)を受けることになった。


 私とラファエル様は、私の自室で向かい合って椅子(いす)(すわ)り、両手を合わせたままじっとしている。ただ、只管(ひたすら)にじっとしている。


「……本当に、両手を合わせているだけで(よろ)しいのですか?」

「良いのですよ~。後はこちらで、上手(うま)具合(ぐあい)循環(じゅんかん)させますので」


 うん、確かに右手からラファエル様の神気(しんき)が入り、私の(むね)(あた)りを通って左手の方へ抜けていくのが分かる。正確には、私が出した神気がラファエル様を通って(もど)ってきているのだけれども。戻ってきた神気の(しつ)について元のそれと(ちが)いがよく分からないけれども、きっとラファエル様の中で上手い具合に調整された神気が私の方へ戻ってきているのだろう。


 ちなみに両手を合わせてじっとしているところを、さっきシャムシエルが「(とうと)い……」とよだれを()らしながら(のぞ)いていたけど、サマエルさんに脳天(のうてん)(なぐ)られ、引き()られて行った。ありがとうございます、サマエルさん。


「……最初にお聞きしておけば宜しかったのですが、これ、一回に何時間続けるのでしょう?」

「そうですね~…一五分程度(ていど)でしょうか?」


 おや、思ってたよりも全然短かった。あまり長時間やってもラファエル様のお身体に影響(えいきょう)があるし、そんなものなのかも知れない。


 あれこれ考える()もなく、あっという間に一回目の治療は終わった。


「どうですか~? 何か、変わったという感覚(かんかく)はありますか?」


 ラファエル様はそう(おっしゃ)るけど……正直(しょうじき)、何がどう変わったかなんて分からない。ぺたぺたと胸を(さわ)ってみるけれども、小さくなったということも無さそうだ。


「い、いえ、全くありませんね……」

「まぁ、そうでしょうねぇ。まだ最初ですし、これから徐々(じょじょ)に変わっていくと思いますよ~。お胸が小さくなったりするかは、分かりませんけどねぇ」

「そうですね……」


 小さくなったら、それは男に戻るという(あかし)だろう。そう考えると、意外と早めにその辺の結果(けっか)は出るのかも知れない。


 その後、触診(しょくしん)聴診(ちょうしん)など、簡単(かんたん)検査(けんさ)をした後、「絶対に奇跡は行使(こうし)しないように」と言ってからラファエル様は客間(きゃくま)へと戻って行った。往診(おうしん)は無くとも、神都(しんと)ハルシオンと神術(しんじゅつ)で通信をしながらのお仕事があるらしい。


「うーん……、大丈夫(だいじょうぶ)、だよね……?」


 再びぺたぺたと胸を触りつつ、私は首を(ひね)ってそう(つぶや)いていた。




 そんな日課(にっか)を一ヶ月ほど()り返し、一二月も(なか)()ぎの寒空(さむぞら)の下、コートを着込(きこ)んだ私は一人シュパン村の方へと二輪の荷車(にぐるま)を引き歩いていた。相変(あいか)わらず身体の変化は無いものの、まだまだ予断(よだん)(ゆる)さない状況(じょうきょう)である。


「あ、雪だ。寒い(わけ)だ……」


 ケルステン州の南西部は山が多く、私たちが住んでいるここも王国の平均気温よりは寒い地域に入る。真冬には雪も数十センチは()もるので、秋口(あきぐち)には冬支度(ふゆじたく)に入らないといけない(ほど)だ。


「早く用事を済ませて、家に戻らないと……」


 冬籠(ふゆごも)り用の塩漬(しおづ)け肉を、雑貨屋(ざっかや)(たの)んであるのだ。(いく)らシャムシエルでも一人では(はこ)べない(りょう)なので、こうして荷車を用意している訳である。私一人で荷車を引くのも無理な話なので、帰りは雑貨屋で待ち合わせをしている(はず)のシャムシエルも手伝(てつだ)ってくれる予定だ。


 と、森を出た所で、私は違和感(いわかん)(おぼ)えて立ち止まった。これは――


「ほう? 気付いたか」


 (あた)りを警戒(けいかい)して見回(みまわ)していたら、ハスキーボイスが頭上(ずじょう)から聞こえた。見上げてみると――


「……天使? しかも……この数は……」


 雪が降る中、一三人の天使たちが私のことを見下ろしていた。男性と女性が半々といった編成(へんせい)で、ほぼ全員が白い(よろい)を着込んでいるけれども一人の女性だけが赤い鎧を着ている。この精悍(せいかん)な顔つきの女性天使が、見た感じ、他の全員を(ひき)いているように見える。


「聞こう。其方(そなた)は聖女リーファか」


 赤い鎧の天使は、先程(さきほど)のハスキーボイスで不躾(ぶしつけ)にそう(たず)ねてきた。ラファエル様ではなく、私に用があったらしい。


「……はい、そうですが、貴女(あなた)がたは神国(しんこく)の天使ですね? 人と話す時は、先ず地上に降りて話すものだと教えられませんでしたか?」


 私は居丈高(いたけだか)なその赤い天使に、少々嫌味(いやみ)ったらしくそう返した。あまりにも失礼な態度(たいど)なので、ちょっと(はら)が立っているのだ。


 けれども赤い天使はそれに答えず、大きく(うで)()り上げ、そして振り下ろした。


()らえろ」

「なっ!?」


 赤い天使が(くだ)した命令に、彼女の背後(はいご)に居た白い天使が一斉(いっせい)(おそ)()かってきた。私は(あわ)てて荷台(にだい)長杖(ちょうじょう)を取り、(かま)える。



 ――リーファよ、今後奇跡を行使することは禁ずる――



「…………くっ」


 そうだ、私はもう、奇跡を行使しないと決めたのだった。手持ちの魔術と神術(しんじゅつ)で、この数を相手するには――


 考えている間もなく、一人の天使が私の右(かた)(つか)み、引き(たお)した。その(いきお)いで後頭部を(したた)かに打つ。


「うぐっ!」


 視界(しかい)に星が()らばった。そのまま身体をぐるりとうつ()せにさせられ、腕を捻りあげられる。何も出来(でき)ないままに拘束(こうそく)されてしまったようだ。


確保(かくほ)!」


 どうやら私の腕を捻りあげている男性の天使がそう(さけ)ぶと、「よくやった」と短くハスキーボイスが聞こえた。


「どう……して、こんな、ことを……?」

護送(ごそう)しろ」


 私の質問には一切(いっさい)答える必要性を感じていないらしく、赤い天使らしき声は淡々(たんたん)と命令を出していく。


 そして手首と足首を(なわ)(しば)られた私は麻袋(あさぶくろ)(ほう)り込まれ、行き先は何処(どこ)へと知れず(はこ)ばれることとなったのだった。


◆ひとこと


一三対一では手も足も出ませんよね。しかも敵は空。

奇跡が使えれば戦うことも出来たのでしょうが……。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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