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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一五六話「私は聖女でなくなる、それはつまり……」

「話は理解(りかい)した。なるほどな、リーファにこれ以上奇跡の力を行使(こうし)させることは危険であるということか」


 通信用魔道具(まどうぐ)の向こうから、溜息(ためいき)()じりの陛下(へいか)の声。内容が内容だけに、私はすぐに母さんに事情を説明してから陛下にも相談(そうだん)することとなったのだ。


「はい~、リーファちゃんは(すで)神気(しんき)自体は(しゅ)のそれと同じ波長(はちょう)となっていますので。高次(こうじ)存在(そんざい)となり、(まわ)りから認識(にんしき)されなくなってしまうのは時間の問題かと思われますよぉ」


 まぁ、奇跡を私自身の神気で行使出来(でき)るってことはそういうことだよね。それにしても、陛下相手でもラファエル様の口調(くちょう)は変わりないんだなぁ。


「あいわかった。リーファよ、今後奇跡を行使することは禁ずる。……これまで散々(さんざん)(たよ)っておきながら、この言い方も無責任(むせきにん)ではあるがな」

「……いえ、陛下、ありがとうございます。今後奇跡を行使しないという(めい)承知(しょうち)いたしました」


 これまで奇跡は自分の意思(いし)で行使してきたのだ。別に陛下の所為(せい)ではないことは理解している。


 しかし……奇跡の力というものに()れきっているし、何か事が起こった場合、どうしたらいいか分からないなぁ。


「それで、ラファエルさん? うちの子の身体は、元に(もど)るのかしら?」

「そこなのですがぁ……、リーファちゃんの身体から、神の純粋(じゅんすい)な神気を徐々(じょじょ)に抜いていこうと思います」


 不安そうな母さんに、なんてことなさそうに答えるラファエル様。え、そんなこと出来るんですか?


「リーファちゃん、先程(さきほど)の検査で、わたくしの右手に左手を合わせて神気の確認をしましたねぇ?」

「は、はい、確かに、しましたね」


 確かに検査でやった。思うに、あれは神気を効率(こうりつ)良く(はな)てる左(てのひら)から、逆に吸収(きゅうしゅう)(てき)した右掌で受けることで取り()む、ということなのだろうけど。


「……あ、まさか……、両手を合わせることで、わたくしの神気をラファエル様へ送り込み、ラファエル様の神気をわたくしが受け取る、という事でしょうか?」

「はい、その通りですよぉ。熾天使(セラフィム)であるわたくしは神の純粋な神気への耐性(たいせい)が高いので、リーファちゃんから取り込んだ神気を無害化してから送り返すのです。『神気透析(とうせき)』とでも呼びましょうかぁ」

「『神気透析』……」


 透析? なんだか良く分からない単語が出てきた。医学用語なんだろうか。


 でも、それで私の神気が送られたとして……


「あの、神の純粋な神気を受け続けたとして、ラファエル様のお身体は平気なのでしょうか?」


 うん、(いく)ら神に(まみ)える機会(きかい)がある熾天使とは言え、神の純粋な神気を受け続けるのは危険なんじゃないだろうか。だって、原理(げんり)が同じだとしたらラファエル様も神に近づいてしまうんでしょ?


「そうですねぇ、(おっしゃ)る通り、全く危険が無いわけではないのですよぉ。ですので、この治療(ちりょう)は長いスパンで行おうと思っております」


 なるほど、やはり短期だとラファエル様の身体にも負担(ふたん)()かるのか。(おそ)らくだけど、受けた神の神気を天に(かえ)すなど昇華(しょうか)させつつ行うんだろうね。


「長いスパン、ですか……。どの程度(ていど)の期間でしょう?」

「半年、ですねぇ。その間、毎日透析は(おこな)いますよぉ」

「それほどまでに長い間、ラファエル様はこちらに滞在(たいざい)されていても大丈夫なのですか? (もう)(わけ)ないです……」

「いえ、大事な患者(かんじゃ)さんの(ため)ですしねぇ」


 にっこりと慈愛(じあい)の笑みを返すラファエル様。うわ、医者の(かがみ)だ。ラファエル様が天使に見える。いや天使だった。


「話は(まと)まったようだな。では、()はこれで――」

「ああ、国王陛下。まだありますよぉ」


 次の予定でもお有りなのだろう、陛下が通信を切ろうとしたところで、(あわ)ててラファエル様がそれを(とど)めた。


「む、何だ」

「今回、治療を行うことでリーファちゃんの身体は本当の本当に、元に戻る可能性があります。それはご承知おきくださいねぇ」

「……男に戻る、ということか?」

「可能性ですねぇ」


 陛下のお声が少し(くも)っている。色々と有名な私が力を失うどころか性別が元に戻るということは、国内的にも対外的にも色々とマズいことがあるのだろう。


 再び小さく溜息を()いた陛下は、「(いた)(かた)あるまいよ」とお答えになった。


「リーファの存在と(はかり)に掛ける訳にはゆかぬ。このままリーファに奇跡を使わせ続け高次の存在になってしまえば、余がアナスタシアに殺されかねん」

「まあ、陛下、よくお分かりですね~」


 (あきら)めの境地(きょうち)の陛下に対して、微笑(ほほえ)みながらとんでもない返しをする母さん。ちょっと、(うれ)しいけど不敬(ふけい)だからやめてくれない?


 それにしても……、そうか、聖女の力を失うし、男に戻る可能性があるのか。



 でも、なんだろう、この(むね)()き上がった感情は。


 もしかして私は、男に戻りたく――


◆ひとこと


透析というのは皆さん人工透析でご存知の通り、老廃物を漉して送り返す機構ですよね。

この場合は神の神気の方が純粋なので逆になってしまうのですが、まぁそこは言い様です。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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