第一五三話「シェムハザ曰く、女の子同士の間に挟まることは七つの大罪の一つらしい」
買った物を取り敢えずリラさんに預けて、私は一旦雑貨屋を出た。後は……鍛冶屋さんで修理に出していた包丁と手鍋を受け取らないと。油はシャムシエルに運んで貰うけど、それ以外の荷物も結構な量になるなぁ。
「……ん? アレ、何だ……?」
何やら村の広場に人だかりが出来ている。行商でも来てるのかな? いや、でもケビンの行商が来るのはまだまだ先だった筈。だとしたら何だろう?
私は野次馬っぽい人たちの一人に、この人だかりの正体を尋ねてみることにした。
「こんにちは。こちらは一体、何のお集まりですか?」
「おや、聖女様。何でも有名な天使様がいらっしゃったとかで、野次馬が集まってるんですよ」
「有名な……天使様……?」
え、誰だ? 有名と言ったらメタトロン様とか? でもメタトロン様だったら身体がデカいので野次馬の向こう側でも見える筈。なら誰だ?
……というか、絶対うちに用事があって村を訪問してるよね? それ以外にこの村を天使が訪れる理由なんて無いだろうし。
私は野次馬の合間を縫うようにして、件の天使様がいらっしゃる所に辿り着いた。いやはや、凄い人数の野次馬だね。
「……と、おや、お目に掛かった事の無い天使様ですね」
野次馬たちの中央には、何やらお婆さんに治療の神術を施している、白衣を着込んだ女性の天使様がいらっしゃった。翼の数は普通に二枚なので御前の天使では無いかな? ピンクゴールドの髪は私と同じくふわふわで、外見は人間で言うと二〇代後半だろうか。実におっとりとした印象を与えている。近くに居たら和んでしまうような、そんなお方だ。
「は~い、これでもう治りましたからねぇ? でもでもぉ、暫く安静にしてないとダメですよぉ?」
天使様はぽんぽんと優しくお婆さんの背中を叩き、にっこりと優しげな微笑みを見せた。まるで聖母のような、慈愛に満ちたお顔である。
「あ、有難う御座います、ラファエル様!」
え、ラファエル様? あの熾天使の?
御前の天使の七人(今は六人になってしまったけれど)を除く九階級のうち、頂点に立つ熾天使の四人。
この熾天使の皆様は、民衆にとっては御前の天使よりも馴染み深い存在で、話に聞く「アイドル」と言って良いような存在であり、かなりの知名度を誇っている。
そんなアイドルのラファエル様が何故シュパン村にいらっしゃったのか? これはきちんとお話を伺わねば――
「ふむ……白衣の下はノースリーブの縦縞セーターとタイトスカート、それにニーハイブーツですか。その上中身はおっとりお姉さんだとは。いやはやこれはやられましたな。流石はラファエル様です。属性がこれでもかとばかりに詰め込まれている」
「そうですね……。ガブリエル様はボーイッシュでありながらそのギャップに萌えるようなキャラクターですが、ラファエル様は違います。おっとりとした外見通りのお方なのです。また性格も天然でいらっしゃるのがポイントで、私も滅多に怒った所を見たことが無く、いざ怒った時でも『めっ、ですよ?』とほっぺを突くだけという……これがまた、破壊力があってですね……」
「………………」
私の視覚と聴覚に周りの野次馬など何するものぞと熱弁を振るうシェムハザとシャムシエルを知覚したような気がしたけど、幻覚だったことにしておこう。うん、きっとそうだ。
「お次の患者様はいらっしゃいませんかぁ? あ、本当に具合の悪い方じゃないとダメですよ? おねーさんとお話ししたいからと言って嘘を吐くのは、めっ、ですからね?」
ウィンクしながらそうのたまうラファエル様に、野次馬から「めってされたーい!」と歓声が上がった。なんだこれ、……なんだこれ。
「あ、あのう……ラファエル様?」
「まぁ、可愛らしい女の子ですね。次は貴女ですか? どうなさったのでしょう?」
おずおずと手を挙げて話しかけた私に、ラファエル様だけでなく野次馬たちの視線も集中した。き、気まずい。「聖女様だ」「聖女様とラファエル様のツーショット……尊い……」「俺、二人の間に交ざってきて良い?」など色んな声が聞こえてくる。ちなみに何があったのかは知らないけれども、最後の男性はシェムハザとシャムシエルに腕を掴まれて何処かへ連れて行かれた。……これも見なかったことにしよう。
「いえ、あの……わたくしは具合が悪い訳では御座いませんが、ラファエル様にお伺いしたいことが御座います」
「まあ、何でしょう? ……お嬢さんは聖女と呼ばれていますが、もしかして……?」
「はい、申し遅れました、エーデルブルート王国の聖女が一人、リーファと申します。ラファエル様は、何用でこちらにいらっしゃったのかをお伺いしても宜しいでしょうか?」
私がそう自己紹介と共に用件を伺うと、ラファエル様は「まあ、まあまあまあ!」と両手を合わせて感激してから、俄に私の右手を両手で握りしめた。
「これも神のお導きでしょう! 聖女リーファ、わたくしは貴女を探しておりましたのです! 貴女をお救いする為にここまで参りました!」
「す、救いに、ですか……?」
大袈裟に感動しながら顔を近づけるラファエル様に、私は鼻白んでそう聞き返すしか出来なかったのだった。
◆ひとことふたこと
シェムハザとシャムシエルが一緒になるとカオスになります()
女の子同士の間に挟まるのは大罪だからね、仕方ないね。
ラファエル、と言いますか、熾天使の四人はとてつもなく有名な存在ですよね。
ミカエル同様、世界中で親御さんからラファエルのお名前を貰っている方も多いと思います。
名前の意味は「神が癒したもの」で、それが示す通りに医療に長けた天使です。
そんな彼女ですが、リーファちゃんとどう関わっていくのでしょうか?
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次回は明日21時半頃に更新予定です!