第一五二話「婚期とか言われても困る」
これより第四章になります!
本章もよろしくお願いいたします!
秋も深まり、シュパン村の各家庭での冬支度も着々と進んでいる。
私も色々と揃えるべく、リリが店番をしている雑貨屋を訪れていた、んだけど……。
「うーん……、これなんて良いかも?」
目の前のリリは、どういう訳なのか髪飾りを手に取り、私の顔とを交互に見比べている。えーっと……?
「リ、リリ? 今日は冬に使う燃料とか、その他諸々を買いに来たんだけど……」
「え、いいじゃない。リーファちゃんで着せ替えさせてよ、可愛いんだから」
そう言って「これかなー?」と店の売り物である暖色系の髪飾りを漁っている。またか。またなのか。
ついこの間、「女性として生きていく覚悟が出来た」と私に打ち明けられたリリは、その時こそショックを受けた様子だったけれど、「もう男に戻る気が無いならとことん可愛くさせてやる!」などと意味不明な供述をしており、休日は一緒にベンカーの町で服を見たり、こうして自分の店の売り物を宛がったりしてくるのだ。いや、別に嫌な訳じゃないんですけどね……。
「リーファちゃん、いつも同じワンピース着てるでしょ? 偶にはお洒落もすべきだと思うの」
「う、うーん、貴族じゃないんだから、そんなことにお金は……」
「国から褒賞金とか貰ってお金沢山持ってるの、知ってるよ? サマエルさんから聞いた」
サ、サマエルさーん! 私のプライバシーを軽々しく話さないで!
「それに、ほら。素材がすっっっっごく良いんだから、もうちょっと外見には気を遣わないと。リーファちゃんなら平民とは言え聖女なんだし貴族からでも引く手数多だと思うけど、選択肢は多い方がいいじゃない?」
「……まだ、結婚とか、全然考えてないんですけど……」
そう呟いた私の顔を、リリは呆れた表情で見つめ、大袈裟な溜息を吐いて見せた。ちょっとその態度、傷つくんだけど……。
「甘い、甘いよリーファちゃん。そんな事を言っていたら婚期を逃すんだよ。私たちは来年でもう一七歳だよ? この年なら結婚してる子だって普通に居るんだから」
「前にも言ったと思うけど、私、殆ど年を取らないんだけどなぁ……。リリもハーフエルフだから人間よりずっと長い間若い姿じゃない……」
そう、私は奇跡を行使する時に神の純粋な神気を受けている為、身体が聖霊に近づいており、もう殆ど年を取らなくなっているのだ。結婚するかは兎も角として、婚期が何時かと言われれば「ずっと」と答えられるだろう。
「リーファちゃん? それでもね、三〇歳にもなってみなよ。外見は若くてもその年齢だけで敬遠されるんだよ? 実際私のお母さんも結婚したのは五四歳の頃だけど、お父さん以外に貰い手が――」
リリのお説教は、ごん、という大きな音で遮られた。彼女の背後からこっそりと近づいていたリリのお母さん、リラさんの拳が頭頂部に炸裂したのである。エルフなので細腕だけど、滅茶苦茶痛そうな音だったなぁ。頭を押さえて呻くリリは、どうやら暫く復活しまい。
「全く、他にお客さんが居ないからってリーファちゃんにあたしの恥を晒してるんじゃないよ。ごめんねリーファちゃん、冬支度の買い物だろう?」
リラさんはエルフらしく色白で細身の綺麗な方だけど、性格はエルフとしては珍しく肝っ玉母さんだ。いつもリリと弟のアデルが悪さをすると、容赦なく拳固が飛んでくる。
「あ、はい。おばさん、精製油を五リットル頂けますか?」
「おや、そんなに買っても、リーファちゃん一人で持って帰れるのかい?」
「いえ、後でシャムシエルに手伝って貰いますので」
菜種などから絞り出し漉してある植物油は水より軽いけど、やはり五リットルともなればそれなりに重くなる。こういう時は鍛錬大好き脳筋天使に頼むのが一番だ。
「はいはい、じゃあお代だけ頂くから取り置きしておくね」
「はい、お願いします。他にはですね――」
その他の細々なものを選んでいる間も、リリは復活しなかった。リラさんの拳固、恐るべし。
◆ひとことふたことみこと
吹っ切れてしまったリリは、どうやら唯一無二の親友としてリーファちゃんをいいとこのお嫁に出すつもりのようです(笑)
リーファちゃんは国に多大な貢献をしているので、城からの褒賞金で貯金の額がとんでもないことになっています。
普段は王都の銀行に預けている為キャッシュで持っている訳ではありませんが、総資産は半端な貴族では太刀打ち出来ないかも知れません。
植物油は圧搾で造られています。材料は菜種や胡麻など、オーソドックスなものです。
シュパン村の近辺には製油工場はありませんが、ディースブルクに大工場がありそこから届けられています。守った甲斐がありましたね。
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