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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一五〇話「はずかしめられた……」

 荒れ(くる)神気(しんき)が砂を()き上げているお(かげ)で、ラグエル様とザアフィエルさんが()っている防壁(ぼうへき)の向こう側は全く(うかが)うことが出来(でき)なくなっていた。()たして『群体(レギオン)』は消え()ったのだろうか。


死霊(しりょう)の反応が消え去りました! 聖女リーファ、(じゅつ)を止めてください!」

「あ、はい!」


 と思っていたらラグエル様が探知(たんち)していた模様(もよう)で、もう片付(かたづ)いたらしい。私は神気をコントロールして、(ほろ)びの奇跡の力を(ゆる)めていく。徐々(じょじょ)に神気が吹き荒れていた場所が(あら)わになっていった。


 そこにはもう『群体』はおろか(まわ)りの建物すら残っても()らず、まさに更地(さらち)、という言葉が相応(ふさわ)しい(なが)めとなっていた。


「とんでもない威力(いりょく)だな……む?」

「え? アザゼル? どうしま……わっ!?」


 いきなり私とサマエルさんの方へ近づいてきたアザゼルが、血塗(ちまみ)れになったボロボロの上着を(かぶ)せてきた。一体何が……?


「気付いていないのか。服がずり落ちているぞ」

「え? な……え?」


 本当だ。私のワンピースの胸元(むなもと)部分がずり落ちているっ! 何が原因かと思ったら、(むね)()(たい)らになってる! 神気を使いすぎたから(もど)ったのかっ!


「ありゃ、リーファちゃんが完全に男の子に戻ってるね。声も少し低くなってる」

「そう言えばそうですね。なんとも(なつ)かしい声です」


 え、そうなの? 自分の声って自分ではっきりと聞くことが出来ないからよく分からないけど、サマエルさんとシャムシエルが言うならそうなんだろう。この中で男時代の私に会ったことがあるのはシャムシエルだけだけどさ。


「そう言えば、少し低いですね……。と言いますか、男に戻っても姿(すがた)(あま)り変わっておらず、可愛(かわい)らしいのですね」

「それは言わないでください、ラグエル様……」


 しげしげと私の様子(ようす)(なが)め回しているのは、この御前(ごぜん)の天使様も魔術師であり、こういったものに興味(きょうみ)があるからなのだろう。とは言え胸を見られてしまうのは()ずかしいので、大人しくアザゼルの上着を被っておく。


 それに、後ろには兵士の(みな)さんもいらっしゃるので男だとバレる(わけ)にはいかない。後始末(あとしまつ)とかは皆さんにお(まか)せして、私は大人しくしていようかな。


「本当に男の子だったのですね……。ちょっと(さわ)らせて(もら)っても良いですか?」

「あ、私も……。(にわか)には信じられなかったですし……」

「うひゃあ! ちょ、ちょっと、ラグエル様! ザアフィエル様! くすぐったいです!」


 ちょ、ちょっとこの状態(じょうたい)で女性二人に胸をまさぐられるのは、なんというか、その、色々マズいので止めて()しいんですけど!?


「おう、戻ったぞ。死霊が跡形(あとかた)も無くなっているのを確認出来た。リーファも皆も、ご苦労(くろう)だったな。……何やってんだ?」


 『群体』の存在(そんざい)していた場所を確かめに行っていたメタトロン様が、戻ってくるなり私たちをジト目で見つめてきた。そりゃそうなる。


「さて、諸々(もろもろ)終わったが……全員ボロボロだな。事後(じご)の作業はここの兵たちに任せて、前線で()()っていた俺たちは帰って休ませて貰うとするか。早く(つばさ)を治さねぇと神国(しんこく)にだって帰れやしねえ」


 私の「助けてください」と(うった)える視線(しせん)無視(むし)して、メタトロン様がそう切り出した。まぁ、メタトロン様が戦闘(せんとう)指揮(しき)()って居たとは言え、ここは神国ではなくエーデルブルート王国だからね。下手(へた)にこれ以上口出(くちだ)しする(わけ)にはいかないのだろう。


 それに、元はと言えば自国の天使が起こした騒動(そうどう)だ。神国の事実上トップであるメタトロン様にとっては、頭の痛い事後処理(しょり)が他にも待っていそうだ。


「聖女リーファ、身体から少し神気が()れていますね。聖霊(せいれい)に近づいているようですので、(しばら)く奇跡の行使(こうし)(ひか)えるようにしてください」


 私の胸からやっと手を(はな)してくれたラグエル様は、(まゆ)(ひそ)めてそう(くぎ)()した。そう言えば、ちょっと身体が光っているな。時間が()てば戻るとは言え、完全に聖霊化してしまわないかと不安になってしまう。


「は、はい。ただ、大怪我(けが)をしている方がいらっしゃったら、流石(さすが)に……」

「死にかけているような方でない(かぎ)りは、私と力天使(ヴァーチャーズ)ザアフィエルが神術(しんじゅつ)で何とかいたします。いいですね?」

「……はい」


 しっかり(ねん)を押されてしまった。大人しくしています、はい。




「ふぅ……」


 迎賓館(げいひんかん)に戻った私は、一人大浴場(よくじょう)(よご)れきった身体を洗っていた。右大腿部(だいたいぶ)の傷はラグエル様の神術により完全に(ふさ)がっているので、お風呂に入ること自体は問題無い。血が足りなくてまだふらつくけれども、それはよく食べて寝る他に解決(かいけつ)(さく)が無いので、時間との戦いになる。シュパン村に帰れるのはまだまだ先かな……。


「それにしても――」


 心臓(しんぞう)のある位置(いち)を押さえる。うん、確かに私は生きている。


 どうやら私は、一度死んだらしい。だとしたら何故(なぜ)復活(ふっかつ)することが出来たのだろう?


 復活出来た直接の理由は、私が天に()された時に我等(われら)(しゅ)がラグエル様へ奇跡の力を(さず)けてくれたから、というのは(うかが)っているけど……。


(いく)ら何でもタイミングが良すぎる。私一人を生かす(ため)に主が授けてくれたとしか思えない」


 あの時私は完全に息絶(いきた)えていたらしい。だとしたら、私は神の御許(みもと)へ送られたのではないだろうか?


 でも、そんな記憶(きおく)は無い。いや、うっすらと何かがあったような、そんな記憶はあるのだけれど。はっきりしなくてもどかしい。


「……それに、〈メギドの丘(ハルマゲドン)〉を行使していた時に聞こえた声」


 もしかして、あれは、あの声は――


「おー、ここが迎賓館の大浴場かー。神術結界(けっかい)()いてくれたんでやっと入れるよー。……と、あれ? リーファちゃん。先にお風呂(ふろ)入ってたんだ?」

「おや、本当ですね。聖女リーファ、ご一緒(いっしょ)させて(いただ)きますよ」


 考え()んでいた私の耳に、サマエルさんとラグエル様の声。って……ちょっと! 今の私は性別が微妙(びみょう)なので「リーファが入浴しています」って看板(かんばん)()げておいたんだけど!? 完全に無視してるよね!?


「な!? え!? 二人とも、ちょっと待ってください! 私、今身体が――」

「ああ男に戻ってるってこと? 別にいいじゃんいいじゃん。アタシは自宅のお風呂で一度見たことあるし」


 そ、そういう問題じゃないんですけど!?


「ええ、私は(かま)いませんよ。男性の身体というのも興味(きょうみ)深いですし……」

「ひっ!?」


 ラグエル様の(ひとみ)(あや)しい! 良い機会(きかい)だからといって男性化している私の身体を調べ()くすつもりじゃないだろうか? やっぱりこのお方、根っこは私と同じ魔術師だー!


「聖女リーファが入っていたのですね……、どうしましょう、一旦(いったん)出た方が良いのでしょうか」


 一人、常識人(じょうしきじん)ぽいザアフィエルさんが(こま)っている。よし、頑張(がんば)ってください! その流れで話を持っていってください!


「いえ、リーファは女性の身体でしたし、私たちと一緒にお風呂へ入っておりました。ですから気にすることは無いかと」

「そうですか、それなら気にしない事にいたします」


 ……シャムシエルが余計(よけい)なことを言ったので、ザアフィエルさんは「ま、いっか」という感じで身体を洗い始めた。こ、この空気を読まないポンコツ天使シャムシエルめ!


 この後、女性四人に(かこ)まれてた私は私の私を(しず)めるために大変な思いをしたのだった。


 特にラグエル様、着痩(きや)せする身体を堂々(どうどう)(さら)しながら私の身体をまさぐるのは()めて欲しかったです……。


◆ひとこと


ハーレム状態のリーファちゃん。うらやましい。

それはそれは精神統一の修行にはなったようですが、「もうやりたくない」と言っていたそうな。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完全に男に戻っても旨見られるのは恥ずかしいのか……そっかそっか〜
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